流星とポッピングキャンディー
俺は家の修理が済むまで埼玉にある親戚の家でお世話になる運びとなった。未砂記からは自分の家で寝食するよう勧められたが、兄弟や親戚でもない高校生の男女が一つ屋根の下で暮らすのはなんだか抵抗があり遠慮した。
家庭の事情で大学に行けず就活する俺だが、就職試験の勉強はあまりしていない。
あぁ、現実逃避してぇな……。
気がつけば8月。今夜は茅ヶ崎のサザンビーチで花火大会。俺は花火観賞のため一時的に埼玉から茅ヶ崎に戻っていた。花火大会は退院した未砂記といっしょに行くことになっている。未砂記も俺もオタちゃん、浸地、石神井さんもいっしょにどうかと誘ったが、気を遣われて二人きりで行って来るようにと断られた。
夕方、未砂記の家で待ち合わせ。
俺は約束の時間ほぼぴったりに未砂記の家を訪ねた。どういうわけか、時間より前には来ないように言われたからだ。とりあえずインターフォンを押して待つ。
「あっ、優成だ。ちょっと待っててね」
インターフォンはカメラ付きなので俺が無言でも向こうからは誰が来たかわかる。
待つこと数分。普通は玄関先でそんなに待たせないと思うが……。
「お待たせっ!!」
ようやく扉が開いた。
ぬほあっ!! な、なんと眩しい!!
俺の目の前には浴衣を纏った未砂記と浸地の姿が。あぁ、にやけて頬が落ちそうだ。
未砂記の浴衣は黄色、浸地はピンクがベース。未砂記に黄色は、外見、性格、イメージにピッタリだが、浸地は少し大人びているので、ピンクの浴衣はギャップがあって意外と可愛い。
「優成久しぶりーっ!! 元気? どう? 浴衣似合う?」
「あぁ、はい、似合ってます」
浴衣だといつもの制服と少し雰囲気違うな。そそられる、帯引っ張りてえ!!
いやいや、そんなことを考えちゃいけない! 理性を保て! そんなことをしたら殺される! 帯引っ張るなんて古典的すぎる! それにしても可愛いなぁ、二人とも。
「なにそのテキトーな返事」
「いや、その……」
口ベタという奴で、感情を素直に出せない。
「二人とも、楽しんできなよ。せっかくデートなんだから」
「いぇす! おふこーす!」
「はい、どうも」
「よし! じゃあ私はオタちゃんと石神井さんと行くから。宮下、未砂記をしっかり頼むよ」
「うん」
俺と未砂記は観光客があまり来ない、地元の人が集まるスポットで花火を見ることにした。しかし、開始時間になっても花火が打ち上がらない。
「あっ、ヒタッチから電話だ。ちょっとごめんね」
「うん」
◇◇◇
「もしも~し」
「もしもし未砂記? ごめんねデートの邪魔して。なんか花火、波が荒いから安全確認で打ち上げ遅れてるらしいよ」
「えっ、そうなん? 分かった! ありがと!」
サザンビーチの花火は海上の船から打ち上げるから、波が荒いと危険なので花火を打ち上げられない。でも、打ち上げ時刻が遅れるってことは終了時刻も遅れるってことだから、優成と二人っきりの時間もそのぶん延びる。ちょっとラッキー!
◇◇◇
待つこと約20分、ようやく花火の打ち上げが始まった。夏の幻とも言えそうな色とりどりの花火たちが、ドンッ、パラパラと普段は何も見えないくらい真っ暗な海岸と霞んだ夜空を音と共に華麗に彩る。俺はただ、未砂記の左手を握りながら花火に見入っていた。
無数のポッピングキャンディーのような火の粒たちが、ジメジメした夏をノックして、透き通った季節にしてくれる。まるで魔法のようだ。
「「うおおおおっ!!」」
「ヒュー!!」
花火大会の目玉でフィナーレとなる大スターマインが打ち上がると辺りは騒然とし大きな歓声と拍手があちこちで沸き起こった。
「凄いね優成! 感動だよ!」
「はは、素直だな」
「えぇ~、感動しないの?」
「いや、感動してはいるんだけど、言葉に出せなくて」
花火の光が目をキラキラさせた未砂記に反射する。なんかいいな、素直に自分の気持ちを表せるのって、羨ましい。俺の口下手は、気持ちを素直に言葉で表すのが照れ臭いからなのかもしれない。
それにしても花火とは不思議なものだ。空を駆け登る時はたったひとつの小さな流星。ところがそれが宇宙に届きそうな高さに到達すると、その小さな流星は自分の体を大きな音をたて空いっぱいに散らし、大流星群となる。あんなに小さくても、力いっぱい頑張ればあんなに大きくて素晴らしいことができる。もしかしたら俺みたいなちっぽけな人間でも、何かすごいことができてしまったりするかもしれない。
「そっかぁ、言葉に出せなくたって感動できればいいじゃん!」
「だな」
◇◇◇
優成、本当は今の気持ちを言葉にするのが照れ臭いんだろうなぁ。そういうところ、なんか可愛い。
初めて優成と見た海に降り注ぐポッピングキャンディー。そのはじける音はロマンチックと一緒に私の気分をいつも以上に高揚させたのでした。
◇◇◇
夏独特のほんわかした夢幻のような雰囲気と感覚。そして今年はついこの前まで苦手だった未砂記とふたり。
僅か3千5百発の花火大会は荒波で打ち上げが遅れたにも拘わらず、いつもより更に短く感じた。これも未砂記といっしょだからかもしれない。
「優成、そろそろ帰ろっか!」
「あぁ、これから2時間かけて埼玉か、めんどくせ」
「きょうはうちに泊まりなよ。優成の着替え、うちで預ってるんだからさ」
「そうだな。そうさせてもらうか」
「なんかあんまり嬉しそうじゃないね。やっぱり私のこと、苦手?」
「ううん、なんか不思議で。まさか未砂記と付き合って家に泊まるなんて」
「だね! 私もそう思う!」
いま俺は最高に楽しい。そんな楽しい気分をプレゼントしてくれた未砂記やみんなに感謝する。
未砂記の部屋にお邪魔して、俺は今夜もテグスにビーズを一粒通す。
「優成、お風呂先に入っていい?」
「そりゃ勿論。未砂記の家なんだし」
「ありがとう。なるべく早く出るからね!」
そんなに気遣わなくていいのに。俺は未砂記と知り合ってから6年間、彼女の何をみてきたのだろう。こんなに優しくて可愛い女の子、俺には勿体ない。




