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いちにちひとつぶ ~迷える君への贈りもの~  作者: おじぃ
高校生活 春

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二粒以上は

 カレーが出来上がり、仙石原が皿に盛り付けて俺がテーブルの前で受け取る。これは宮下家も同じだが、ダイニングキッチンはなんと便利だろう。


 いただきますを言うと、両者とも先ずサラダに手を付けた。野菜を先に摂ると血圧の上昇を緩やかにできるのだ。


「おお! これ結構美味いじゃん! 山椒の香りとジャコとチーズの食感とさっぱりしたトマトの組み合わせがナイス! 私ね、いつもはカレーを先に食べるんだけど、宮下の手料理がどんな感じか気になって今日はサラダにしたんだ〜」


「サラダ先にしないと血圧急上昇するぞ」


「はははっ! 宮下は細かいなぁ! 私、好きなものを先に食べる癖あるんだよね〜」


「B型だっけ?」


「うん。宮下はO型だよね! 相性バッチリじゃん! やっぱ婿入りしなよ!」


「A型だけど浸地とのほうが相性いいんじゃないか? 親友だろ?」


 血液型はあまり気にしないが、三人の性格は世に蔓延はびこる説とマッチしていると思う。


「やだなぁ宮下、ヒタッチは婿入りできないよ? 性転換しろっていうの?」


「仙石原が男になるのか」


「え〜、ならせめて一回くらいオンナの悦びを経験してからにしたいな〜。よし宮下! 食べ終わったらちょっと私の部屋に来てあれこれ教えて!」


「こらこら、そういうのは軽々しくするもんじゃないぞ。ていうか食べ終わる前にビーズについて教えてくれないか」


 うわ〜、これだよコイツ。別に軽い気持ちじゃないのになぁ。でも敢えて軽々しい口振りで言ってるから、そう捉えられるのは仕方ないか。


「ディナーに付き合ってくれたら教える約束だもんね。んじゃちょっとだけ教えたげる。ビーズを一日二粒以上通すと〜、トースト〜」


 駄洒落言ってないで早く教えておくれ。


「二倍忙しくなるよ!」


「え?」


 意味がわからん。


「だーかーら、二倍忙しくなるよ! 一日一粒しか通さなくていいのに二粒通すんだもん」


 そりゃそうだけどさ、なんかこう、不思議な力が働いてドカーン! とかさ、何かないの?


 それに一日一粒が二粒になったところで大した手間にならないし、作業を二倍早く終わらせられるだろう。


 すると仙石原にビーズを返却する日が二倍早くなる。ということはやはり、長期保管はズボラでな仙石原には不向きだから、俺とオタちゃんに管理を丸投げしたいのか?


「なになに、もしかしてファンタジックな展開でも期待した?」


 クッソー、イヤらしい目でニヤニヤしやがって。


「いや、別に……」


 図星を突かれて俺は咄嗟に目を逸らした。クソッ、これはバカにされて笑われるパターンだ。


「宮下がそう思うんなら、それもあるかもね!」


 ところが仙石原は俺の予想を裏切り、イタズラな笑みを浮かべた。


「でも、一日二粒は無駄遣いだからやめてね」


 無駄遣い? と俺は聞き返す。意味深長だな。まさかあのビーズ、日々を忙しくさせる作用があるのか? 忙しいの嫌いだし受験生なんだから余計に勘弁してくれ。


「そう。実はこのビーズ、すんごい貴重でさ、私の手元にも在庫あんまりないし、買い足せるものでもないから、信用できる人にしか渡せないんだ。ううん、むしろ信用できる人には渡しちゃいけないのかも。でも宮下もオタちゃんも信用してるから!」


 今まであまり褒められた経験のない俺は、こういうときにどう返せば良いか判断できず、目を逸らして黙り込み、とりあえずカレーを一口含んだ。


「カレー美味しい?」


 俺は口にカレーを含んだまま、うんと言って頷いた。時間を置いていないのでまだコクは浅いが、まろやかでホッとする味だ。


「えへへー、良かったー。カレーはいつもヒタッチとお泊まり会やるときに二人で作ってたから、一人で作ったのはたぶん初めてなんだ」


「そうか。うんと、まろやかな味だな」


「まろやか? まろやかまろやか……。あっ、宮下って文章書くの得意?」


「得意でも不得意でもないけど、理系科目よりは得意だな」


「よし、今宵は私と眠れぬ夜を過ごそう!」


「はい?」


 一瞬どういう発想なのかと思ったが、なんとなくあの件ではないかと察すると同時に、俺は焦燥感に駆られ胸がざわめき始めた。


「来週月曜までに書かなきゃいけない四千字くらいの論文、まだ白紙なんだ」


 ああ、なるほどまろやかね。論文の題が『資本主義と共産主義の対比と考察』だったな。


 共産主義から連想される経済学者のマルクスと、まろやかの韻がなんとなく似てるから思い出したんだな。


 きょうは金曜日。残り時間は土日の2日間。2日間で4千字? 原稿用紙10枚だぞ。バカじゃねぇの書けるわけないだろ俺はライターじゃないんだ。


 だが課題が出たのは4日前の月曜日。当日から書き始めていれば、予備校にも通ってなければ部活は半ば幽霊部員の俺なら余裕を持って完成させられたと推定される。


 だが問題は仙石原。部長である以上、部活をサボるわけにはいかないだろうから、日程にはやや余裕がなかった。まあ仮に余裕があったとしても期限ギリギリで騒ぎ始めるに変わりないだろう。


「だから手伝えと? だが俺も課題の存在なんか忘れてたから全く手付かずだ」


「そっか! じゃあこれから原稿用紙買いに行ってヒタッチ呼ぼう! 今から呼べばまだ小田原に帰ってないだろうし、たぶん間に合うよ!」


 仙石原の案に合意した俺は一度家へ戻りビーズをテグスに通し、着替えを持ち出す。その間に仙石原は駅前の書店で原稿用紙を買い、浸地を迎えに、否、捕まえに行く。浸地はバイト上がりで疲れてるだろうに可哀想なヤツだ。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 カレーは同じ市販ルーを使っても作る人によって味が違いますよね。不思議なものです。

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