『黒薔薇様』と『赤薔薇様』
「まさに“絵画”のようだな…」
「並んで立つだけで物語になるわ…」
「どちらがリードしても、破綻しない完璧な対称性…」
混雑した昼の食堂。生徒たちの間を涼しい顔で歩く二人の男女。
静かなる黒髪の美貌に、王家の色の紫の瞳、どこか冷ややかで鋭い視線を持つ『黒薔薇様』。
その隣には、艶やかな金の巻き髪と印象的な紅の瞳、“傾国“の美女然とした『赤薔薇様』。
時折、ふと目を交わし、それだけで通じ合う様子の二人の姿に、食堂に居合わせた生徒たちは目を奪われていた。
どれだけ注目されていようとも気にも留めず、トレイを返却し終えた二人は並び去って行く。
「はぁ…美しい…」
「冷徹で優雅なS×Sカップルって感じ…尊い…」
残された生徒たちのつぶやきがざわめきの中に消えていった。
5分後、生徒会室にて。
「なんで今日に限っていつもより食堂混んでたの…!ご飯の味がわからなかった…!」
べそり、と半泣きで声を上げる「黒薔薇様」ことレオン。
「視線も多かったですわぁ…怖かったですわぁ…!」
同じくべそべそと涙で眼を濡らす「赤薔薇様」ことルージュ。
二人は泣き虫だった。小さな頃からずっと、それはそれはとんでもない泣き虫だった。
小鳥に囁かれては泣き、子犬にじゃれつかれては泣き、「誰かを傷つけたかもしれない」と泣き。とにかく泣いた。高貴な身分として人前に出る機会は多いのに、それが怖いと泣くのは今も変わらない。ただ、少し我慢できるようになっただけ。
「ルー、ルー。泣かないで。目が腫れちゃうよ」
レオンがルージュにハンカチを差し出す。
「レオこそ泣かないでくださいまし。私、余計に涙がでてしまいますわ」
ルージュもレオンにハンカチを差し出す。
どうしようもない泣き虫の二人だけれど、だからこそ二人にとってお互いは最大の理解者だった。
お互いに励まし、慰め、そばにいる。それも小さな頃からずっと変わらない。
「お菓子、食べようか。ルー、お昼ご飯残してたでしょ?」
「ありがとうですわ、レオ。では、私はお茶をいれますわ」
まだ涙の残る眼を合わせて、二人は笑う。
怖いことだらけの毎日だけど、二人でいるから大丈夫。
甘いお菓子と温かいお茶で心を落ち着けて、午後も頑張ろう、と二人は頷きあった。
“黒薔薇様”と“赤薔薇様”。
周囲からのイメージとは全く異なる、弱虫で泣き虫、だけど、優しい二人の優しい毎日は続く。