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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
浸地の小学生時代

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桜並木の町で

 一駅、また一駅と、学校に近付き、気重さは増してゆくばかり。本数の多い朝の電車は渋滞を起こさぬようゆっくりと進んでゆくのがほんの少しだけ救いだった。


 車窓に畑や海が目立つエリアを進み25分、平塚駅に到着。小田原駅以来のビルの中の駅となり、ここから先は住宅やビルの建ち並ぶ都市部に入る。スーツ姿の人が一気に押し寄せ、ほぼ満席になり、平塚の隣、未砂記の住む茅ヶ崎からは立つ人が目立ち始め、本格的な通勤ラッシュが始まる。小学生の私が座っているのはなんだか申し訳ない気分で、けれど立っていられるほど心に余裕はない。


『まもなく横浜、お出口右側です。横浜の次は川崎かわさきに停まります』


 鬱々した気分で黒いスーツの隙間から朝陽の射し込む電車での一時間が過ぎて横浜駅に着いた。西湘や湘南とは違って、電車を降りた途端にサウナのようなモヤッと蒸し暑い空気が全身を包む。


 普段とは別の階段から、銀の車体にスカイブルーの帯を纏う京浜東北けいひんとうほく線に乗り換え数分後、学校の最寄駅に降り立った。


「おはよーヒタッチ! 今朝は電車で会わなかったね!」


 同校他校の生徒や通勤者に交じりランドマークタワーや大観覧車が見下ろす駅前広場をトボトボと歩いていたら、未砂記が背後から私の右前方に回り込んで出現した。相変わらずゲームに出てくるモンスターが電光石火で現れるさまを連想させる挙動だ。


「うん。いつもの車両、混んでたから」と誤魔化す。


「学校、行きたくない?」


 未砂記は不意にピタッと立ち止まり、私は彼女の前に出たところで身体の反応が追いつき、躊躇ためらいを込めゆるりと止まる。


 間もなく海へ流れ込む川沿いの遊歩道は、春になると満開の桜が花吹雪を散らして幻想的な雰囲気になる。


「たまにはサボったっていいんじゃない?」


 未砂記はにこにこしながら私を促す。けれど


「一度休んだら癖になって、もう行けなくなっちゃう」


「そっかぁ。わかった。でも大丈夫。ヒタッチには私が付いてるよ」


 ありがとう。と言うべき場面。けれど私の中で、あなたに何ができるのという思いと、異端児の未砂記と関わらなければ苛められなくて済んだのではと仮説が巡り、口をつぐんだ。


 そして、逃げずに学校へ行くという選択が何よりもの間違いだと知るのは、このほんの少し後だった。


 お読みいただき誠にありがとうございます!


 毎度更新が遅くなりまして申し訳ございません。


 今回登場した桜並木の場所は別作品(『未来がずっと、ありますように』)で上京したばかりの新社会人が訳あって線路に転落し、駅員の押す車椅子で通り、そこで前向きな言葉を発するのですが、同じ場所でもその人の置かれている状況によって映りかたが違うんだなと、当たり前のことを改めて感じました。

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