根府川の景色は
『ご乗車ありがとうございます。小田原~、おだわらです。3番線到着は普通列車の熱海行きです』
小学生時代の感傷に浸っている30分は刹那に過ぎて、電車は小田原駅に到着した。
あんなこと思い出さなければ良かったと後悔もしたけれど、それがまだこの世界のあちこちで起きているという現実は、連日の報道で受け入れざるを得ない。
もしかしたら朝陽が差し込むこのホームを歩く人々のなかにも、悩み悶えているひとが少なからずいるのかもしれない。
なんだかまだ家に帰りたくないな……。
そう思ってなんとなく、降りたばかりの電車に再び乗り込んだ。
座席は行楽客で埋まり、仕方なくドアの脇に立つ。
小田原を出ると、早川、根府川の順に、電車はこれまでの区間よりややゆっくりと熱海までのラストスパートを駆けてゆく。
根府川駅周辺は東海道線の名所のひとつで、東京から熱海間では唯一の無人駅。そこから見下ろす木々生い茂る崖に囲まれた海は、いつも見ている茅ヶ崎の落ち着いたイメージとは異なり、底知れぬ深さと地球の丸みやスケールを体感できる。
8分後に次の電車が来るため、根府川駅で下車してみた。景色はいつしか父と訪れたときと変わらず、風は力強く吹き抜ける疾風。
ヒトの頭ほどの石がゴロゴロ転がる海岸は、音楽のプロモーションビデオなど、映像作品にときどき登場する。
そこにも少しだけ立ち寄って、人気のない波打ち際を歩いてみた。後方には高架の道路があり、自動車の走行音が波音に混じってひっきりなしに聞こえる。
駅に戻ると次の電車は既に出た後で、次は約15分後に熱海より先の沼津行きが来る。
きょうはどこまで行こうかな?
熱海より西ではICカードで乗り越せないため、とりあえず一区間分のきっぷを購入。小鳥のさえずりが聞こえる静かな駅に、自動券売機のやたら綺麗な案内音声が突き抜けるように響く。
なんだかちょっと、さびしいな……。
悪いな、いやいやあんだけのことをしたんだからと思いつつ、私はえいっと折り畳み式ケータイを開いた。
お読みいただき誠にありがとうございます!
更新が遅くなりまして申し訳ございません。




