これからもずっとよろしくね!
俺は未砂記から封筒入りの年賀状を渡された。年賀状という表現は合っているだろうか。さっそくハート形のシールで施された封を解き、中の手紙を読む。
「う〜、なんか緊張するなぁ、手紙って」
頬を赤らめながら、内股で両手を擦り合わせる未砂記。きっと一所懸命に書いたんだな。
「じゃあ読まないでおこうか?」
「ううん、読んで」
すると未砂記の頬は更に赤くなった。
「うん、分かった」
俺の右隣に座る未砂記の目線が不安定だ。俺までおどおどしていても仕方ないので、少し遠慮がちな仕草で読んでみる。
◇◇◇
優成へ
あけましておめでとう!! 今年もよろしくね!! いっしょに住んでいて年賀状を書くのもおかしいので、特別に手紙を贈ります。
そもそも、いま私たちがいっしょに暮らしているのは、優成にとってとてもつらいことがあったからだよね。男の子の優成にとって父親が尊敬できないのは、きっとつらくて、切なくて、悲しくて、どうしたらいいのかわからなくなっちゃうのかな? でもきっと、酷い生活を強いられただけじゃないから、余計に苦しいんだよね。
私との生活はどうかな? 少しはキミを幸せにできたかな? そうであれば、私はキミを好きになってよかった。ずっと好きでよかった。
優成と同じ屋根の下で過ごすのは、冬休みが終わる前の日までだね。学校でも会えるし、家も住所が似通うほど近いけど、やっぱりさびしいよ。でも、二人で過ごしたこの日々のこと、絶対に忘れないでね。絶対だよ?
では、これからもずっとよろしくね!!
◇◇◇
表向きは元気に振る舞うけれど、実は淋しがり屋の未砂記らしい文章だ。
それにしてもやっべぇ、超嬉しい。ドキムネムネ(胸ドキドキ)。
「読み終わった?」
「あぁ、でさ、俺、未砂記に年賀状送っちゃった。同じ家に住んでるのに郵便で」
言うと、未砂記が優成らしいなと言わんばかりにフフッと微笑した。俺は未砂記の決して馬鹿笑いしないこの表情がけっこう好きだ。
「ふ〜ん! そっか! 可愛い優成ぃ」
言われて頬が少し赤くなったのが自分でわかった。
「だ、だって」
俺は未砂記に何かに対して同意を求めた。そのなにかが、親しい間柄だからとか、それ以外の脳裏にモヤッとしか浮かばないなにかなのか、ハッキリしない。
「優成目線がハッキリしなぁい、カァワイィ!」
未砂記はウィンクして俺の視線を追いかけてきた。更にやっべぇ、もう我慢できねぇ、犬だ、今の俺、犬だ。
気が付くと俺は未砂記を押し倒していた。あぁ、駄目だ、俺、駄目だ。なんか舞い上がってる。息が荒い。
「初日の出見に行くまで起きてられる?」
未砂記は押し倒されたのに、特に驚く様子もなく俺に問い掛けた。
「あ、うん」
「じゃあ、いいよ」
それからは無我夢中で良く覚えていない。でも、俺が未砂記に被さってからすぐに彼女は痛みに耐え兼ね泣き叫んだのは覚えている。クリスマスの夜とは違う、ただ痛みに耐えただけの涙。それで俺は、更に加速した。
最低だ。俺、マジでなにしてんだ……。
馬鹿だ、俺、本当に畜生同然だ。ただ自分の欲求を満たすためだけに、その欲求の受け皿に未砂記を利用したんだ。それを未砂記は悲痛に泣き叫びながら、俺の汚い欲求を必死に受け入れ解消してくれた。
なんなんだよ俺、未砂記に散々救ってもらって、本当に幸せにしてもらって、今度は俺が幸せにするって約束したのに、それを、それをこんな一時の欲求のために……。
「寝ちゃ、ダメだよ?」
俺がだらし無く剥がした服を纏い、無惨な姿で、声を掠らせ、こんな俺と初日の出を見に行こうという意志を変えないでいる。
どう返せば良いのかわからない。言葉が見つからない。
少し黙り込み、ようやく俺は一つの言葉を見つけた。
「俺、一方的にこんなことして、本当に未砂記を幸せにできるのかな?」
すると未砂記は急に柔らかい表情になり俺に微笑んだ。
「馬鹿だなぁ、私が魅力的過ぎるのがいけないんだよ。優成はなにも悪くない」
そんな冗談で俺を許してくれた。どこまでいいやつなんだよ、本当に……。
「ごめん、本当に、もう絶対しないから」
「え〜ぇ、襲われないなんて女としてやだ」
「じゃあ、適度に」
「そろそろ初日の出、見に行こっか」
辺りは少し明るくなっていた。初日の出を見るべく俺と未砂記は海へ向かった。
「寒っ!」
外は寒い、砂浜はもっと寒い。なのにサーファーたちは波乗りをしていた。そして6時52分、大勢の人が集まった湘南の海に、葉山の双子山辺りの影から丸い、オレンジの光が昇った。
「今年も良い年になりますように」
未砂記はまばゆい光に向けて祈った。俺も心の中で祈った。
この幸せが、ずっと続きますように。




