姉貴が焼いた最後のクッキー
夏休みがそろそろ終わる。父親は仕事のために赴任先の大阪へ戻った。家に残ったのは私だけ。この頃、ようやく姉貴がいなくなった実感が沸いてきて、孤独感に浸り始めていた。
私、独りぼっちになっちゃったんだ……。
そんな私を励ましに、ヒタッチが来てくれた。
「私がいるからね」
「うん! 大丈夫だよ! ありがと!」
強がるしかなかった。でも、ヒタッチの存在は本当に心強かった。
そこで私は、二人に姉貴のクッキーを勧めた。
「これ、姉貴が焼いてくれたクッキーなの。良かったら食べて」
「でも、これがお姉さんの最後のクッキーなんだよね? なんだか食べるの悪い気がするな」
「ううん、一人じゃ美味しいうちに食べ切れないし、姉貴もみんなで食べてもらったほうが嬉しいと思うから」
「うん。分かった。じゃあ、いただきます」
ヒタッチと同時にクッキーをかじった。
「このクッキー、優しい味がする。未砂記への愛情がいっぱい篭ってるんだね」
私はその瞬間、クッキーの風味に刺激され、溜め込んでいた涙が一気に溢れ出てきた。
「姉貴、なんで、なんでだよぉ……」
その泣き方は、感情を表に出しやすい私にしては静かだった。
「未砂記……」
「へっ!?」
ヒタッチは私を抱き寄せ、頭を黙って撫でてくれた。少し気分が落ち着いた。
「未砂記、こんなことしかできなくてごめんね」
夜、ヒタッチは帰り、私は再び独りぼっちに。そのとき、家の電話が鳴った。
「はい、仙石原です」
「未砂記ちゃんだね?」
姉貴の元カレだ。
「あんたと話すことなんかないから」
「海に来て欲しい。謝りたいんだ」
「そんなこと言って、私を殺す気?」
「違う。ただ、未砂記ちゃんに直接謝りたいんだ。だから」
私が殺されれば、姉貴にすぐ会えるかな? そんな気持ちで私は海へ向かった。
静かな夜の海岸。周囲は霞みがかっていて、江ノ島の灯台の光が微かに届く。
「未砂記ちゃん」
勇一は待ち合わせ場所にどんよりした出で立ちでいた。私は息が止まりそうな緊張感で近寄った。
「何? いまさわ」
「君のお姉さんが死んだ原因にはきっと、僕らの愚行含まれてる。だから、妹の未砂記ちゃんの前でその罪を償おうと思った」
「そんなこと言ったって、姉貴はもう戻って来ないよ」
「分かってる」
言うと勇一は、ズボンのポケットから黒く中身の見えない小袋を取り出した。中身は何?




