修善寺駅から路線バスの旅
観光案内所を出た未砂記と浸地は、ロータリーの1番のりばからバスに乗った。昔ながらの日本家屋兼店舗が並ぶ駅前通りを出たバスはまもなくT字路を右折して、狩野川の赤い鉄橋を渡った。河原にはゴロゴロ大きめの石が転がっている。
山のほうに来たんだなぁ。海辺育ちの二人は地元、茅ヶ崎では感じられない山間部独特の閉塞感と、そこに秘められた海とは異なる、心が天へ昇ってゆくような神秘を感じていた。
茅ヶ崎にも山はあるものの、大きな石がごろごろ転がっている河原や四方八方を崖や山々に囲まれている場所はない。
またこの狩野川、演歌で有名な天城山から沼津の駿河湾へと北流していて、相模湾へと南流する川を見て育った神奈川県民には物珍しさもある。
乗車約10分、終点の修善寺温泉場に到着。こじんまりとしたロータリーに乗って来た中型バスが一台。乗車率40パーセントほどの車内から幅広い年齢層の観光客がぞろぞろと降りてゆく。未砂記と浸地も運転士に「ありがとうございました」を言いながら運賃を支払い降車した。茅ヶ崎のバスはバス共通カードで乗車しているので、久しぶりの現金払い。現金払いなら通常最低90円のところ土日祝日と長期休暇中は50円で乗れた小学生時代以来両替機を利用し、運賃箱にお金を入れた。
「なんか懐かしかった。バスにお金入れるの!」未砂記が目をきらきら輝かせながら言った。
「私もそう思った。いまバスとか電車に乗るとき小銭使わないから、お金払ってる! って感覚を久しぶりに味わった」
「なんかいいね! じゃらじゃらーってお賽銭を大量に入れてるみたいで」
「これから修善寺に行こうと思うんだけど、お賽銭じゃらじゃら入れてみる?」
「え、ヒタッチお賽銭出してくれるの!? 助かるありがとう!」
「高校生にもなってお賽銭を自前で投げないなんて、罰が当たるんじゃない?」
「うっ、それもそうか……」
神奈川県内のバスや電車でも現金払いや券売機に小銭を入れてきっぷを買えないわけではないが、バスの場合五千円カードを買うと850円分のSFがおまけされていて、電車のICカードはポイントが付く。バスと電車は同じICカードで利用できるが、磁気のバス共通カードはSFのおまけ分に有効期限がないため、こちらを利用する人が2007年8月現在では圧倒的に多い。
二人は片側一車線に整備された商店街の道路を修善寺川側の端に寄って歩く。修善寺川はこの先、狩野川に合流する大きな岩が目立つ日本の風情あふれる川だ。
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