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Lost Memories~失われし記憶~  作者: 銀 煌輝
プロローグ
3/15

襲撃、そして……


 クロードは咄嗟のことながらも冷静さを失わず、後方へ飛び退き身構える。その動作の中で剣を抜くことも忘れない。

 警戒態勢を保ったまま、少しの時間が経った。来ない。

 クロードは、攻撃を仕掛けて来ない敵に苛立ち始め、叱咤する。

「誰だか知らないが、いるのは分かっている。出て来いよ、正々堂々と勝負だ!」

 しかし返事は無く、沈黙が場を支配。

 平静に戻ったクロードは、一向に現れない敵を挑発。

「おいおい、もしかして俺と闘うのが恐いのか?」

 すると、極めて冷静な声が返ってきた。

「私なら、先程からここにいますが?」

 言葉と同時にクロードの前方の空間が歪み、中から一人の男が現れる。

(口調は穏やかだが、挑発に乗ってきたな)

 男は全身黒一色という格好で、フードを被り顔を隠している。ただ1ヶ所見えている口元は軽く綻んでいる。

 クロードが戦闘体勢に入ると、にわかに剣が光り出す。うっすらと銀に煌めく剣にはいつも見入ってしまう。これは先王から賜りし魔剣である。

 クロードはこの剣と共にいくつもの戦場をくぐり抜けてきた。まさに相棒と呼ぶに相応しい剣だ。

 男に剣を向け、静かに問う。

「何者だ? 目的は明白だがな」

 すると、男は更に口元を弛めた。

「流石はクロード将軍、話が早い。透明化の魔法にも驚いてませんし、私は今驚嘆していますよ」

 先程と変わらない声音で答える男。

(質問に答えない、か。だったらこっちから言ってやる)

「おい、お前は間諜だろう?」

 男は黙したまま答えない。

(やはり答えないか。まあ、当たり前か)

 そうクロードが思っているところに、

「正解ですが、私は間諜ではありませんよ」との答え。

(正解なのか、それは?)

 疑問に思いつつも、クロードは更に質問を重ねる。

「なら、やはり暗殺者か」

 質問というより、もう断定の口調である。

 男は「まあそんなところです」と軽く肯定。そして、

「貴方は聡明だ。しかし、もう終わりにしたいので、最後に一つ。貴方達の王は此方へ着きました。ですが、貴方を味方にすることは無理なようですね。ではっ!!」

 これを最後に走り出す男。その手にはいつの間にか短剣が。

 クロードは、繰り出された男の攻撃を難なく受け止めるが、男は素早く軌道を変え、次の斬撃を送ってくる。

 すっかり防御に回ってしまったクロードは、相手の速さにより攻撃に転じられない。

「どうしました? 反撃しないのですか? 防戦一方では勝てませんよ?」

 男はいとも容易く斬撃を叩き込んでくる。その動きからは全く疲れの色は見えない。

 クロードも今はまだ平気だが、防ぐにも限界というものがある。

(何なんだ、コイツは? 化け物かよっ!?)

 クロードは歯を食いしばり、一撃一撃を耐え忍ぶ。

 時々反撃をするも、その全てが簡単に避けられてしまう。

 そして、クロードの体力もそろそろ限界に。対して男は息一つ程しか乱していない。

 クロードは国内でもトップクラスの実力者なのだが、この男はその彼をも凌ぐ力を持っている。

 そして、男の攻撃を大きく弾き返したのを最後に、クロードの手は止まった。

(くっ、これで終わりなのか……?)

 焦るクロード、何か手を考えるが思いつかない。

「少々手こずりましたが任務は遂行できました。残念でしたね、貴方は謎の失踪を遂げたことになるでしょう」

 もうシナリオは出来上がっているらしい。どうにかできないものか……

 男が短剣を振り上げ、絶体絶命の窮地に陥ったその時、クロードの魔剣が突如目映い光を放った。

「!? ……これはっ!!」

 剣から強い魔力を感じ取ったクロードの口から謎の言葉が流れ出る。

 視界全てが光で覆われ、それが収束した後、廊下にはただ一人だけが立っていた。

 その顔には驚きがありありと浮かんでいる。

「まさか……しくじっただと!? くそっ、なかなかやるな、クロード……」

 軽く舌打ちをして男は姿を消す。

 廊下には何の痕跡も残らず、激戦があったことは分からない。

 光り輝く月明かりの下、今日この宮殿から将軍が跡形もなく消えたことに「気付いた」ものは皆無だった。

 


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