心の天気雨
気が付くと、俺は警察署の取調室にいた。別に病院からここに来るまで気絶していたわけではないが、未砂記の心配と巻き込んだ罪悪感で頭がいっぱいで、ここに至るまでの記憶がなかった。
「あのとき俺が告白を断って突き返しておけば、もっと冷たくして嫌われていれば、俺も人殺しか、いや、死んでなんかない、あんなに騒がしくて元気なヤツが死ぬはず……」
口に出して言っていたか、それとも心の中でぼやいていたのかすら覚えていない。取調室でも何を質問されたのか覚えていない。覚えているのはカツ丼ではなく袋入りの煎餅と温かい緑茶を差し入れされたことと、正人の急所が腫れ上がっているため病院で手術してから警察へ身柄引き渡しになるということくらいだった。
「今夜はここに泊まっていけば?」
警察官の勧めで、身寄りのない俺は質素で重い空気の漂う警察署で晩を明かすことにした。
寝室は個室になっていて、ほかに誰も入ってこない。俺はこの孤独な空間でただじっとしていると、あることを思い出した。
「きょうビーズできない。一日一粒ずつって言ってたけど……」
「宮下くん、病院から電話だよ」
「あ、はい!」
さっきの警察官が扉の向こうから俺を呼んだ。病院からの連絡、未砂記はどうなるのだろうか。そればかり考えていた俺はすぐに部屋を飛び出し、電話機まで案内してもらった。
「もしもし」
「宮下くんだね」
落ち着いた、大人の男性の声。
「はい。あの……」
「未砂記さん、すごいですね。普通あんなに出血していたら……」
「た、助かったんですか!?」
「えぇ、良かったですね」
「はい!! ありがとうございます!!」
体中の力が一気に抜けた。明日になったら未砂記に謝りに行こう。
良かった、本当に良かった。




