休み時間、ちょっとしたおしゃべり
宮下の親友、オタちゃん。鉄道オタクだからとクラスメイトから偏見の目で見られている。宮下と同じくいつも気が弱っているように見えて、ぶっちゃけかなり心配。こういう人を見かけたとき、私は放っておけなくて、つい声をかけてしまう。もしかしたらそれは余計なお世話かもしれない。だけど昔の出来事がフラッシュバックして、もう二度と同じことを繰り返したくないと願う気持ちが強くなって、大丈夫、私がついてるからなんて勝手に思いながら積極的に声をかける。もしそれが相手の力になれていたなら、それより嬉しいことはない。
「オタちゃんビーズやってくれてる?」
「うん。でも一日一粒って……」
「用法用量を守って正しく使ってね! でさ、オタちゃん最近どう?」
「どうって」
「なんかさ、オタちゃんも宮下も、いつも無気力な雰囲気漂ってるからさ、調子悪いのかな〜なんて思ってたりするんだぁ」
「うん、調子はあんまり良くないかも」
「やっぱそうか〜。ストレスとか?」
オタちゃんが不調な理由は大体わかる。心ないクラスメイトの悪口が彼の心を深く傷付けているのだろう。私はオタちゃんを教室から廊下のフリースペースまで引っ張り出した。フリースペースはいわば屋内広場のような感じで吹き抜けになっており、そこを通れば同学年の各教室にショートカットできる。
「最近さ、イジメで自殺する人多いじゃん。私いっつも思うんだけど、イジメられる原因ってなんだと思う?」
やば、話の振りかたがダイレクト過ぎた。
「んと、それは、その人が他と違うから、かな」
「あぁ、そうかもね。普通と違うだけで攻撃してくる人って多いよね」
「う、うん」
「でもそれってつまんなくない? そうやって狭い視界でしか物事見れない人たちって。私はむしろ普通の人なんかつまんないと思うから、個性的で変わってる人のほうが好きだな」
「で、でもやっぱりキモいんじゃ……」
「何が?」
「オタクとか、挙動とか色々……」
「あー、うん、私も前はキモいって思ってた。だけどそれは周りがそういう風に言うからそう思うようにさせられただけなんだって気付いた。これは勝手な推測だけど、挙動不審になるのって周りが寒い目で見るから本人の自信がなくなっちゃうのかなって。私も寒い目で見られたら辛くて周り気にしちゃうもん」
私の横で相槌を打っているオタちゃんはいま、どんな想いなんだろう。
「ってかさ、勝手なこと言うヤツらはシカトしてればいいんだよ。オタちゃんの趣味って別に危険な趣味じゃないし、誰に迷惑をかけるわけでもないからさ。それでも辛かったら私とか宮下になんでも遠慮なく言えばいいよ」
「うん。ありがとう」
「いいっていいってぇ! パシフィックガーデン一室でいいよ!」
パシフィックガーデンは、目の前に海がある国道沿いのリゾートマンション。地元出身の国民的ミュージシャンが楽曲のモチーフにしたパシフィックホテルの跡地である
「は、はぁー!? そんなの買えるわけない! だから女って奴は……」
「冗談だよ! グレートバリアリーフの島ひとつでいいから!」
グレートバリアリーフはオーストラリア北東部に位置する常夏の珊瑚礁島群。透き通る水面と珊瑚の砂浜は正に画に描いたような楽園だ。
「そっ、そっちの方が高いよ!」
「えっ、そう? まぁ人生お金じゃないって!」
「いやそれ貴女に言いたいよ」
「フフッ、真に受けてるよコイツ……」
「何か言った?」
「ううん、なんでもない! じゃあ島よろしくね!」
「いや、だからそれは!」
なんということだ。まさかあのビーズ、島が買えるくらい希少価値があるのか? だから仙石原さんの要求は妥当だったりするのだろうか。
帰宅後、僕は怪しいビーズを用法用量を忠実に守り、一粒だけテグスに通した。
お読みいただき誠にありがとうございます!
拙作ではオタちゃんが元祖草食系男子で、後に登場する草食系男子のベースとなりました。