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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 夏

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37/84

根府川の景色は

『ご乗車ありがとうございます。小田原~、おだわらです。3番線到着は普通列車の熱海あたみ行きです』


 小学生時代の感傷に浸っている30分は刹那に過ぎて、電車は小田原駅に到着した。


 あんなこと思い出さなければ良かったと後悔もしたけれど、それがまだこの世界のあちこちで起きているという現実は、連日の報道で受け入れざるを得ない。


 もしかしたら朝陽が差し込むこのホームを歩く人々のなかにも、悩み悶えているひとが少なからずいるのかもしれない。


 なんだかまだ家に帰りたくないな……。


 そう思ってなんとなく、降りたばかりの電車に再び乗り込んだ。


 座席は行楽客で埋まり、仕方なくドアの脇に立つ。


 小田原を出ると、早川はやかわ根府川ねぶかわの順に、電車はこれまでの区間よりややゆっくりと熱海までのラストスパートを駆けてゆく。


 根府川駅周辺は東海道線の名所のひとつで、東京から熱海間では唯一の無人駅。そこから見下ろす木々生い茂る崖に囲まれた海は、いつも見ている茅ヶ崎の落ち着いたイメージとは異なり、底知れぬ深さと地球の丸みやスケールを体感できる。


 8分後に次の電車が来るため、根府川駅で下車してみた。景色はいつしか父と訪れたときと変わらず、風は力強く吹き抜ける疾風。


 ヒトの頭ほどの石がゴロゴロ転がる海岸は、音楽のプロモーションビデオなど、映像作品にときどき登場する。


 そこにも少しだけ立ち寄って、人気ひとけのない波打ち際を歩いてみた。後方には高架の道路があり、自動車の走行音が波音に混じってひっきりなしに聞こえる。


 駅に戻ると次の電車は既に出た後で、次は約15分後に熱海より先の沼津ぬまづ行きが来る。


 きょうはどこまで行こうかな?


 熱海より西ではICカードで乗り越せないため、とりあえず一区間分のきっぷを購入。小鳥のさえずりが聞こえる静かな駅に、自動券売機のやたら綺麗な案内音声が突き抜けるように響く。


 なんだかちょっと、さびしいな……。


 悪いな、いやいやあんだけのことをしたんだからと思いつつ、私はえいっと折り畳み式ケータイを開いた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 更新が遅くなりまして申し訳ございません。

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