見知らぬ地で part1
目覚めて最初に見たものは、板張りの天井だった。
「ここは……? 痛っ!」
ベッドから身を起こした彼は、頭の痛みに呻き、再びベッドに沈む。そのため、首だけを巡らし辺りを見やる。
机や椅子に箪笥や棚といった、生活を営むための最低限の道具しか置かれていない。ここの家主は無駄を嫌う性格なのだろうか。
――そして、ふと思った。
(俺は……、誰だ?)
知識はあるが、記憶が無い。ただ、空虚な闇、『虚無』が広がっているのみである。
と、その時彼の目に立て掛けられた一振りの剣が留まった。
自分のことなど忘れて立ち上がり、吸い寄せられるように剣へと向かう。不思議なことに頭の痛みは感じなかった。
鞘を手に取り、剣を抜く。剣は心地良い音を立て、滑らかに抜けた。
刀身はうっすらと銀光を放っていて、神秘的な美しさを持っている。見入ること数秒、我に返り剣を収める。
元の場所に戻そうとして剣を下向きに持ち替えると、そこに小さく文字が彫られているいることに気付いた。
読むと、『Clord Velks』と彫られている。勿論知らない名前だが、どこか引っ掛かる。
が、考えても埒が明かないので、剣を戻す。
静けさが場を支配。
彼は何をしようか考えるが、何も浮かばないので諦めてベッドへ。眠りにつく。
気が付くと、彼は暗闇の中にいた。
彼には、それが永遠に感じられた。
と、遥か遠くに点が見えた。
おそらく、光が。
但し、一瞬だけ。
儚く揺らぎつつ。
それが何度か繰り返され、
やがて――
「今のは……、夢か?」
彼は跳ね起き、呆けたように呟く。
やけに意味深い夢を思い起こす。
(あれは、俺の失くした記憶の手掛かりなのだろうか)
思案した彼は、とりあえずこの部屋を出ることに。扉に向かって歩く。
ノブに手を伸ばそうとしたその時、突如扉が迫ってきた。
「何っ!?」
危険を感じ跳び退こうとするが、時既に遅し。
声を上げる間も無く顔面に。
彼は本日3度目の眠りについた。
――数分後、彼は意識を取り戻した。顔にはまだ痺れが残っており、不快である。
傍には男が立っていて、少し不安そうにこちらを見ている。
「大丈夫か? って、俺のせいなんだが……」
男は40くらいで、短めの茶色い髪に、同色の眼に髭。そして、おそらくは何かの作業着であろう、色褪せた青(水色とは言い難い)の上下という姿。
今はすまなそうな顔をしているが、気さくな性格そうだ。
「ああ、平気だ。気にしてない」
不快な顔のままそう言うと、男は嬉しそうな顔に早変わり。
「そうか、良かった!! だが、何故あんな場所にいたんだ?」
男の質問に、冷静に答える。
「すまない。どうやら俺には記憶が無いようだ。悪いが、ここは?」
「言っても分からんかもしれないが、ここはメイファ国のフレイグという町だ。そして、俺はガイン・アルベリー。この町で鍛冶屋を営んでいる。あ、俺を呼ぶ時は呼び捨てで構わないからな。えっと……、名前も分からないのか?」
「そうだが……、それが何か?」
疑問に思いつつも彼は答える。
「きっと、お前の名前は『クロード』だろう。クロード・ヴェルクス。とりあえず、そう名乗ってれば良いんじゃないか?」
(クロード・ヴェルクスって、あの剣の… ってことは…)
彼が思案しているところにガインが一言。
「ところで、剣を見たか? あれはお前が持っていたものだぞ?」
「……そうか。じゃあ、やはりあれは俺の……?」
彼は少し考えてから呟く。更に一拍置き、ガインに向く。
「ありがとう、ひとまずそう名乗ることにする」
そして彼――クロードは思い出したようにガインに尋ねる。
「そう言えば、俺はどうやって助けられたんだ? 『あんなところ』って言ってたが……」
すると、ガインも思い出したような顔をし、そうだなと呟き語り出す。