02
ホームレスとなった刑事、”坂本 直樹”が死体となって見つかったあの現場に黒田とボルグは再びやってきていた。もうその場所は昨日のうちに綺麗に片付けられていたのか、痕跡は何1つとも残されていなかった。
「……出来ればこの裏路地の汚さも綺麗に片付けてくれっての」
黒田は坂本が居た場所に立ち、周りを見渡してからこの事件で得ていた情報を予め整理することにした。
坂本刑事はここ、路地裏でレーザー銃に撃たれた。一体”誰”に撃たれたか……こいつがこの事件を引き起こした犯人になる。犯人は何故坂本刑事を殺害したのか……轟木の情報によれば坂本刑事は4年前にサイバーギャング団の一員を追いかけていたらしいが、坂本の指揮ミスによって相手を死なせてしまっている。もしそれを根に持ってサイバーギャング団が坂本に復讐したのならば、おかしくはない話だ。例のサイバーギャング団もまだ捕まってはいない。この線で辿るなら一番可能性が高いだろう。……だが、これはまだ仮設にしかない。とりあえずは置いていくことにしよう。
もう1つ目がこの犯行現場だ。
この繫華街の路地裏は狭くて、昼になっても薄暗い。通れても一人までが限界、そしてあまり人は通らない。犯行をするには恰好な場所だろう。
情報によればだ、死体が見つかったのは朝方だった。第一発見者はゴミを置きに来たBARの店主。坂本の遺体の腐敗は進んでおらず、見つかってから4時間は経っていた。血痕跡も探したが、この場所以外は無かったとのこと。犯行現場はこの路地裏で間違いないだろう。
そして最後の1つが、ロボット犯罪の可能性。
坂本の近くにバッテリーが切れた状態で、棒たちで立っていた一体のロボットがいた。そのロボットはworld:bot社が制作したjob:botであった。
名はP-303型警官ロボット、”ボルク”。
この事件で一番ロボット犯罪として使われていた可能性の高いロボットだ。だが、その証拠を探ろうにもjob:botのZIP機能により探るにも下手に手を出せない状態だ。仕方ないため、家に持ち帰り調べることした。バッテリーを交換し目を覚ましたボルグから情報を取ろうとしたが、ボルクのメモリーはなくなっていた。メモリーがなくなった原因は、相手側のハッキングによってZIP機能により消去されたか、それともメモリー自体に損傷があったか……どちらにせよ検討のしようがない。まだボルグに話すのは気が早いだろう。もしかしたら、AIの中にあるバックアップ機能が動く可能性もある。
……しばらくはロボット犯罪に関与している事実を黙っていよう。
大体の情報も纏まった。
まず最初にこの繫華街から聞き込み捜査と行こう。坂本はこの近辺の住人からゴミ箱を漁っている所をよく目撃されていたとの情報がある。
この繫華街の人達は坂本を目撃していた可能性がある。……まあ、他の警察がもう聞き込みをし終えた後だとは思うが、”現場百回”という言葉もあるし、もう一度やる価値はあるだろう。
「これから繫華街に行って、聞き込みするぞ」
「…………。」
そうボルグに黒田は告げたが、返答しない。
ボルグは地面をジッと見つめている。疑問に思った黒田はもう一度、ボルグに聞き返す。
「おい、ボルグ」
「……あっはい、どうしましたか?」
「どうしたのはお前だろう。何があったか?」
「いえ、大したことではないんですが……」
しどろもどろに話していたボルグだったが、黒田にとって気になることを話したのだ。
「この場所、一度来たことがあるような……」
もしかしてメモリーの一部がバックアップしたのかと思い、黒田は聞き返した。
「何か思い出した?」
「すみません、何も思い出せなくて……」
「そうか……まあ気にすんな、いつか思い出すだろうさ」
「ほら、行くぞ」
「……分かりました」
どこか納得のいかないボルグは、複雑な気持ちを飲み込むしかなかった。
犯行現場と鼻に突くような匂いを残こして、黒田とボルグは繫華街に向かうのだった。