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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狂人は二度狂う。

作者: 水鏡 暁

あらすじにも書きましたが念のためこちらでも。


救われないお話が苦手な方は他の幸せなお話を読まれることを強くお勧めいたします。

狂人は二度狂う。








 -【彼】は旅人だった。


   村から村へと流離う、旅人だった。


  【彼】は孤独だった。


  【彼】には居場所がなかった。


   故に【彼】は流離う。【彼】は彷徨う。


   居場所を求めて。


   必要とされたくて。


  【彼】は流離う。【彼】は彷徨う。


   居場所は見つからず。


   誰にも必要とされないまま。


  【彼】は流離う。【彼】は彷徨う。


   心は荒み、やがては狂った。


  そして【彼】は【声】を聞く。


    魅惑溢れる、聞いてはならない【声】を-











 【人狼】。

 それは人に化け、村に入り込み、そして人を喰らう。


 【人狼】を見分けることはできない。

 【占い師】と【霊能者】を除いては。


 【人狼】に人は敵わない。

 【狩人】ただ一人を除いては。


 【人狼】は【人】を魅了する。

 【人狼】に魅了された者、それは【狂人】と呼ばれた。









「ネイル、こんな所にいたのね」


 草むらに寝転がる青年に、一人の娘が呼びかけた。

 青年は目深に被っていた帽子をわずかに持ち上げて声を主を見やる。


「やあ、パトリシア。いい天気だね」


「『いい天気だね』じゃないわよ。こんな真昼間から暢気に寝転んで」


「君もそこに寝転がってごらんよ。僕の気持ちがわかるさ」


 そう言ってネイルと呼ばれた青年は帽子を元に戻した。


 いつもなら。

 そう、いつもならパトリシアと呼ばれた娘は呆れたように立ち去るだけだった。

 けれども今日は。


 ネイルの横に誰かが寝転ぶ気配。

 ネイルは驚きつつもそれを抑えてパトリシアに尋ねた。


「どうだい。なかなかいい気分だろう?」


「ええ、本当に。仕事に時間を使ってしまうのが勿体ないくらいね」


 鮮やかな笑顔。

 彼だけに向けられた笑顔。


 とくん。


 彼の胸が脈打つ。


 柔らかな風がさらさらと草を揺らして過ぎ去っていった。







 翌朝、ルードが無残な姿で発見された。

 彼御自慢のふかふかのベッドの上で。

 まるで獣に喰い散らかされたかのような無残な姿で。



 誰かが言った。

 【人狼】の仕業だと。

 【人狼】がこの村に潜り込んだのだと。



 【彼】は狂喜した。

 これでようやく【人狼】様に会える、と。

 【人狼】様の為に働ける、と。


 【人狼】様に食べてもらえれば、幸せな【生】を与えられる。

 【彼】はそう信じていた。




 村人達は恐れた。

 【人狼】を見分けることはできない。

 頼みの綱の【占い師】と【霊能者】もまた万能ではない。

 【占い師】は一日に一人を占うのが精一杯であり、【霊能者】は死んだ者が【人間】か【人狼】かを知ることしかできなかった。

 【人狼】に人は敵わない。

 けれども、【人狼】もまた万能ではない。

 それ故に【人狼】は人に化け、ひっそりと人を喰らうのだ。



 村人達は決意した。

 【人狼】を打ち倒すことを。

 どんな犠牲を払ってでも【村】を守ることを。



 そして【投票】のための小さな箱と【処刑】のための首吊り台が用意された。




「俺はネイルが怪しいと思う」

「ワシもじゃ」

「僕もだよ!」


 余所者であるネイルへの風当たりが厳しい。

 ネイルにとっては慣れたものであるが、今処刑されるわけにはいかなかった。


「俺には、誰が【人狼】なのかを見抜くことができる」


 村人達がざわめく。

 まさかネイルが【占い師】なのか、と。


「みんな、騙されちゃダメだ!【占い師】は僕だよ!!」


 ニコラが叫んだ。


「ネイルが【占い師】な訳がない!疑われたからそうやって逃げてるだけだ!!」


 しかし村人達にはどちらが本当の【占い師】なのかを見分けることができない。

 故にネイルは処刑の対象から外された。

 例えネイルが偽者だったとしても、本物である可能性を否定できない以上は処刑できない、と。



 結局代わりに処刑対象に選ばれたのはモリスン翁だった。


「ワシはもう老い先短い身じゃしの」


 モリスンは自ら処刑対象に立候補したのだった。


「ニコラ、ネイル、ワシにはお前らのどちらが本物かはわからん。いっそ二人とも本物であってくれたらいいんじゃがのぉ」


 モリスンは村人ひとりひとりの顔を見て、微笑んだ。


「ワシは先にいっとるがな、みんなはゆっくり来るんじゃぞ。孫や曾孫のひとりでも残してから、ゆっくり来るがええぞ」



 そうしてモリスンは処刑台にて吊るされた。


 その姿を直視できないまま、村人達は思った。


 もう後戻りはできないのだと。




 村人達が一人、また一人と数を減らしてゆく。

 ある者は喰われ、ある者は吊られて。



「フローネも死んでしまった。偽者の【占い師】はどうせ人狼であろう。いっそのこと二人とも処刑してしまってはどうだろうか」


 そんな提案をしたのはダルトンだ。

 フローネは【霊能者】だった。

 もちろんフローネが本当に【霊能者】かどうかを知る術を村人達は持たなかったが、フローネ以外に【霊能者】を名乗る者がいなかったので信じた。


「そうだな、【占い師】を処刑するのは心苦しいが、これも【人狼】を打ち倒すため」


 村人達が賛同する。


 しかし、そのときパトリシアが叫んだ。


「まって!ネイルは【人狼】じゃないわ!!【人狼】が襲おうとしているところを、私が守ったわ!!!」


 どよめきが奔る。


「なんと、ネイルが本物の【占い師】であったか…」


「嘘だ!そんな訳がない!!本物の【占い師】は僕だ!!!」


 ニコラが必死で叫ぶが、その言葉を信じる者はもはやいなかった。



 そしてニコラは処刑された。


 パトリシアもまた、無残な姿となって発見された。


 ネイルは村人達に頼み、自らの手でパトリシアを丁寧に埋葬した。


 誰も邪魔はしなかった。

 



 村人達が一人、また一人と数を減らしてゆく。

 ある者は喰われ、ある者は吊られて。




 そうして村は滅んだ。






 村だったその場所にはもはやネイルと【人狼】達しかいなかった。


 ネイルは【人狼】達の前にひざまずいて言った。


「【人狼】様。僕を食べてください。そして僕に新たな【生】をお与えください。パトリシアと共に生きる、幸せな【生】を」


 そう告げて、ネイルは静かに目を閉じた。


「パトリシア?ああ、【狩人】の娘か」


 【人狼】が嗤った。


 あの娘は実に役に立ってくれた、と。


「それに…実に見物だったよ、ニコラも人間だと教えた時のあの娘の顔は」


 【人狼】が嗤う。


 ネイルはパトリシアを悲しませてしまったことを心の中で詫びつつ、新たな【生】できちんと謝ろうと思った。



 -しかし。


「お前もよく役に立ってくれたものだな。その調子でこれからも我々の役に立ってくれよ」


 そう言って【人狼】達はネイルの前から立ち去ろうとした。


 ネイルは目を見開き驚いた。


「待ってください!僕を食べてください!!新たなっ、幸せな【生】をお与えくださいっっ」


 【人狼】達は足を止め、目を丸くし。


 そして、嗤った。


 そんなものがあるわけなかろう、と。



 そのまま【人狼】達は去っていった。


 ネイルはその場にただ立ち尽くしていた。



「嘘、だった、の、か…?」


 呆然と呟く。


「パトリシアと幸せに暮らすことは、出来ない、の、か…?」



 脳裏に鮮やかに蘇る、パトリシアの笑顔。


 ネイルだけに向けられた、愛しい姿。


 けれどもそれはもう。


 永遠に失われてしまった。




「あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛、あ゛」


 彼の喉から声にならない嗚咽が毀れる。


 いつまでも。


 そう、声が枯れるまで。


 声が枯れても、ただ彼は嘆き、そして悔いた。



 もう永久に手に入らない幸福を。


 自ら奪った命を。


 望んで招いた滅びを。



 いつまでも。

 そう、いつまでも…。






 -【彼】は彷徨う。【彼】は流離う。


   居場所を失ったが故に。


   自ら消し去ってしまったが故に。


  【彼】は彷徨う。【彼】は流離う。


   もはや手に入らない幸福を嘆きながら。


   自ら犯した罪を嘆きながら。


  【彼】は彷徨う。【彼】は流離う。


    ただ、【彼】の旅は続く-







題材に使っているのは人狼なのですが、やはり二次創作としてカテゴライズしないと不味いのでしょうか。

一応キャラクターネーム等は変えてあるのですけれども、役職名等はそのまま使ってあるので…。

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