こうして私は
「ねぇ、なにそれ?」
「償うための道具だよ」
彼は小袋のジップを開けると、躊躇いと覚悟の間を置き、上を向いて中身を一気に飲み干した。
「本当に悪かった。これで許してもらえるなんて思ってない。けど、これしか思いつかなかった」
勇一の手は震えていた。こいつは、毒を飲んだんだ。
「ううっ、うぁっ、あああ……」
毒が回ったようだ。悶える勇一を見て、私はふと我に戻った。
「だめ!! 死んじゃだめ!!」
「いいんだ! 君の絵里の、君の姉さんの苦しみに比べれば!!」
「だからって、あなたが死んだってしかたないの!! 早く吐いて!! 海水いっぱい飲んで!!」
言って私は勇一を無理矢理海へ引きずり込み、顔を突っ込んで窒息しない程度に間を置きながら海水を飲ませた。私は一人でその場を離れ、近くのコンビニにある公衆電話から救急車を呼んだ。
勇一は一命は取り留め、私は後日、彼が入院する病院を訪れた。
「どうして僕なんかを助けたんだ?」
「だって、死んだって姉貴に謝罪したことにはならないから。本当に悪いと思ったなら、ちゃんと生きて姿勢を見せて欲しい」
「君、小学生なのに立派だね」
私は5分で病室を去り、誰もいない家に戻った。なぜかふと自分の部屋の机の引き出しを開けた。開けてみるとそこには身に覚えのないビーズのセットがしまってあった。
「なんだろ?」
そのビーズのセットには手紙が付いていた。これは姉貴からのプレゼントらしい。さっそくその手紙を読んでみる。
「未砂記へ。このビーズには不思議な力があります。少なくとも私はその力を実感しました。それは……中略……でも、もしこのビーズでつくった作品を壊したり無くしたり、悪用したら……」
私はこのビーズに秘められた凄い力と、それに伴う絶大なリスクを知った。だからこのビーズを誰かにあげるときは絶対に信用できる人に限って渡すと決めた。
◇◇◇
あれから7年経った現在、勇一は会社員として働いていると、姉貴の友人を介して聞いた。しかし、もう一人の不倫の張本人である母は未だ消息が掴めないままだ。
優成に一通りの過去を打ち明けた、二人きりの部屋。
「ってのが私の過去かな」
「うわぁ、なんだか俺の現況なんか屁でもないな」
「そうかな? ま、背負ってるものは人それぞれだよね!」
◇◇◇
俺の彼女、未砂記の過去は俺の近況に比べればかなり壮絶だ。こんな過去があるなら性格が暗くなるどころか人間不信にもなりかねない。しかし、少なくとも彼女は俺と知り合った6年前、中学一年生から現在に至るまで人一倍明るい性格と窺える。そんな彼女とは対照的な、口数少ない俺をなぜ好きになったのだろうか。
「あの、未砂記って、なんで俺のこと好きに?」
「好きになったからだよ!」
即答! だが答えになってないような。
「いや、だからなんで」
未砂記は少し困った顔をした。もしかして、よく考えたらやっぱり俺のことは好きじゃなかったとか?
「う〜んとねぇ、好きになることに理屈なんか要らないよ。でも敢えて言うなら、ちゃんと私の相手をしてくれるからかな」
「えっ、未砂記、色んな人と話してんじゃん」
俺が言うと、彼女は再び困り顔になった。何かまずかったのだろうか。
「あの、なんか俺、まずいこと言ったかな」
「ううん、そんなことないよ。でも好かれた理由は自分で考えてね!」
「自分で考える? 好かれた理由を?」
「そう! 自分でねっ!」
う〜ん、なんだろう、さっぱりわからん。未砂記の言う通り、理屈じゃないのかもな。




