ばぁちゃんの存在
対岸を遥か遠くに臨む湖を背景に、広大な田園を一本の砂利道。ビニル袋いっぱいのイナゴを片手に、一人の老婆はいくらか先を歩く孫の背を眺めていた。
ついこの前までよちよち歩きだった浸地ちゃんが、少し見ない間にきゅっと引き締まった脚で軽やかに、まるでモデルさんみたいに歩くようになった。だけれどその背はげんなりした雰囲気で、お家や学校で何かあったのか、心配でたまらない。
「なぁ浸地ちゃん? 何かあったのか?」
それで声をかけてしまって、後悔が待っていた。
「ううん、なんにもない!」
くるっと振り返り満面の笑みで否定する浸地ちゃん。
いいやそれはない。そのくらい、おばぁちゃんはお見通しよ。こんなに小さなからだで、いったい何を背負い込んでいる? 戦争のないこの時代に、そんな不憫な思いをする必要なんて、どこにある?
無理に聞き出すのもイヤなことを思い出させてしまうから可哀想だ。
◇◇◇
「なぁ、浸地ちゃん、何かあったのか?」
夜、浸地が寝静まった頃。テレビも点けず二人ぽつんと佇む居間で彼女の祖母が娘、つまり浸地の母に話を振った。
「あぁ、うん。学校でいじめられてるみたいなの」
「そうかぁ。それで、何か手は打ったのか?」
「先生には三者面談のとき一応ね。だけどいじめられる方にも原因があるし、先生だってそう言ってる。それに、つらいことなんかこれから山ほどあるんだから、敢えて放っておくのも手かなって」
「お前はそれが、本当に正しいと思うんかい?」
「正しいとか間違ってるじゃなくて、世の中はそういう風にできてる。私だって幼稚園の頃いじめられたんだから、つらい思いをするのはみんな一緒で、順番に回ってくるようになってるのよ。だからこれでいいの」
「けどそれに耐えられなくて幼稚園さ中退したべ」
「学校だって転校できるけど、浸地はいまのところ要求してこないし、まだ我慢できる範囲なんでしょ」
あぁ、オラはどうすればいい? おばぁちゃんなんてのは孫を可愛がるくらいしかできないちっぽけな存在。一緒に住んでるならともかく、遠く離れ離れじゃ様子も見に行けやしない。
困った、困ったよぅ。思えば娘が世間の荒波に揉まれてもなんとかやっていけるように厳しく育てたのは他でもないこのオラだ。娘はそれを孫に引き継ごうとしているのか? だとしたらお前は『助けて』の信号をしっかり捉えられるか? 確かに忍耐は必要。だけれど限度がある。
なぁ浸地ちゃん? 浸地ちゃんはどこまで耐えられる?
おばぁちゃんは、どのくらいだけ力になれる?
お読みいただき誠にありがとうございます。
重い課題ということで更新が遅れており恐縮です。本作は小説や物語の流行や傾向など知らずに書いた処女作のリメイクですが、故に異世界ファンタジーなど人気ジャンルではなく、多くの人が抱える身近な問題を取り上げたと記憶しております。
今後もじっくり向き合って執筆を続ける所存です。




