04
鷹敷は殺害という言葉に顔を青くさせ、首を横に振ってその事を否定する。
「し、してない!人殺しなんてそんなこと……!俺がやっていたのはボスの言われた通りの指示を行っただけで、人殺しするような、そんな命令なんてしていない!」
想像通りの反応に黒田はため息をつく。
だが、エリーナはその話を強く否定した。
「噓よ!だったらなんで鷹敷君だけが無事なの?彼らのAIが命令モードに移行されているのは人間による手動でなければ出来ないこと……ロボット三原則に則っている彼らが、あんなバラバラで、酷い事を!」
彼女の顔は怒りと悲しみで満ちていた。
感情が抑えられないのであろう……目には涙が溢れそうになっている。
ロボットが好きなエリーナだからこそ、機械に対する冒涜を見過ごせないのだ。
このままでは喧嘩になりかねないので、黒田は間に横槍を入れて質問をした。
「お前がそんな事を出来ないことは一目で見ればよく分かる」
「お前はボスの命令に従い、その指示に従ってやった……そうだな?」
「……俺は、ただ」
鷹敷は下に俯きながら歯を食いしばり必死に何かを堪えているようだった。
強く握られた拳が語るのは悲しみか、それとも怒りなのか。
入り混じった感情は次第に涙となって鷹敷の顔を濡らした。
黒田は鷹敷を見て、やはりまだ幼いが残る面影を子供だとそう思った。
そして泣きじゃくる鷹敷の口から語られたのは、黒田の推測した想定が事実だと証明するものであった。
「母さんと父さんの無念を晴らしたい、それだけなんだ!」
――それは4年前。
まだ11歳で名字が坂本であった頃、彼はとても幸せだった。
決して良い暮らしではなかったが、それでも彼には父と母が存在した。
彼にはそれだけで、充分だった。
将来は商店街で有名な父親に見習って、自分の将来も刑事になることだとそう夢を見ていた。
母親のような優しい奥さんを貰い、父親のような立派な刑事となって民間を守る英雄となる。
まだ汚れも知らない無垢な子供の夢は宝の地図のように輝いて見えていた。
この変哲もない、いつもの日常が毎日続くと彼はそう信じていた。
それはある日、友人のお泊り会にパジャマを忘れてしまった彼が服を取りへ自宅に戻ってきた時の事を思い出す。
二重ロック式のマンションに住んでいた彼の家は認証に少し時間が掛かるものであった。
友人を待たせては悪いと思った彼は、急ぎ足となってマンションを若さ特有の力で階段を一気に駆け上っていく。
自分の家に到着した彼は、いつも持たされている合鍵を……。
挿す必要はなかった。
玄関ドアは数ミリの入口を開けて、放置された状態になっていたからだ。
「……お母さん?」
何とも言いようがないその恐怖心に、彼は母親を呼びなから恐る恐る家に入る。
いつも温かさと明るさで迎えていたあの通路や部屋達は変わってしまい、真っ暗闇だけがそこに佇んでいた。
それでも彼は暗闇へ足を踏み入れる。
恐怖に震える足で床を確かめるように一歩ずつ、一歩ずつ進んでいく。
そこに母親がいるという光を求めて。
暗闇の中、彼はようやっと母親がいるであろう寝室に辿り着く。
普段ならドアをノックしなければいけないのだが、その必要もなかった。
薄く開かれたドアから光が漏れている。
部屋に入っておいでというように彼を誘っている。
彼はそこに母親がいると思い、光の誘いを受け入れるようにドアに手をかけて部屋に入った。
「お母さ――」
彼には母親が何をしているのか分からなかった。
天井にいる母親へ何て言葉をかけたら良いのか、分からなかった。
分からない、わからない、ワカラナイ。
まだ幼い思考がそこへ理解することを強く拒んでいる。
次第に彼の見ていた景色はカラーからコントラストへと変貌していく。
白と黒、そして灰色。
唯一の救いであった父親も亡くなり、灰色の世界に閉じ込られた幼い彼へ手を差し伸べたのは……。
父親の友人だと語る、サイバーギャング団のボス。
――アステルと名乗る男であった。




