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2120年05/20. -10:05-。
降りしきる雨の中、黒色の傘をさして繫華街を目指して黒田とボルクは歩いていた。何事もなかったかのように雨に打たれながら歩くボルクに黒田は渋った声で話す。
「……別に、お前までついて来る必要なんてないんだぞ。これは独自の捜査なんだ、おとなしく家で待ってりゃいいだろ」
「そう言う訳にはいきません。調査というのなら、協力は必要不可欠です。」
「この事件、必ず解決しましょう」
「(解決しましょうって……事件の内容をわかってんのか?まさかお前が一番犯罪に関与してる可能性が高いって、さすがに言えねえよな)」
どう言っても言うこと聞かなさそうなボルグに諦めた黒田は、頭をかきつづどう説明しようか考えていた。
すると前方に赤色の小さな傘と大きな傘をさした親子連れが目に映った。母親と小さな少女は楽しそうに話している。その光景を見ていると少女がこちらに気付き、目線があった。黒田は少女とあった目線を逸らし何事もなく歩き続ける。それとは別にボルグは親子連れに対し、真摯に敬礼をして挨拶をした。
「こんにちは、今日は雨ですから気を付けて帰って下さいね」
「(ば、お前!)」
ボルグに挨拶に対し少女は、元気に咲いた花のような笑顔で返してくれた。
「はーい!ロボットさんも風邪ひかないようにね!」
「はい!お気遣い、ありがとうございます」
「ばいばーい!」
元気に手を振る少女に母親が一礼して、横を通り去っていった。その時に親子の会話を黒田は聞いて止まってしまった。
「なんでロボットさんには傘がないの?」
「ロボットさんには人間さんの傘は必要ないのよ」
「どうして?もしかしたら病気になっちゃうかも」
「ロボットさんは風邪ひかないの、人間じゃないからね」
「それってなんかやだ、ロボットさん可哀想」
「…………。」
全く、自分は何やってんのか……と黒田は自分自身に呆れていた。
近くのコンビニに寄り、並べられている棚からバーコードが記載されたプラスチック製の板を一枚取ってレジに持っていき、レジのスキャナーにバーコードを読み込ませて支払いをおこなった。
この時代のコンビニでは、もう人間は雇わない。あるのは支払いと商品を提出する大きなレジと棚、それだけ。
棚にはプラスチック製の板にバーコードが記載されている。この貼られているのは薄いフィルターで、傾けるとこのバーコードの商品が表記される仕組みになっている。そして決まったのを何枚か(同じ商品の奴を持っていく必要はない。レジで必要な分だけ記入すれば良い)持っていき、カードで支払いをする。
そして支払いが完了すれば、レジから商品が入ったステンレス製の箱が出て来る。単品のままでも良しだし、そのまま持って帰るのが嫌ならカードに記載されたデータから住所を特定して送ることも可能なのだ。
楽になったと思えばそうなのだが、BGMだけがただ流れる無機質な無人転売店は、空白感が漂う寂しい空間と化しているように黒田は感じていた。
黒田はさっさとこの場所から離れるべく、レジから購入した子供用レインコートを持ってコンビニから出る。外では黒田のこと待っているボルグがずぶ濡れで大人しく待っている。黒田は何も言わず、梱包されたビニールを破き、その中から取り出した子供用レインコートをボルグに無理矢理着させた。
ボルグは黒田の行動に理解が追い付かないのか、人形のようにされるがままになっていた。ボルグも疑問に思い、黒田に問う。
「あの、なんでレインコートを私に?」
「いいから、お前は黙って着てろ」
「まさか、先程の方々が言っていたことを気にしているのですか?」
黒田は図星を突かれたのか、裏返った声で反論した。
「そ、そんな訳ねえだろ!あれだよ、あれ。このレインコートは、これからの捜査に必要なんだよ」
「そうなんですか?」
「そうとも」
「そうですか、わかりました」
疑問に思っていたボルグだが、刑事である黒田の判断なら間違いないだろうと信じ、大人しく子供用レインコートを着ることにした。
そんなボルグとは裏腹に図星を突かれた黒田は、適当に誤魔化して言ったことが上手くいったことに安堵の一息をついた。
実はめっちゃ気にしてたって思われるのが恥ずかしいし、知られるのがもっと嫌だったなんて大人にしてとても口が裂けても言えないと、そう思う黒田だった。