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 ティアは私に執着されているのを知っているはずなのに、余裕でそれを受け入れ、超えてくる。




「──ティア……とても綺麗です。ああ、貴方を褒めるための気の利いた言葉がこれ以上出ません。本当に綺麗です、私の女神……」

「セオ……まだ入ってきたらダメじゃないか」


 今日はセオの十八歳の誕生日。

 そして私達の結婚式の日でもあった。


 セオが「私の誕生日に、ティアと必ず結婚します」と宣言したせいで、周りを巻き込みの大騒動になったのも今は懐かしい。


 意外だったのは、私が国王夫妻をはじめ、相手の家族全員から好意的に見られていたことだ。

 少なからず、私は令嬢と呼ぶには相応しくない行いをしているのに、「ラスをよろしくね」「幸せにしてあげてね」と優しい言葉をいただいた。


「本当に……素敵ですね」


 セオはため息をついては、愛おしそうに私を見つめている。


 繊細なレースが何層にも折り重なり、大量の真珠が散りばめられた純白のドレスに私は身を包んでいた。


 このドレスはセオがデザインしたものだ。

 王族御用達の仕立て屋の職人達と一緒に作りました──とセオが嬉しそうに報告にきたのはいつの日か。


「こら、セオ。まだ着替えが最後まで終わってないって言ってるだろう?」

「大丈夫です。ティアの着替えを手伝うために私はここに来たんですよ」


 セオは自分の支度を既に済ませているらしく、白いタキシードに身を包み、髪はきっちりと後ろに撫で付けていた。

 いつも以上にかっこよく、色気が溢れている。


 私の周りでドレスを着付けてくれている女性陣も、着飾ったセオを見てため息を漏らしている。


「ティア、このレースの手袋をしましょうか」

「ん……セオがして」


 上目遣いでセオを見上げ、手を差し出す。

 セオは目を丸くした後、幸せそうに微笑んだ。


「……ここでそんな甘え方は卑怯ですね」

「なんだ、手伝ってくれるんじゃないの?」

「──お手をどうぞ、私の姫様」


 私とセオの手が重なった。






 みんなが見守る中、夫婦になるための誓いの言葉を互いに交わし、最後に国王から祝福の魔法が掛けられる。


「これで──互いが死ぬまで……いえ、死ぬ時も一緒で、死んだ後もティアと一緒です」

「セオ、結婚式のめでたい日に有るまじき言葉だよ」

「私は本気で言っています」

「ふふっ、仕方ないな。じゃあ、セオに付き合うよ」


 ふっ、とセオが緩く微笑む。

 あまり見たことがない笑い方をした後。


「──セレスティア……やっと言えます。好きです、愛してます」


 セオから初めて告白をされた。

 私を大事そうに抱きしめながら、たくさんのキスの雨が降り注ぐ。


「好き」とか「愛してる」なんて、私が本当に欲しかった甘い言葉はずっと言わなかったくせに。

 こんな大切な時に、ちゃんとくれるセオはずるい。




「セレス〜〜!!!幸せになりなさいっ!!!」


 ずっと大号泣しているのは意外にも私の父だった。

 私が嫁に行くのが相当寂しかったらしく、この有様だ。


「ごめん、セオ。父上がうるさくて」

「いいんですよ。私のお義父様でもありますから」

「……うん、ありがとう」


 私はきっと幸せな娘だ。

 こんなにも多くの人達から祝福され、その中心にセオと並んで立っているのだから。



 ・・・



 侍女達にピカピカに磨かれた後、私はセオと寝室のベッドの上にいた。


 セオは慌てて来たのかまだ髪が濡れている。

 そんなに焦らなくても逃げたりしないよ、と言いながら私はセオの髪をタオルで拭いながら乾かしていく。


「……普段は魔法で乾かすので、髪を拭いてもらえるのって……すごく幸せなんですね」

「あ、そうか。セオは魔法で髪を乾かせるんだったね。……もしかしてわざと乾かさないで来たの?」

「……どうでしょうか?」


 そんなに幸せそうな顔をされたら、それ以上は何も言えないじゃないか。



「──ティア。私は貴方の望んだ通り、自力で貴方を手に入れるために頑張りました。褒めてくださいますか?」

「うん、セオは頑張ったよ。偉いね……いい子だね」


 柔らかな金の髪を撫でると、セオは私の手に擦り寄ってくる。


「やっと……貴方をこの手に抱けます」

「それは光栄だな」

「……ティア。好きです、愛しています」

「私も好きだよ。でも、好きなら何でずっと言葉にして言ってくれなかったんだ?」

「それは……一度でも言ってしまったら、想いが溢れてティアを無理矢理にでも襲ってしまいそうでしたから……」

「我慢、してたんだ?」


 セオの顔が赤くなる。


「私だって男なんです。好きな女性を……こうしたいって、ずっと思ってました」


 私はあっという間にセオに組み敷かれる。

 アクアマリンの瞳はもう私しか映していない。


「セオ、待っ──」

「もう……十分待ちました。ティア。今夜は私に、たくさん溺れてください……」


 そのまま、私達はシーツの海に沈んだ。


 ──ここで、本気のセオの執着を侮っていたのは大いに反省したい。

 まさかここからが本番だったなんて、誰が思う?


 私が無事、寝室から出られたのは初夜から三日後だった。




 ・・・




「──お母様っ!!」


 現在六人目を妊娠中の私は、十二歳になる長男ルミエルに大声で呼ばれていた。


「落ち着いて、ルミエル。どうしたの?」

「気になる女性がいましたっ!彼女は私の天使なんです!」


 ……どこかで聞いたようなセリフだ。


「彼女のことがもっと知りたいんです!お母様!女性はどんな物を贈られたら嬉しいですか?好きな女性をデートに誘うにはどうしたらよいですか?」

「そうねぇ……」


 夫と同じ色をしたアクアマリンの瞳が輝いて、私の答えをじっと待っている。


「──ルミエル、その質問にはお父様が答えようか?」


 いつの間にか私の背後にセオがいる。

 ルミエルは父親であるセオを見ると少しだけ嫌そうに顔を顰めた。


「お父様……私は女性であるお母様の意見が聞きたいのです!」

「お母様のお腹には赤ちゃんがいて、今は大事な時期なんだよ?ルミエルの我儘でお母様を困らせていいの?」

「セオ、そんな言い方──」

「ティアは黙っていてください。ルミエルも十二歳になったのですから、自分でどう行動すればいいのかを考えるにはいい機会です。ルミエル、わかったね?」


 ……セオは子供にも容赦ない。

 私が子供達に構っていると、必ずこうやってやってきては邪魔をする。


「セオ!ルミエルが可哀想でしょう?」

「──……ティアはルミエルの肩を持つのですか?」


 微笑んでいるのに、目の奥が笑ってない。

 セオの執着は何年経っても相変わらずだった。


「違うわ。セオと一緒にルミエルの恋路を考えたいの……駄目……?」

「駄目なわけありません!ティアがそう言うなら一緒に考えましょう」


 セオの扱いは随分慣れたと思う。

 ルミエルはそんな私達を見て苦笑している。


 近い将来、子供達もセオみたいに執着が激しい子達になるのだろうか?

 それでも一途に、こんなに愛してもらえるのは悪くない。


「セオ、愛してるから機嫌を直して?」


 そう言って、私は愛しい旦那様にキスを贈った。




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