夕映えの茅ヶ崎公園で
「私、軽い気持ちで愛してるとか好きだとか言ってたんじゃないよ?」
暮れなずむ茅ヶ崎公園の東、仙石原の眼は俺をまっすぐ見つめていた。。
「え、だって、じゃあ今までのは……」
何十回、何百回言われたかわからないほどの‘愛してる‘は……。
「全部ホント。でも私と宮下は性格がまるで逆。うるさくしていっぱい迷惑かけてるのもわかってる。だから今まで軽く見せかけて愛してるとか言ってきた」
これは冗談なんかじゃない。彼女の瞳には少し涙が浮かんでいた。こんなに真剣に、しかもクラスが別になって数年間会話もしなかった俺を想っていてくれていたなど、考えもしなかった。むしろ‘愛してる‘が迷惑とすら感じ、必死に愛情表現する彼女をどれだけ傷つけてきただろう。
「悪い、今まで本気でそんなこと百回くらいも言ってたなんて思わなくて」
「いいよ。こっちもトモダチ関係壊したくなくてワザと軽いノリで言ってきたんだし。でも気付いて欲しかったな。ってか、私なんかが恋人だなんて迷惑だよね」
「いやっ、そんな」
突然のことで混乱中の俺、何を言って良いのか判断できない。何も思いつかない。
「ごめん。なんか気まずいよね。だからせめて今まで通り相手してくれたり遊んでくれない?」
彼女は必死に笑顔を作っていた。
1分で数人が通るこの場所で、周囲の視線が気になり始めた。誰も足は止めない。キャンキャンと、小型犬の声が耳に入る。
なんというか、青春ドラマにありそうなすごくベタな告白シーンだ。
このように俺は彼女をまっすぐ見つめられなくて、動揺している。
「いや……」
だが、俺は気付いていた。心のどこかで、自分の気持ちに。
「そっか、そう、だよ、ね。今まで、こんな、私の、相手、してくれて、ありがと、ね」
彼女の顔はもう、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「そうじゃなくて、その、お、俺も末砂記といっしょにいたい!」
彼女が苦手なはずの俺の口から、無意識にそんな言葉が飛び出した。
「ふへぇ?」
そして俺はしゃっくりが止まらない彼女を衝動的に抱き締めた。
華奢でやわらかい、彼女のからだ。鼻腔をくすぐる甘い香り。
「こっ、こんな俺で良かったら……」
途端、彼女は泣き止んだ。
「ホントに?」
「ホント」
そう言うと彼女はまた泣き出した。
「ありがとう、ありがとう、こちらこそバカだけど、よろしくねっ」
「うん。じゃあ少し休んだら、寄り道しながら帰ろうか」
この人生で愛の告白をされたのは四度目だが、これほど疲れたことはなかった。
俺たちは公園の敷地から出て、裏道を東へ向かって歩き始めた。彼女の家は逆方向かつすぐ近くだが、少しでも長くいっしょにいるため俺を送って帰りたいという。
「そういえば未砂記って、軽音部だよな」
さりげなく名前呼びをしてみた。
「うん。そだよ」
へへへ。未砂記は心底嬉しそうに照れ笑いした。
「じゃあ、好きなバンドとかあるの?」
その笑顔に感情が昂らないわけないが、平静を装って会話を続ける。
「んと、やっぱサザンかな! 地元だし、私の大切な人が好きだったんだ! あっ、男じゃないよ!」
じゃあ誰だというのだ。友だちか、恩師か。見当つかないが今は訊かないでおく。
「えっ、じゃあライブ聴きに来た?」
世紀末の2000年、サザンオールスターズはここ茅ヶ崎公園野球場で地元ライブを敢行した。
「当たり前じゃん! せっかく地元に住んでるんだよ! まさか来なかったの!?」
「いやいや行ったよ。じゃああのとき近くにいたんだな」
「そうだね! なんか運命だね!」
「いや、きっとあのとき多くの市民があそこにいたから」
「そだよね。あのサザンだもんね。あっ、そろそろ優成ん家だね」
「はぁ、帰りたくねぇ……」
「じゃあ今夜、私ん家誰もいないから泊まってく?」
「いや! 初日からそれはマズいだろ!」
「う〜ん……」
未砂記は残念そうに俯いた。俺の本心は未砂記の厚意に甘えたい。だって帰りたくないし未砂記とあんなことやこんなことしたいもん。
「じゃあ」
「うん! またね!」
未砂記に一声かけて俺は家の扉を開ける。そして俺の視界には……。
「は!?」
「ど、どうした優成!? そんな素っ頓狂な声出して!?」
「こ、これ!!」
「へっ? って、な、何これ!?」
なんということだ。俺の家に、いつも以上にとんでもないことが起きてしまった。
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