隠したい涙
仙石原のお姉さんに線香を焚き、少し間を置いたところでディナーの仕度に取りかかる。メニューはカレーライスとサラダ。仙石原はルー、俺は米研ぎとサラダを担当する。
私料理上手なんだぁ、旦那さんになる人は絶対幸せ! と自信満々に料理の腕をアピールしていた仙石原。果たして大丈夫だろうか。だが俺は料理などろくにできないから余計な口出しはせず、担務に専念する。
米研ぎはごく一般的な方法で行い炊飯ジャーにセットする。
あぁ、このジャー高そうだ。さぞ美味しく炊けるだろう。
米研ぎをささっと終わらせたらトマトサラダをつくる。というより包丁を使う少し手の込んだ料理はこれくらいしかできない。手順はまず小さなボウル皿にサニーレタスを敷き詰め、その上にオニオンスライスを適量乗せる。
次に中くらい、または大きなトマトを逆さにして頂点から十字の切り込みを入れ、実を四つに裂く。このとき裂き過ぎてトマトがバラけないように注意する。包丁を使う過程は以上で終了。危険なものは極力使わないのが俺のポリシーだ。
続いてトマトの切り込み部にモッツァレラチーズを乗せ、お好みのドレッシングをかける。ちなみに俺は醤油ベースの野菜ドレッシングが好きだ。最後に山椒の実が混じったちりめんじゃこをひとつまみかふたつまみ振り掛けて完成。
このレシピはオタちゃんや鷲宮ほか、俺のように料理慣れしていない男子に布教している。ということで、手を洗いさっそく調理に取り掛かる。
そのとき、俺の右横に信じられない光景が!
な、なんと、なんということだ!? あの、あのズボラな仙石原が包丁を使って器用にジャガイモの皮を剥いているではないか! しかもピーラーじゃなくて包丁だと!? 芽を取る作業も忘れていない! やめろ! やめるんだ! 包丁で皮剥きなんかしたら指切るぞ!
しかし仙石原は負傷せず無事に皮剥きを終えジャガイモをはじめ具材を切り始めた。
「いやあ、今日は宮下が一緒でホント助かったよ! いつもなら家事全部一人でやんなきゃいけないけど今日はディナーをつくる手間が半分だし、なにより賑やかで楽しいですわ」
えへへーと嬉しそうな顔をする仙石原。俺なんかと一緒で何が楽しいのやら。
「賑やか? 俺あんま喋んないぞ」
「知ってる! でも超楽しい! なんだか新婚夫婦みたいだし」
「シチュエーションはな」
「もううちに婿入りしちゃいなよ! 私、家じゃ一人きりの日が殆どだからマジ寂しいんだよ。オヤジは大阪に単身赴任してるし母親は蒸発したし。っていうか一人だとさ、横に姉貴がいたら楽しいんだろうなとか、考えちゃうんだよね〜」
いつもの調子でヘラヘラしている仙石原は、しれっと深刻なこと言いながらジャガイモとニンジンを手際よくカットし、続いてタマネギ真名板に乗せたが、先ほどまでより心なしかゆっくり包丁を入れてゆく。その飛沫は俺にもかかり、目に涙が浮かんできた。それは当然、仙石原も同じだ。
強がりの涙は見ていてつらい。当然、いちばんつらいのは本人だろう。心のままに泣き喚けばいいのにと思うが、俺も人前でそれをできる自信がない。なるべく笑顔でいたいなんて言う仙石原の重荷を、こんな不器用で何もできない俺に少しでも分けてくれないだろうか。
こういうときに例え偽善でも相手を安心させられる言葉が出たらと思うけど、それができない己の未熟さと不徳さに嫌気が差す。
調理中にビーズの話を訊こう思っていたが、そんな雰囲気ではない。
「あ、宮下、ビーズのこと訊きに来たんだよね」
仙石原の話題振りは、気持ちを切り替えるためのものように聞こえた。俺がああと頷くと、仙石原は食事中に教えてあげると言って、鼻唄でチューリップの唄を口ずさみながら、少しペースを速めてタマネギを刻み始めた。
お読みいただき誠にありがとうございます!
この物語のテーマは『迷える君への贈りもの』ですが、執筆開始当初は多くの方に読んでいただけそうな変態コメディーチックな作風にしようと考えたものの、人気獲得よりも大切なものがあるのではと、喜怒哀楽のプロポーションを考えながら、読者さまの心にしっかり届く作品になるよう心掛けながら紡いでおります。
素敵なイラストを頂戴しておりながら拙い文章であること大変恐縮でございますが、クオリティーアップへ向けて精進してまいりますので何卒宜しくお願い申し上げます。




