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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 夏

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愛情と友情

 翌朝、俺はさっそく未砂記が入院する病院へ行った。部屋は個室だ。


 午前中でも薄暗い病院の廊下。深呼吸をして、病室の扉に手をかけた。


「あの……」


「あ、やっときた。来るの遅いよぉ」


「ごめん、本当に。俺、未砂記と会う資格、あるのかな」


「当たり前じゃん! だって私たち恋人だよ!?」


 未砂記は思いのほか元気そうで安心した。それとも取り繕っているのだろうか。そして俺を歓迎してくれた。俺の内心で謝意と自責の念が錯綜していた。だが、俺のすべきことはきっとこうだ。そのとき、一瞬で決意が固まった。


 これからは俺が未砂記のために全力で尽くそうと。彼女がそうしてくれたように、この身を捨てる覚悟で。


「私、嬉しかったよ。私のために泣き叫んでくれたり、意地もプライドも全部捨ててくれたんだよね」


「うん、もうそんなのどうでも良かった。傷、痛まないの?」


「まだ痛いけど、そんなことよりまたこうやって優成と話せる嬉しさのほうが大きいよ」


 俺は静かに涙をこぼした。そしてしゃがみ込み顔を沈めた。そんな俺の頭を未砂記はやさしく撫でてくれた。


「よしよし、本当にいちばんつらいのはキミだもんね。心にいっぱい怪我してるもんね。でも大丈夫だよ。もし他の友だちに本音でぶつかれなくても、私だけには遠慮なくぶつかっていいんだからね。これからは不安なんて、何も要らないよ」


 すべてを包み込むそのやさしさが涙に更に拍車をかけ、俺は子供のようにわんわん泣き崩れた。同時に、彼女になら何も包み隠す必要などないと、これまで誰にも自分の本当の姿を見せられなかった俺にはこれ以上ない安心感を得た。


「ごめん!! 今までずっと押し退けてきて!! 迷惑だなんて言ってきて!!」


「迷惑かけてきたのは本当だからしょうがないよ。ごめんね。こんな私で、本当にいいかな」


「何言ってんだよ!! それは俺の台詞だろ!! 未砂記の優しさにはずっと前から気付いてたのに!! これからもいっぱい迷惑かけていいから!!」


「ありがとう。私も知ってたよ。キミはほんとはやさしい人だって。だから命を捨ててもいいくらい好きになれた」


「なんか、そういうこと言われると……」恥ずかしい。


 すると未砂記は、にんまりして俺の顔を覗き込んできた。


「わ〜照れたぁ〜」


「う、うるせぇ」


「泣き止んだね。良かった」


 それからしばらく他愛ない話で盛り上がり、時間は昨日とは違い、あっと言う間に過ぎていった。時計を見ると病院に来てからもう数時間余り過ぎていた。


「ねぇ優成? 未砂記、愛してるって言って抱きしめてみて?」


「ここで? いま?」


「うん。ここでいま」


 しばらく躊躇したが、このくらいの要求に応えられないなんて情けないし、未砂記を愛してるのは本当だ。俺は思い切って未砂記に抱き着いた。


「未砂記! 愛してる!」


「優成……」


 未砂記が耳元で囁いた。


「ん?」


「後ろ」


「後ろ?」


「うん、振り返ってみて」


 そのとき、俺の中で時間が止まった。そして、未曾有のしびれが全身に走った。


「へ……? ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「よっ! 普段の態度からは想像もつかないくらい大胆だねぇ!」


「あ、こんにちは、二人とも。お土産持ってきたよ」


 後ろを振り返ると、浸地ひたちとオタちゃんがいた。俺の額からは大量の冷や汗が流れてきた。


「ふふふ二人とも、い、いっ、いつからいた!?」


「宮下が正に未砂記に抱きつく瞬間だよ。いいなぁ、私も彼氏欲しいなぁ〜」


「ごめんねひたっち〜」


「ってか何で未砂記が入院してんの知ってるんだよ!? マスコミの取材も来てないみたいだし」


「仙石原さんが入院したって、あけぼの(寝台特急)で上野うえのに向かってるとき、朝川あさかわ先生から電話があったんだ」とオタちゃん。


「でもどこの病院かまでは特定出来ないだろ!?」


「それは朝、未砂記からこの病院にいるの聞き出したからわかったんだよ」と浸地。


「あ、そうだったんですか……」


「きょうはいいもの見れたなぁ。私も新しい恋しなきゃ!」


「ひたっちガンバ!!」


「サンキュー未砂記! 心の友よっ!」


 正人が捕まったことより、未砂記に抱き着いている所を見られた方が恥ずかしいかもしれない。俺がこの日、過去最高の恥をかいたのは言う間でもない。そしてその噂は、浸地を介して担任の朝川あさかわ夕子ゆうこを含め、瞬く間にクラス、学校全体へ広まった。


 その夜、俺はオタちゃんの家で浸地も一緒に泊まることになった。


「あっ、宮下、ケータイ鳴ってるよ!」


 ケータイの画面を確認すると、どうやら電話は担任からのようだ。


「もしもし、夕子ちゃん?」


「おぅ、色々大変だね。何かあったら相談してね?」


「ありがとう」


「でさ、未砂記ちゃんに抱き着いたの見られたんだって!?」


「えっ!?」


 情報が早すぎる。犯人は間違いなく浸地だ。


 この後、結構な人数が俺に電話をかけ、またはメールを送ってきたが、誰も正人については問わず、未砂記に抱き着いた事だけを問い掛けてきた。これはみんなの優しさなのか、それとも興味本位なのか。違う意味で疲れた一日だった。


 それと、後で聞いた話だが、俺や未砂記の家、学校にもマスコミが押し寄せなかったのは、学校長、会長と、未砂記、浸地、オタちゃんそれぞれのお父さんが各メディアに圧力をかけたらしい。


 この日は一旦家に戻ってビーズを通したのだが、よく見ると、何故か昨日の分のビーズも通されていた。誰がやったのだろうか。俺の背後に何かの気配がしていたが、それはまた別の話。

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