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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 冬

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聖なる夜に

 猪苗代に行って、進路のことでドタバタした秋がいつの間にか過ぎ、季節は冬。俺も未砂記も進路が決まった。


 俺の家の改修工事も終わり、三学期が始まるころにはまたアイツを除く家族との生活が始まる。

 

「ぐはぁ~、マニュアル難しい」


 俺は就職することになり、早めに車の免許を取らなければならないので、ほぼ毎日教習所へ通う日々が続いていた。


「男はマニュアルだとかクールに言ってたくせに」


「うぜぇ!! このオートマ女!! 見てろよ!」


「何を見てればいいのか分かんないけど、良かった」


 未砂記はホッとした笑顔で言った。


「何が?」


 その表情で俺に目を合わせた。


「優成、前より明るくなったよね」


「え? そう?」


「うん!」


 そう言われてみればそうかも知れない。少し肩の荷が軽くなったような感覚はある。本当なら今ごろ、内定を獲得したとはいえ、社会人になるにあたっての不安と憂鬱で一杯であっただろう。まぁ、全くないといえば嘘、というより大アリだ。やはり未砂記には人を元気にする力がある。


 仙石原家を出て、二人で横浜に出かけた。


 ランドマークの展望台は60分待ち、プラザでのコンサートはギャラリーが多過ぎて出演者が見えない。立ちっぱなしで次第に腰が痛くなってきた。


 しかし穴場の夜景スポットを知っていたり、たまたま通りかかった所でやっていた大道芸を見られたので、それなりに楽しめた。


「ぐはぁ~、腰痛い」


 未砂記は呆れた表情をした。


「疲れるの早いなぁ」


「でも、楽しかった」


 未砂記と付き合う前の俺の生活といえば、ただ目の前の課題に追われ、その課題が終わってもまた次の課題が来る、その繰り返しで毎日が憂鬱だった。課題はいまでも山ほどあるが、少し力を抜いても良いと彼女が教えてくれた。


 未砂記の家に戻り、ビーズを一粒通し、さっさと風呂に入り、リビングでシャンメリーを飲む。


「ねぇ優成、今度二人でクリスマスを過ごせるのはいつになるだろうね」


 そうだ、俺は来年就職してしまう。クリスマスをこうして二人で過ごせるとは限らない。そう考えると淋しい。俺がこんな気持ちになるなんて、彼女の存在は、いつの間にかこれほどまでに大きくなっていた。


「さぁな、でも来年も、いっしょに過ごしたい」


 何かもっとうまい言葉はないのか? キレの良い頭脳も語彙力ごいりょくもない俺には、これが一瞬で思い付く精一杯の台詞だった。そもそも一瞬で返事をする必要もない、少し間を置いても構わないのだろうが、気持ちが焦ってしまった。


「うん! そうだね。私もいっしょがいいな」


 今宵はクリスマス、部屋は薄暗い、そんな条件が揃ってか、まがい物の俺も素直な気持ちになれた。すると俺の体は自然に未砂記に寄り添い、抱き寄せていた。


「優成ぃ、二度目だね、こうしてくれるの」


「あぁ」


 一度目は、末砂記が俺に気持ちを告白してきたとき、衝動的に抱きしめたことがあった。


「メリー、クリスマス」


「Yes,Merry Christmas!  優成。初めてだから、優しくしてね」


 同意を得た俺は、未砂記が纏っている衣を抱き合いながらゆっくり剥がしていった。彼女の華奢きゃしゃな二の腕は、もう少し強く抱きしめたら壊れてしまいそうな感触だった。


 やべぇ、可愛すぎる。


 未砂記の一連の動作は初めての割にかなり積極的だった。


「あ~あ、傷付いちゃった」


「未砂記も楽しんでたろ? お陰で首筋と下が」


「だって、ずっと好きだった人にやっと抱いて貰えたんだから嬉しいじゃん?」


 そっか、コイツ、ずっと俺のことを。


 俺なんかのどこが良いのだか。と、つい自虐してしまう。


「ねぇ、優成はいま、幸せ?」


 重なり合ったまま天井を見つめる未砂記が、小さな谷間に埋もれて何も見えない俺に問いかけた。そのとき少し、彼女の鼓動が早くなった気がした。


「あぁ、いままでない程に」


 幸せなことばかりとは行かないなど、容易に想像がつく。またきっと何かが襲って来るのだ。でも二人ならそれと闘い、乗り越えられる。


「優成のこと、これからも幸せにするね」


 それはこっちの台詞だ。情けないな、俺、女の子にそんな事言われるなんて。


「俺も、未砂記のこと、幸せにする」


 未砂記は微笑した。


「私はいまでも十分幸せだよ?」


「じゃあもっと幸せにする」


 すると未砂記はしばらく黙り込んだ。俺は「滑ったかな?」とか考えて気まずくなったと思ったとき、その華奢な腕で力いっぱい、けど少し力が抜けた感じで抱きしめられた。ふと顔に目をやると、いつも元気な彼女から、やや大粒の涙が溢れ出ていた。

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