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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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極言すれば地獄なり

作者: stage

 暗く、寒く、痛く、悲しく、辛く、寂しい。人類には、そんな唯一の場所がある。「地獄」である。




 神様は、天に居りました。確かに居りました。天は、漂う雲を纏った金の風の流れが幻想的で、そこに神様は居りました。神様は1つかもしれず、複数居りますかもしれません。いらっしゃる神様の形状も、特質も、人間には完全に知覚できはしません。が、今という時点に、その場所にいらっしゃる神様は、ただ1つ、その神様のみのように、私には思えた。

 神様は、地獄をご覧になっていた。神様は女神のようであった、長い金糸がたなびいてらっしゃって、それが髪の毛のように思えたからであった。

「神様が地獄を気にされるとは……」

と、周りの風が、その金糸を弄ぶように囁いているから、

「神様?」

とただ思念なさった。モワモワとした球体状の黄色の雲の如き無体物が色も形も絶えず変化していて、そこが思念なさっていた。その流体と流体以外との境界だけは隔絶していて、真っ白な輪郭が何よりも硬く閉じていながら、区分的な滑らかさを思わせた。神様は、恐らく、人間が肉眼視することも不可能なのであろう。言葉も、そのようにこちらが解しただけで、私にはこれ以上の翻訳はできぬ。神様の御言も、やはり日本語ではないようで、私にはそのように解することしかできなくて、これが人間の思料の限界というもの。

「神様と思われる存在は、自身を神と思うか?……同様だ。善と思われる存在は、なぜ自身を善と思うか?」

 神様は、珍しく感懐した。畔の近くの墓園にて、その夜の湿っ気を浴びるかのような、冷たい感懐であった。

「小さな女を地獄に落とした。人間歳で数えるなら、550程になる。女は10歳であった、全くの無辜であった。だが、【我】は、地獄に落とした。無実の罪で牢に入れられ、無限にも思える拘束と苛烈な拷問を受け、食事も水も殆ど与えられず、1年後、苦しみながら、死んだ。あばらが浮き、顔つきは骨さえ分かるようなものだった。そんな小さな女だ。【我】はそれを地獄に落としたのだ。当然の行為だ。この行為が誤りであると、思ってはならない。思ってはならないのだ。誤りであると、そう思った時点で、神様は誤ったということに成る、それはいけない。あくまで【我】は、【我】であることを、絶対的確定的公理として、在らなければならぬ。地獄から救い出してはならぬという法は、変えられぬ。」

 神様の、恐らく眼の機能する、煌めく水晶の先にあったのは、真っピンクに染まった、肉塊であった。赤い池にプカプカと浮いていた。その肉塊には、内部に通ずる穴の跡である凹みができていた。神様は何度も何度もそこに訪れていらっしゃって、水晶にその姿を写しとるかのようであった。




 私には「神様が微笑んで」くださった気がした。もう、神様に敬語を使わなくて済む、とも思った。私に縋りつこうとした卑しい女、駅で暴れ出す中年の男、何度とがめられても物乞いを行う老人達。卑しい姿は、多数につかぬ愚か者の末路、自己の責任。この夢から覚めた朝に、ベッドから立ち上がって、ワインを飲んだ。外は冷たい雨であった。ワイングラスをゆっくりと回して、ボウルの曲面に沿ってできる赤紫の滴りが、窓の外側をべったりと濡らして重力でゆっくりと落ちていく雨水と、相似であった。

 その日の昼頃、友人が尋ねてきた。肩も濡れていなかった。

「せっかくだから、面白い話をしてもいいかい?」

「くだらない話の間違いだろう?」

 友人はいつものように微笑んでくれていた。

 地獄の存在は、人間には一種の救いにもなるであろう。では、この世は地獄か、他人は地獄か。それを成す我々は善か?善であると思い違いをしているだけか?神にさえなれない悪魔か?悪魔にさえなれない肉塊か?

 私には、分からない。




 ただし。ただし、この俺の感情だけは、誰の物にもならない。お前がたとえ神様でも、俺の頭の中だけは自由だ。変えられると思うなよ、なあ、「神様」。お前が、政治的な、微妙な琴線で遊ぶ姿、実に!愉快、愉快……!

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