◇ビーズについての考察
活動を一時休止されていたましろさんからご厚意でリニューアルバージョンのイラストを頂戴いたしました。感謝いたしますとともに、活動再開お喜び申し上げます。
ビーズを押し付け颯爽と走り去った仙石原を見送った後 、俺は昇降口で偶然会った、クラスメイトで数少ない友だちの一人である小田博文、通称“オタちゃん”と一緒に帰った。オタちゃんも仙石原と同じく、中学一年で同じクラスとなり知り合った。
オタちゃんは鉄道が好きで、鉄道オタクと小田という苗字が従名の由来。俺が聞いたこともなかった路線や電車について楽しそうに語る。部活は中学時代から一貫して鉄道研究部だが、小学生時代にエレクトーンを習っていたとのことで、軽音部でキーボードやピアノといった鍵盤楽器の助っ人を頼むことがある。
オタちゃんは先日、特急列車を乗り継いで千葉県の成田空港から静岡県の下田まで旅行したらしく、思い出をしばらく語った後、珍しく鉄道以外の話を持ち出した。
「あ、あのさぁ、僕、今日、仙石原さんからビーズ手芸のセット貰ったんだけど……」
「はっ!? オタちゃんも!?」
仙石原のヤツ、オタちゃんにまで押し付けやがったのか 。まさかジミーズなら頼みを断れないと思って片っ端から押し付けてるんじゃないだろうな。
「えっ、宮下くんも?」
「あぁ」
俺とオタちゃん、他に誰が手芸セットを貰ったのだろう 。クラス全員に配っている様子はなかったし、この二人だけだろうか。だとしたらなぜ、俺とオタちゃんにビーズを委ねたかだ。きっと俺とオタちゃんには何か共通点があるのだろう。やっぱ頼みを断れそうにないジミーズだからか? いや、この際ジミーズ以外にも俺とオタちゃんの他の共通点を掘り出してみよう。
ラーメンが好き。だからなんだ? テストの成績、雲泥の差。俺が泥。
うーん、なんだべなぁ……。
ここまで二人で北方向へ進んできた地元出身の国民的シンガーが楽曲の舞台にした細い道と、片側一車線だが道幅がやや広い道路が交わる交差点でオタちゃんと別れ、俺は後者の歩道を西へ進みながら考察中。
「わっ!?」
考えながら歩いていたら電柱に激突。思わず素っ頓狂な声が出た。鼻を強打して激しい痛みと目眩が襲う。
あ、もしかして。
衝撃で集中力が途切れ、思考回路がリセットされたところで一つの仮説が浮かび上がった。
それは、二人とも慎重な性格であることだ。俺は小心者で、オタちゃんは鉄道において最も大切である『安全』を 日常生活でも重視する人間だ。ついでに、宝石のように高価な品だからといって盗みを働くような人間でもない生真面目さも兼ね備えている。だとしたら、ズボラそうな仙石原が俺たちに高価な品を預けるのは納得だ。きっと親戚か知人の誰かに骨董市で売るビーズ細工を作るように頼まれたけど、自分では不器用で作れないか、ズボラで管理出来ないと思って俺たちに押し付けたんだ。
一日一粒ってのはきっと飽きられると困るから、自宅学習は一日十五分みたいなノリで毎日一粒ずつ継続してやってくれというところだろうか。だが残念、俺は自宅学習など一日十五分どころか一秒もしないし、授業は聞いても脳の血管が詰まりそうで内容が頭に入らない。よって、一日 一粒のビーズでさえもすっぽかす可能性が大いにあるのだ 。仙石原よ、見込み違いだったな。俺はこのような怠惰的な性格を仮に改めようと努力しても三日坊主にすらなれないのだ。オタちゃんはちゃんと真面目にやるだろうから、 五割だけ安心だな。
いや待てよ。仙石原は‘必ず一日一粒ずつ’と言っていた。 そうか、もしかしたら俺は考え過ぎていたのかもしれない。仙石原はズボラで物品を管理する能力がないとすると、答えは極めて単純ではなかろうか。恐らく単に売り出しまでまだ相当な時間があって、俺たちが一日何個も作品を仕上げてビーズを早く返却されると自分で管理しなきゃいけなくなるから困るんだ。高価なものの管理はきっとズボラでなくとも緊張するからな。思い返せば小学生の頃、万券を持ち歩くの怖かった。
帰宅後、携帯電話で後者の仮説をオタちゃんに話したら合点がいったようであっさり納得してくれた。いやはや、勉強はあまり得意ではないが、こういうときは冴えるんだよな。
帰宅早々、俺は宿題以外の面倒事は早めに済まそうと自室で仙石原から言われた通りテグスにビーズを一粒だけ通した。とりあえず今日の色はグリーン。明日はレッドかブルーにでもしてみるか。
お読みいただき誠にありがとうございます!
前回はプロローグを誤ってエピローグと表記してしまうどうしようもないミスをしてしまい申し訳ございません。作者が『おじぃ』なだけにボケていたようです。
この物語、ファンタジーで良いのでしょうか……。相変わらずスッキリしない感じです。