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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 春

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下着が引き起こした良心の呵責

 背中が痛い。カーペットで眠ってしまったせいだ。


 いま何時? 


 テーブルに置いたデジタル式腕時計を見る。大体六時だ。俺は眠っているうちに股間の竿を掴む癖があるようで、固く元気になった一物から手を離し、手や顔を洗うために洗面所へ向かう。


 ところで、仙石原と浸地はどこ行った? 『ありがとね! アイシテル!』というメモを残しているが、愛してるはいつもの挨拶として、何に感謝されたのだろうか。まあいい。だが眠っている俺に近寄るとガン射撃されるリスクがあるから気を付けろ。とはいえ今まで大人のお漏らしはしていないから、安全性は高いと考えられる。


 俺はこの家の鍵を所持していないため勝手に外出するわけにはいかない。もしかしたら仙石原は浸地を駅まで送っているのだろうか。ピーク時は同じ方向へ向かう列車が並んで走る東海道線だが、この時間帯は相模線さがみせん並みに本数少ないし、無理矢理の徹夜明けで可哀想だけど座れないかもしれない。相模線は茅ヶ崎から県北部の橋本はしもとを結ぶローカル単線。有名どころだと八王子はちおうじ方面へ用事があるときに使う路線で、長いときは三十分くらいの運転間隔がある。


 洗面所に着いて、とりあえず仙石原にいつ帰る見込みなのかとメールで訊ねると、三十秒弱で電話がかかってきた。


『おっはー! 未砂記ママだよー!』


「おはようございます。連絡早いな」


『安くて早い未砂記コールセンターでーす! それにさ、お互いいつの瞬間まで生きてるかなんてわかんないんだから、なるべくたくさんコミュニケーション取りたいじゃん!』


 どこか依存的な気もするが、急性心筋梗塞でお姉さんを亡くしている仙石原が言うとかなり説得力がある。


「かもな。で、いまどこにいるんだ?」


『サザンビーチだよ! サザンCの前!』


 なんだ、駅じゃなかったのか。


 Cの形をした黒いモニュメントはこの街を象徴するものの一つ。他にも沖合にひょっこり顔を出す烏帽子岩えぼしいわや、ハワイアンな店、ヨーロピアンな一角、お洒落な飲食店、ちょっと視点を変えて、やたら大きな駅ビルや長閑のどかな田園風景に里山も。とにかく小さな街にしては色々なものがあり過ぎて訳がわからない。


『あ、もしかして起きたらひとりぼっちだったから寂しくなっちゃった!? ごめんねー! すぐ帰るからねー!』


「いや別に。ごゆっくり」


『はははっ、照れてる照れてるー。そうだ、ありがとね! 予算の配分考えてくれて。マジで助かりました!』


「あ、ああ。あれで大丈夫か?」


 俺の場合、良かれと思ってやったことは大体裏目に出るから、正直かなり不安だった。


『だいじょぶだいじょぶ! 私もよくわかんないから! 全責任はヒタッチが取ります!』


 電話の向こうで浸地が文句のような口調で喋っているが、聞き取れない。


 通話を終えて洗面所に着き、石鹸は使わず水だけで顔を洗う。二台ある洗面台に相変わらず贅沢だなと思うが、一人暮らしでこれを使う侘しさも相変わらずだ。鏡越しに背後を見ると、ごく一般的な洗濯機とドラム式乾燥機が置いてある。


 昨夜、あの二人は風呂に入っていて、尚且つまだ洗濯していないと推定される。ということは、洗濯機のなかには下着も入っていると考えられる。浸地のはともかく、仙石原はどんな下着を着用しているのだろうか。黒やピンクのセクシー下着か、クマさんぱんつか、水玉ぱんつか白ぱんつか。はたまたTバックか。どれを着用していてもおかしくない。


 気になる。いやらしい意味合いもあるけど、あの謎めいた生態の仙石原がどのような下着を着用しているのか、知的好奇心をくすぐられる。中学時代はスポーツブラが透けて見えたが、今はさすがに違うだろう。


 どうしよう、開けようか、やめようか。俺は洗濯機をじっと見詰めたままその場に立って考え込んだ。もうだめだ、我慢できない。開けてしまえ!


 俺は思いきって洗濯機の蓋に手を掛けた。


「何やってんの?」


「あ?」


 なんということだ。蓋を開けようとしたら背後に浸地がおるではないか。


「ああ、洗濯をしようと思って」


「ふぅん」


 なんだよそのジト目は。俺が何をしたっていうんだ。


「あ、宮下ただいまー! いいよ洗濯までしてくんなくて! 恥ずかしいし!」


「あ、ああ、わかった……」


 なんだなんだ!? 素直に喜ばれると罪悪感が湧いてくるぞ。くそっ、爽やかな筈の朝が、とてつもなくモヤモヤしてしまった。

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