シロアリまみれの優成の家
我が家を襲った悲劇、それは俺の父親、正人が毎日家の中を水浸しにしているせいで家の柱が柔らかくなり、羽アリやシロアリが大量発生したのだ。それが視界いっぱいに隙間なくウジャウジャしている。
「あっ、親から電話。ちょっと出ていい?」
バイブで震えるケータイを手に持ち、未砂記に断りを入れた。
「うん」
会釈して、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「あっ、もしもし!? お母さんだけど。家帰った?」
「帰ったけど、何この状況? だいたい想像つくけど」
「そうなの! ネコが帰ってこないから心配で!」
「今どこ?」
「埼玉のおばちゃん家に避難したの! 瑞穂は友だちの家!」
「埼玉って、どんだけ離れてんだよ」
「じゃあ猫見つけたらすぐ電話ちょうだい!」
「ネコ捨てて逃げたくせに」
捨て台詞を吐いて俺は電話を切った。
「優成、なんだって?」
心配そうに訊ねる未砂記。
「親は埼玉の親戚の家に、妹は友だちの家に避難したらしい。とりあえず猫探さなきゃ」
「ネコちゃん飼ってるんだ」
「うん」
「シャーッ!!」
ネコが威嚇している声だ。
「家の中だ!!」
「私も入っていい?」
「えっ、大丈夫? こんなところ入って」
「だって、ネコちゃん何かに怯えてるよ」
「ありがとう。じゃあ頼む」
「うん!」
シロアリまみれの家に入るのに、未砂記はうれしそうに頷いた。
なんていいやつなんだ。
俺たちは家の中に入りネコを探す。するとネコの身体いっぱいにアリがくっついていた。
「ネコ!!」
俺はすぐにネコに纏ったアリを素手で払おうとするがなかなか離れない。
「優成! 段ボールとかある!?」
「ロフト!」
「じゃあ取ってくる!」
「サンキュー」
未砂記がロフトから段ボールを持ってきて、俺はそれにネコを入れて持ち上げた。ネコに夢中で気付かなかったが、暗いリビングでは正人がテレビを見ていた。俺は怒りを堪えられず、正人の胸倉を掴んで持ち上げた。
「おいテメェ、自分が何したか分かってんのかよ!!」
「テメェじゃねぇよお父さんだ!!」
「テメェなんか親じゃねぇんだよこのクズ野郎!!」
「親に向かってクズ野郎だぁ? それにここは俺がローン払ってるんだから、俺さえ住めればいいんだよ!!」
「なんだと!? いつも思うけどテメェはカネが全てなんだな!!」
「ハハハ!! 当たりめぇだろ!! 笑わせんじゃねぇよ。カネさえあれば何でも手に入る。世の中を制するのはカネと権力なんだよ!! 他の誰が何しようと主人の俺には逆らえねぇんだよ!! ざまぁみろ!! ヒェッヒェッヒェッ、いい気味だ!!」
心底気持ち悪くて、人間のクズだと思った。
「てめぇブッ殺してやる!!」
俺は正人の顔面を殴ろうとした。
「優成! 今はネコちゃんを動物病院に連れてくのが先!!」
「あっ、そうだ!」
未砂記の一声がなければ、俺は人殺しになっていただろう。
「逃げんのかよ」
正人は俺に言い掛けてきたが構っている場合ではない。ネコの身体はアリに酷く噛まれ、血だらけになっていた。




