03
坂本はすぐ近くでバッテリーが切れた状態で棒立ちになって機能停止しているロボットを見た。
「もしかしてもう1つってのは、こいつか?」
「ああ、そのもう1つがロボットを使った殺人だ」
「最近はロボットを使った犯罪が多くてな……よくある話だが、遠隔操作を使ってハッキングできる近くのロボットかまたは捨てられたロボットを魔改造し、そのロボットを使い殺人を企てた……ということだ」
「んでこいつが、その使われた可能性が高いロボットってことか?」
「まあな、一番その可能性が高い理由ってのはこいつに付属してあったレーザー型銃がなくなってるってとこだ。その凶器はまだ見つかっていない。今も捜査中だ」
「なるほどね……んで、こいつを回収しなかった理由はなんだ?そこまで話がきまってんならこいつをさっさと回収してメモリーを確認すりゃいいだろ」
「それが出来ればお前を呼んじゃいねえよ。お前も知ってんだろ?world:bot社のロボットがどう複雑に作られているのか」
黒田はあまり機械に対して得意わけではないのだが、world:bot社が流行っていた時期に所々それを謳うように世論が宣伝していたことを思い出す。耳にタコが出来るぐらいよく聞いていた内容だった。
job:botに多くの機能が搭載されていて、そのうちの1つがー。
「"ZIP機能”だっけか?メモリーはjob:bot本体が持っているが万が一に備えてメモリーの1つ1つをZIP化しworld:bot社にある記録保管庫の”マザー・ベース”へ送信され、メモリーは保管される。だが、その前にjob:bot本体のメモリーに危害や破損、またはハッキングが行われた場合……job:botに搭載されてあるセキュリティ機能が働き、中にあるメモリーを”完全削除”させられる……だったな」
「だげどよworld:bot社は倒産したろ?今じゃこいつの機能はごく一部しか使えねえんじゃねえか?」
轟木は大きなため息をついた。
「だからなおさら手が出せねえ、world:bot社が倒産したなら例のZIP機能も意味がねえ。記録保管庫のマザー・ベースも機能してねえんだからよ……しかもこいつの中を覗けんのはworld:bot社だけだ。それにー」
ーworld:bot社の社員は全員”行方不明”になっているー。
その噂は黒田も聞いていたことだった。world:bot社は多額の損害賠償を支払った後、当然姿を消したのだ。
まるでそこに誰も存在しなかったように……world:bot社に務めていた社員全員が行方不明になったのだ。
彼らがいたと証明できるものは、取り壊されることもなく機能を失った工場だけ。
今となってはその噂に拍車が掛かり、都市伝説とも言われるようになった。
野暮な連中らが集まるのも屡々あるようで……近所からは迷惑行為が多く見られるようになってから最近は警察の管轄下に置かれている。
つまりworld:bot社の社員も当てには出来ない。
だとすれば……と黒田は考えたが、思いつくのは嫌な予想でしかなかった。
苦いものでも食った様な顔で轟木を見ると、轟木は嬉しそうにニヤついていた。予想はどうやら”大当たり”のようだ……いや、おおはずれを引いたかもしれない。
「まさか……俺にこいつの”お守り”をしろってか!?」
「イエス!その通りだぜ相棒!はは、話が早くて助かるぜ」
「なんで俺なんだ……むしろお守りなんざお前の十八番だろう!?」
「代わってやりてえのは山々なんだけどよ、俺も今手が抜けらんねえんだ。……最近第5地区の警官達が襲われている。警官達の中には軽傷の怪我、または重症で病院行きになった奴もいる。俺はその件も追わなきゃならねえ」
「犯人は?」
轟木は眉間に皺寄せ、頭を横に振った。
「全員後ろから奇襲されてそいつらを見ることは出来なかった。目撃者もいない、防犯カメラもパアだ」
お手上げだと轟木苛立った声でそう黒田に返した。
どうやらこの一件に限らずこの第5地区で多く事件が多発しているようだ。
轟木は苛立ちを隠さないまま黒田に続けた。
「俺はこの事件、”警察に恨みをもった奴”が犯人だと予想している。襲われた同僚の無念を俺が晴らさなきゃなんえ……だから黒田、頼む俺に力を貸してくれ!この事件にはどうしてもお前の力が必要なんだ」
サングラスを通し、強い意志の籠った視線が黒田に訴えかけている。
黒田はそれに答えるようにかかんでいた腰を上げ、轟木に笑い返すようこう言った。
「そう言われたんじゃ仕方ねえな。……わかった、俺も一枚噛ませてもらうとするか」
「よろしく頼むぜ、相棒」
バシっと黒田と轟木はお互い手を合わせた。
熱い握手を交わしこの事件を解決することを”強く誓った”瞬間であった。