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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 冬

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知りたいこと、知られたくないこと

 年末ということで、俺と未砂記は仙石原家の大掃除をしていた。俺は脚立を使い、外壁や窓を磨き、未砂記は部屋を掃除。きのうは雨が降って足場が悪い。


 不安定だなぁ、足場がキュッキュいってる。滑りそう。


 キュウィン!


「ぬほあっ!?」


 カンッ! ズポッ! ドスン!


「とぅぉああ!? ……痛い、ケツ打った」


 足を踏み外して脚立から滑り落ちた。怪我はしていない。


「うわ、大丈夫?」


 見てたのかよ。またダッセェところ見られた。


「あぁ、まぁ」


「それにしても面白い落ちかたしたね!」


 うわ〜、嬉しそ〜、コイツ、俺の不幸を喜んでやがる。オマケにムフフみたいな目で見やがって。クッソ〜、覚えてろ?


「まぁ落ちたところで一段落して、お昼にしよう」


「はい」


 昼食の後、俺は再び窓ガラスを磨き、それを終えて未砂記と家の中の掃除を始めた。引き出しの整理をしていると、『優成へ』と語尾にハートマーク付きで緑のラメ入りペンで宛名書きされ、ハート形のシールに封をしてある横長で水色の封筒が出てきた。未砂記から俺に手紙?


「未砂記、これは?」


「うわぁぁぁっ!! まだ見ちゃダメ!!」


 なんなんだ? 急に血相変えて、まさかラブレター?


 おっと、今度は日記帳を発見。意外とマメなんだ。


「じゃあこの日記は読んでいいか?」


「あぁ、それならいいよ」


 あっさり承諾。さっそく開いてみる。


「今日から三年生!! 高校生最後の学年でキノコ(宮下)と同じクラスになれました! もう二度とない告白のチャンス!! ふぁいと!」


 こんな感じで四月の新学期初日から始まり、現在までの記録がルーズリーフで綴られている。


 更に整理を進めると、また一冊日記帳が出てきた。こちらは普通のキャンパスノートだ。


「あっ、これはちょっと……」


 また少し焦った表情を見せ、閲覧を拒んだ。


「あぁ、わかった」


「ごめんね」


「いや、俺のほうこそ、引き出しの整理なんかしちゃって、悪かった。風呂掃除でもするよ」


 悪いなぁという表情で謝る未砂記。むしろ悪いのは俺。誰にだって見られたくないものはある。



 当然だが、恋人同士という特別な関係であっても、それを侵す権利はない。いや、権利とかそういうことではなく、本能的に引く、というより理性が覗きたい気持ちを沸き立たさせない。それが人間のあるべき姿だろう。


 その面に於いて俺は、自己が生きとし生けるものの中で『人』に匹敵、若しくはそれ以上の存在であることを証明していると思う。逆に言えばそれを抑えられない人、若しくはそこまでの発想に至らない人は、俺の中の定義では人とは呼べない、それに匹敵しない存在だ。一言で言えば、人間性に疑問を感じると言ったところだ。


 しかし、アリストテレスが唱えた『全ての人は生まれながらにして知ることを欲する』という言葉があるし、確かにそうかも知れない。『知る』ことを欲しない限り、人類としての発展は望めないが、ときにはそれを求めない、それも人類として内面的に発展へ導く術だと俺は思う。


 知るべきところは知る、知るべきでないことは知らない、その双方を履き違えず、常に良い方向へと持って行こうとすれば、この世界はより発展し、均衡を保てる。しかし現代日本の場合、組織の偽りや隠蔽いんぺいといった『知らせないようにしようとする行為』、マスコミやネットユーザーなどの『知らせようとする行為』が互いに暴走し、均衡が崩れていると言い切る自信が俺にはある。


 未砂記の日記一つでこんなに色んなことを考え、しかも、最初に求めていた結論とは何か違うものに辿り着く俺。いや、結論など求めていないから最初とは違う方向にズレる。そもそも俺が考えていたことの主題はなんだ?


 わかった、主題は『知る』か。


 結局、自分で暗中模索しながら『知る』ことを欲しているようだ。


『目の前のそれを知ろうとしないことは、自分の別の気持ちを知ること』


 これが結論。


 ついでに『知ろうとしない』には大概『面倒』という言葉をはらむ。


 そんなことをボ〜ッと考え、いつの間にか風呂場に移動し掃除を始めると、なにやら鈴の音が聞こえてきた。


 シャンシャンシャン。


「にゃ〜」


 久々の登場、ネコという名の猫だ。


「こんにちは〜」


「……」


 シャンシャンシャン。


 俺が挨拶をすると、ネコは無言で横を掠めた。

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