告白
俺はレジから仙石原が客の注文を受けているのを遠目で見守る。
変なことするなよ、あの白髪交じりの男性はいつも来てくれるお客様で温厚な人柄だが、粗相のないように接するんだぞ。
「お客様お待たせ致しました!」
「おっ! 見かけない子だねぇ。新入りかい?」
「はい!」
「そうかい。頑張ってね」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「じゃあ注文いいかな?」
ふぅ。思いの外うまくやっているようで安心した。クビになったバイト生のように「ちわーす! オーダーっすかー、どぞー」などと馴れ馴れしい接客でもしたらぶん殴ってやろうかと思ったが殴る理由がない。
端末をスムーズに操作しオーダーを受けた仙石原は軽やかな足取りで厨房に入ってきた。そそくさとせず、しかし素早い、客に不快感を与えにくい身のこなしだ。
「あぁ、宮下もしかして私が馴れ馴れしい接客でもしたら殴ってやろうとか考えてたでしょ」
「よくわかったな、その通りだ」
何も言っていないのに見破るとは、もしやこいつエスパーか?
「だって、中学のときはイライラした相手なら男女関係なく殴ってたじゃん。私がまだ殴られてないのは奇跡だね!」
「あぁ、ホントに」
確かに彼女は騒がしくて苦手で厄介だと思うことはあるが、無垢な笑顔を見ると何故か殴る気が失せる。そして何より仙石原の無邪気な顔は可愛い。つまるところ憎めないヤツだ。
「じゃあ次はレジやってみる? 俺が陰で見てるから、何か手詰まったらフォローする」
「わかった! じゃあやってみる!」
何事にも前向きな姿勢は、その他大勢とは違う。寧ろ俺も見習わねばとさえ思う。
このままバイト長の立場を仙石原に奪われかねないと危機を感じる。面倒な無償労働をせずに済むようになるのに、プライドが祟ってポストの譲渡は許せない。
「はい、頑張って」
「ありがと! きょうは優しいんだね!」
うん、やっぱり笑顔は最高の化粧だ。これでもういくらか騒がしさのトーンが下がればとても好印象。
「俺はいつも優しいよ」
「うわっ! 自分でそういうこと言うんだぁ。マジ引くわ~」
「なっ!?」
「でもわかってるよ私! いつも口数少ないけど、セミとか、学校の外階段に転がってるカナブンが踏まれないように助けてあげてたもんね!」
「よく見てるんだな」
実は動物や虫が大好きな俺。なんと言うか、癒される。だから健気でチョコチョコしたカナブンを放っておけなかった。
こうしてきょうのバイトは無事終了。俺は家に帰りたくないので苦手な彼女に公園でバイトのことを教えたり雑談をしながら時間を潰すことにした。
霞んだ夏の茜空、陽が陰って灰色に化してきた入道雲、球児たちが帰ったコンクリート造りの大きな球場。かつてサザンオールスターズの地元ライブが行われた。
「ねぇ? 私のこと名前で呼んでいいよ! 苗字じゃ長いでしょ? オタちゃんにも言っといてね!」
「あ、うん。わかった」
「じゃあ呼んでみて!」
「えと、未砂記?」
ファーストネームで呼ぶのって、なんか照れくさい。
「うわっ! 好きな人から名前で呼ばれるとドキッとするなぁ!」
「またそうやって公の場で。何回同じこと言うんだ」
「んとねぇ、百回くらい言ったよ」
「はぁ、そんなんじゃ本当に好きな人ができたとき、どうすんの」
「どうするんだろね」
「でも俺も他人のこと心配してる場合じゃないか。ってか受験生だし恋愛禁物かな」
「じゃあ私と付き合う? 学科試験なら少し教えられるよ?」
「えっ、マジで!? 付き合うかどうかはともかく教えろ!」
恋愛は禁物と言ったそばから何を言うのかと突っ込みたくなったが、勉強を教えてくれるとなると喰い付かざるを得ない。
若干ではあるが、仙石原はほぼ毎回俺よりテストの成績が良い。
「ダメ。付き合ってくれなきゃ教えないよ?」
「えっ!?」
仙石原は少し意地らしい面持ちで、その台詞が異様に似合っていた。
うそ、本当に、本気なのか?




