233の試運転
小田博文、鉄道が大好きな高校三年生。周囲からは『オタちゃん』と呼ばれている。
僕の将来の夢は電車の運転士。だから進路は鉄道会社への就職を希望した。そして見事に内定!!
それ以外にも、二学期に入ってから僕の悪口も聞かなくなったし、超が付くほどの大企業に内定ということで、見直したという声も。正直、内定企業で扱いが変わるのは奇妙だけど……。
それはともかく仙石原さんから貰ったビーズ万歳!!
と、いうわけで僕は夢に一歩近づいた。ただ、これは僕の幸福の単なる序章に過ぎなかった。
夏ころから、僕はある女の子のことを考えたり、いっしょにいるとなにか胸がくすぐられるように苦しかった。珍しい電車が来たときとは違う、沸き上がる感情ではなく、軽く胸を焦がされるような感覚。
あ〜ぁ、なんか黄昏れちゃうなぁ……。
なんだろう? この浮かれた気分は。
知りたい、その正体を。
新型車両導入よりワクワクする!
「小田くん! 来たよ!」
「あ、は、はいっ! あれが噂の!」
冬の澄んだ空の下、僕は大甕さんのお父さんと今春営業運転を開始する東海道線の新型車両の試運転を撮影に、茅ヶ崎市内の踏切の脇で一眼レフを構えていた。三脚は不使用。駅に近く、目の前に大手陶器メーカーの工場がある。
やっぱり電車もワクワクするや。
電車の撮影をした後、大甕さんのお父さんと別れ、僕は教習所へ行った。
教習所に着くと、仙石原さんと大甕さんが長椅子に掛けて談笑していた。偶然予約した時間が僕と同じだったのだろう。
「おっすオタちゃん!」
「電車撮れた?」
「どうも、撮れたよ」
僕は基本的に女子は苦手だけれど、この二人とはすっかり普通に会話できるようになっていた。それは僕にとって大きな進歩だかれど、なによりこの二人の人の良さが僕を安心させているから会話ができる。つまり、二人のおかげ。
技能教習を終え、これから学科教習を受講する二人と別れ僕は教習所の出口の自動ドアに差し掛かる。
「小田くん?」
この清楚な声は石神井さん? 瞬時に情報を処理して振り返る。
「あ、こんにちは。石神井さんも教習だったんだ」
「はい、私は学科の方を」
清楚な容姿に女神のような笑顔で答える彼女に反応し、僕の心拍数は異常に上がって緊張してきた。この人と接するといままでの人見知りの緊張とは違う高揚がある。かと言って珍しい電車が来たときの興奮や発作とも違う。この気持ちの正体がわからない。
「小田くん、私、そろそろあのこと、言おうと思う。卒業試験が終わって自由登校になると顔合わせる機会が少なくなっちゃうから」
その言葉に一瞬戸惑った。
「そうだね、じゃあさ、少しお茶しよう?」
自然とそういう流れになった。いままでなら自ら誰かをお茶に誘うなどなかったのに。でも石神井さんの気持ちを考えると、少し話をしてみようという気持ちになった。




