1 趣味、幽体離脱
あれは、高校に入学した初めての夏のことだった。
俺は平 有李、高校生1年生
正確に言うなら高校2年生になってる予定だったんだが、高校1年生のときのある変わった趣味によって幽霊になってしまった。
その趣味とは幽体離脱、皆さんも人生で1回は聞いたことがあるだろう。
幽体離脱とは、体から魂が離れて遠くの場所に行ったり出来ること。俺も名前は知っていたが自分がいざなった時は死んだかと思った。
初めて幽体離脱したのは、俺は高校入学して夏休みが終わり人間関係や部活の悩みで眠りも浅く寝不足になっていたとき。
高校は小学校からの親友、山下 海琉と同じ高校に入学して、2人で中学の時と同じ美術部に入ることにして1学期は特に何もなく楽しく過ごしていた。
夏休みが終わり2学期が始まった頃、親友の海琉の様子がおかしいこと気付いた。
ある日の5分休み海琉が俺に
「有李、俺と一緒に野球部に入部しようぜ」
俺は困惑した、海琉の口調が変わっていて何より運動が大の苦手で中学の頃には体育の授業をズル休みしていた、あの海琉が野球部に入ろうとしている。
「海琉なんかいつもと違くない?運動苦手じゃん」
それを聞いた海琉は少し嫌な顔をしたが、何も言わず自分の席に戻っていった。
その日は会話をせず次の日、俺が朝学校に着き廊下を歩いていると後ろから野球部の顧問に呼び止められる。
「おっ、平!!山下から聞いたぞ野球部に入部したいらしいな」
俺は何を言っているか分からず戸惑って言葉が出ないでいると、前から海琉が俺に近づいて話しかける。
「有李が中々決めないから俺から先生に言っといた。一緒に甲子園目指そう!!」
何言ってるんだ、海琉
「いや、何言って……」
海琉は俺の言葉を遮って
「と、言う事で先生俺達野球部に入部します!!」
野球部の顧問の前でこんな事言うもんだから、俺は断れず美術部を退部して野球部に入部した。
それからは、伸ばしていた髪を坊主にして、これまでに無い大変な日々が続いた最初は
「まぁ海琉も居るし大丈夫か」
なんて、甘い考えをしていた。
海琉前とは性格が変わった様に野球に打ち込んで俺への接し方も厳しくなって、海琉はいつもこう言っていた。
「俺は昔から野球部に入部して甲子園に行きたかったんだ!!一度は諦めた夢だったけど今度は諦めない」
俺は海琉と小学校からの親友で、そんな事言う奴じゃないと知っている
その時の俺はそれ以上の事を考えられなかった、何故なら朝練 夕練 休日の練習 先輩との人間関係の悪化、時々どこかに逃げたい気持ちになっていた。
入部して1週間が経ち、夕練で体力を使い切り部屋の扉を全開に開けたまま変な時間に寝てしまった。
しばらくして目が覚めた。机にある時計を見ようと思い起き上がろうと力を入れたとき、俺は違和感を感じた。
手を動かそうとして動かない……声も出ない
「これはもしかして金縛り……」と思い、力尽くで起き上がってみたら、意外と楽に起き上がれていつもより体が軽く感じた
「少し寝たからかな?めっちゃ体が楽!!」
さっき大分焦って喉が渇いた、お茶を飲みにリビングへ向かうとリビングに知らないお爺さんが当たり前の様にソファーに座ってくつろいでいて、俺は驚きながら警察に通報するか悩みながらも、一応、危ない人か確かめる為に話しかけることにした。
「あの……お爺さん、家間違えてませんか?」
話しかけたが、お爺さんは反応しない。
最初は遠くから話しかけてたけど、俺は痺れを切らしてお爺さんに近づいて顔見た、その時ある事に気付いた…
「このお爺さん全身が透けてる!?って事は幽霊……」
背中から頭にかけてゾワゾワっとしてきて俺は走って自分の部屋に戻った。
部屋に戻ってからも不思議な体験は続く、部屋に戻り安心したのもつかの間自分のベッドを見て俺は驚愕する。
ベッドの上に自分が横たわっていたからだ!!
慌てて、ベッドの上にある自分の体を触ろうとしたが
「触れない!?なんで」
どんどん心配になって「俺もしかして死んだ……?」そう思っていると、後ろから男性に名前を呼ばれた気がした。
振り向くと、部屋の隅にリビングに居たお爺さんの幽霊とはまた別のおじさんの幽霊が俺を見ながら立っていた。
そのおじさんの幽霊は話せて。俺はチャンスだと思い今の俺の状況について聞く。
すると、おじさんの幽霊はこう答えた。
「今のお前は寝不足とかストレスとかそうゆうのが、こう……混ざって幽体離脱して俺と話してるってわけ、戻りたい時は出てきた時と同じ様にすればいいんだ。また聞きたいことや話したいことがあるなら、幽体離脱しな」
「……はい」
俺は疑いながらもおじさんの幽霊に教わった通り、出てきた時と同じ様にする。
そしたら、戻れて完全におじさんの幽霊を信頼してしまった。
これが俺にとって1番の失態だと後に気付く事になる。
この日も俺は朝練に行き、特定の先輩にずっと怒鳴られ精神的にも肉体的にもボロボロになって帰宅する。
自分の部屋にこもって、誰かに話を聞いて欲しいそんな気分でおじさんの幽霊の事を思い出した、また幽体離脱をやってみようとベッドに横になり勢い良く起き上がる。
すると、あの時と同じ体が軽い感じがして部屋の隅を見ると立っているおじさんの幽霊を見つけた。
俺はコツを掴んで、自分の意志で幽体離脱をするようになった。
おじさんと出会って1ヶ月が経った、その頃には趣味のように1日に2回ほど幽体離脱をするようになって、その日におじさんが何故幽霊になったかを話してくれることになった。
「俺は生きてる時に小さい犯罪を繰り返していた、俺が死んだ日は万引きしたビールを路上で飲んで酔っ払ってしまって絡んだらいけなそうな人に絡んで……そんまま。その後死んだらみんなスーッと天国に行けると思ってた、けど俺は俺のままじゃ天国に行けないんだってさ」
「色々大変だったんですね……」
「だからお前に頼みがある、昔父ちゃんと一緒に見た海を見て来て欲しい。お願いだ、俺はここの縄張りしか動けねぇんだよ……」
この頃は、完全に良い人だと思い込んでいたから俺はおじさんに同情しておじさんの頼みを聞きいれる。
「分かりました、海を見てくればいいんですね」
おじさんは嬉しそうに
「お前は優しいな!!あっでも一つ忠告がある、海は時間を狂わす。な~んちゃってな」
その後おじさんはしばらく大笑いしていた、不気味なくらいに。
俺は翌日の夜中幽体離脱をして、おじさんのお願いを果たしに指定された海へ向かう。
「こんなに自分の体から離れたのは、初めてだから大丈夫かな?おじさんは幽体離脱して隣の県まで行ってた奴見たから大丈夫って言ってけど……あと「俺がお前の体に変な幽霊に入られないように見張っとく」って言ってたし…………入られるとかあるんだな……怖い世界」
なんか怖いから、知らない人の後ろにくっつきながらやっと海に着いた。海を見てよしっ、これでおじさんの願いを叶えられた!!
そう思いながら来た時と同じ様に家に帰ると、そろそろ朝になっているはずが、まだ夜だった。
不思議に思いながら玄関の扉を通り抜けて入ろうとしたとき玄関が開いた。
出てきた人をよく見ると、喪服を着ている。
その人は、泣いている母さんとそれを落ち着かせる父さんだった。
2人は車に乗り何処かに向かう。
俺もこの時点で何がおかしいと思いながら2人の後ろをついて行った。
着いた先は葬式場、誰のお葬式だろうと棺の中を覗くとそれは俺の顔だった…………
俺は死んだらしい。
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