本当の彼女
最初で最後の作品となります。
自分の家庭環境がもとの作品になっていますが、流石にここまでひどくはないのでご安心ください。
彼女の友人はこう言った。
「あの子のこと、ですか…。明るくて本当に優しい子でしたよ。一人でいる子に話しかけたりして…太陽みたいな子でした」
彼女の弟はこう言った。
「姉ちゃんねぇ…。しっかりしてて頭もいい。頼んだらなんでもやってくれる。まさに『これぞ姉』みたいな人でした」
彼女の父親はこう言った。
「娘について…?そうですね…私の出張が多くても何一つ文句を言わない、我慢強い子だったと思います」
彼女の母親はこう言った。
「娘のことね…。良い子でしたよ。悪いことをしてもそれ以降同じ過ちはしない。本当に、良い子だったのに…どうして」
でも彼らは知らない。”本当の彼女”の姿を。こっちの世界にしかさらけ出さなかった…いや”さらけ出せなかった”一人の少女の苦しみを。
時は遡り数年前。僕が彼女を見つけたのは、某SNSだった。たまたま僕のもとに流れてきた彼女の投稿。それは彼女の普段隠している本当の思いだった。
「良い子ちゃんでいるのしんどい。ここしか本当の居場所はない」
たったその二言だけだった。しかしなぜか、僕の興味を唆った。そこでまず僕は、彼女の投稿を遡ることにした。彼女の投稿は基本家族への愚痴だった。
「最悪勝手に進路決めやがって」「レベル上げ頼んだって…やったことないわこんなゲーム」「また父親出張ですか」「家事ありがとねじゃないんだよやらせてんだろ」「勉強教えろってなんだよ態度おかしいだろ」「また出張かよはやく転職しろ」
どうやら彼女は家族から色々コキ使われ、進路も自分の思うところにさせてくれないような家庭にいるらしい。まるで操り人形じゃないか。この時点でも少し彼女の家族に引いていたが、その後の投稿にて僕はもっと引くことになる。
それには「こんなものが出てきました。毎年親に書かされたな。なつかしい」の言葉とともに、写真が投稿されていた。写真には古びた一枚の紙が写っている。そして子どもらしい独特な…でも読めないことはない字でこんなことが書いていた。
けいやくしょ
ことし、わたしはおかあさん・おとうさんにさからわないことをちかいます。
まんがいちさからったばあい、わたしのおもちゃ・ほんはすべてすててもかまいません。
ごはんもいりません。
へいせい◯ねん1がつ1にち ◯○○○◯◯◯
これを見て、思わず彼女の両親にドン引きした。すべてひらがなということは、彼女がまだ幼いときに書いたものなのだろう。そんな幼い子に、こんな内容の契約書を書かせた?親以前に人として終わっている。そりゃあ居場所はここしかないと言うよな。この日から僕は、彼女の投稿を見るようになった。もちろん興味もあったが、それよりも彼女の行く末が気になったからだ。
彼女を知ってから数日、「掃除してるからかな。またなんか出てきた」の言葉とともに、今度はノートとページの一部の写真が投稿された。このノートも前の紙と同じくらい古くなっていて汚れている。内容的にどうやら日記帳として使っていたものらしい。
※がつ※にち
おとうとは、おもいどおりにならないとなぐってけってくる。いたいのはいやだから、ついきいちゃう。だからずっとつづく。おかあさんにいっても、おねえちゃんだからがまんしなさいっていう。なんでおねえちゃんはがまんしなきゃいけないの。
僕はまた衝撃を受けた。彼女は両親だけでなく、弟の言いなりにもならざるを得ない環境にいたのか。彼女の家族にますます不信感を抱く。よくここまで彼女はまともに(かはまだ分からないが)生きてこられたな。
その後も彼女の投稿を見続け、彼女がどう生きているのか少し分かってきた。
家でも学校でも都合のいい人間を演じていること。そのせいで”本当の自分”をさらけ出せるのがここしかなくなったこと。家事のほとんどをこなしながら勉学に取り組んでいること。両親によって勝手に人生のレールを敷かれていること。両親も弟も彼女のこの扱いに疑問もなにも持っていないこと。
やはりこの家族は異常だ。このままでは彼女は壊れてしまう。
しかしその予感は外れていた。彼女はもうとっくに壊れていたのだ。その証拠が、彼女の最後となる投稿だった。
「もう限界。明るくするのも、姉なのも、我慢するのも、良い子なのも。だから今日終わらせます。今まで愚痴を聞いてくださってありがとうございました。さようなら」
そしてこの投稿をして間もなく、1つの事件が起きた。
『速報です。◯◯町で通行人が無差別に切りつけられる事件が起きました。犯人は逃走中です』
その日以降彼女が投稿することはなかった。恐らくこの事件を起こすことが、彼女の言う”終わり”なのだろう。まだ犯人が彼女だとは分からないが、なぜか僕は彼女が犯人だと確信していた。
それから数日経ち、その事件の犯人が自殺したことが分かった。犯人は女子高生だったらしい。その友人や家族がマスコミのインタビューに応えていた。それが最初の4人の発言である。
本当に彼らは”彼女”をなにも知らなかったんだな。
彼女の家族や友人が、こっちの世界にいた”本当の彼女”を知ることはないだろう。でも確かに”彼女”はここにいた。ここでしか自由がなかった。そうしたのは紛れもなくお前達なんだと、一人の人間を殺したのと同じなんだと、そう奴らに言ってやりたい。
そうして僕は一人の少女の死を悼みつつ、そっとパソコンを閉じた。




