03
鷹敷と呼ばれたその学生は床にうずくまりながらも、こちらを恨むように睨み続けている。
黒田は自分が投げ捨てた銃をコートの中に仕舞い、エリーナに鷹敷という名の学生について問うた。
「同じ学生か?」
「うん、彼ね同じ学生で名前は鷹敷 尚哉君。学年トップ一位の優等生なんだけど……」
エリーナは信じられないものを見るようにまだまだ床に伏せている人物にその眼を向ける。
そんなエリーナが気に入らなかったのだろうか、蹲っていた鷹敷はまだ痛むのだろう肩を抑えながら震える足でその場を立ち上がった。
立ち上がりは情けないものであったが、その目に宿る怨念だけはエリーナと黒田を外すことなく捕らえ続けていた。
エリーナはそんな鷹敷に恐れて黒田の背後に隠れてしまう。
黒田はまだ襲い掛かってきそうな雰囲気の鷹敷に臆することなく問いかけた。
「随分と気性の荒い奴だな……本当に優等生か?サイバーギャング団なんかに入る阿保にしか見えねえーんだが」
「うるせえよ!お前ら警察は全員この手でぶっ飛ばさなきゃ気が済まねえんだよ、俺は!」
「なるほどね、だから警察に関係しているエリーナを狙ったってわけか?」
己の背後に身を隠して縮こまっているエリーナを見て黒田はそう思った。
エリーナの兄 エドリック・轟木は第五地区警察署の刑事だ。
直接叩きに行くよりも身近にいる物を使って隙を付こうという魂胆であったのだろうが、如何やら上手くは行かなかったらしい。
だが、黒田はそれが本来立てた計画とは違うものだという事に気付いていた。
「この計画はお前の独断によるものだよな?他に人の気配も感じられない、それに……」
「job:botを遠隔操作して自分の仲間を殺害したのもお前の仕業か?」
「……へ?」
黒田の問いに鷹敷は何のことを言っているのか分からないというような顔をしていた。
予測は当たっていた。
先程の戦闘を思い出すようにこの青臭い子供は考えに関して頭の回転が早いのだが、どうにも戦闘に関しては雀の涙ほどなかったのだ。
だがらこそあっけないものに終わってしまったが、これがサイバーギャング団の考えた計画にしては程遠いものであると黒田はそう想定し、これが鷹敷の独断による計画だと見なした。
まだ顔立ちから残る青臭さと吐き場所の無い感情、そして埋まることのない孤独感。
戦いに慣れていない、経験が浅い、未熟。
それでも強さというものに憧れて走らずにいられない止まる事のない劣等感。
黒田は多くの事件の中でこういった若者がいいように騙され、操られ、使うだけ使った挙句切らした道具のように捨てられていく様の光景を思い出していた。
その光景は決して人に対し人情は無く、感情もなく、床に倒れる骨組みのない人形のように倒れ、生きるという希望すら壊されてしまった若者は目の奥に忘却だけを住まわせていた。
そして、多くの若者達は白い病棟に連れられて行き、白い部屋の中で戻ることのない希望を求めながら忘却の中を彷徨い続けることになる。
だからこそ、この独断を敢えて許したサイバーギャング団の首領を許すわけにはいかない。
黒田はここに連れられた時、実際にその首領と対面している。
首領は黒田にこう断言している。
――サイバーギャング団なんぞ、たかが舞台の”駒”にしか過ぎない。
それは即ち、幕卸しの時に全て用済みになるということ。
警察とサイバーギャング団……首領はこの物語に出ている登場人物を全員舞台に降ろして用済みにするのだろう。
つまり奴の物語は前々から決まっていたことになる。
ここまで段取りしたというのなら、見事なストーリーテラーになるのだろう。
だが、余計な異物混入があった為おおよそ物語から外れたに違いない。
首領は黒田という異物混入に物語の種を明かしたのだ。
――今から深夜の二時に第五地区警察署をサイバーギャング団が襲撃しに行く、もし朝方の六時までに来なければ警察署の所長と警察共の命はない。
奴の物語に無理矢理組み込まれたのは、あまりいいものではないがこの物語を壊すぐらいに大暴れさせてもらおう。
黒田は目の前にいる若者はまだ未熟だが、目の中にある希望を潰したくなかった。
あの忘却は人に与えていいようなものではない。
人間は子を宿し、生み、育み、それらを未来へと繋げていくものだとそう信じている。
この近未来でまだその形が残っているのか分からないが、それでもその光を失うわけにはいかない。




