02
エリーナに案内してもらい、例のパソコン室にへと着いた。
部屋に入ると他の部屋とは構造が違っており、窓は黒いカーテンによって外の光を閉ざされ、無数のコードが多くの蛇を思わせるようにと床の上へと1つの場所に向かって連なっていた。
コードが集約する場所には、鉄板性の机の上に3つのキーボードと壁にへと続くように液晶画面が多く飾られている。
機能している液晶画面には、あらゆる場所を映すように4つに別れて展開していた。
その場所の中に自分達が通ってきた場所も映っており、黒田はこの場所で何者かが自分達を監視していたことに気付く。
黒田は周りを軽く見渡したが、人の気配が感じられない。
パソコンの光で照らされている薄暗いこの部屋では視認が出来ず、照らされていない所だけが暗闇によって隠されていた。
黒田に緊張感が走る。
今まで経験してきた刑事としての感が働いたのだろう。
エリーナの手を引っ張りながら光で照らされているパソコンの前に近寄り、出来るだけ暗闇から避けるようにした。
突然の黒田の行動にエリーナにもその緊張か感じられて、不安そうに黒田に何事か尋ねた。
「どうしたの黒おじ――」
「静かにしてろ」
黒田の真剣さに只事ではないことを読み取ったエリーナは圧迫した緊張感に息をのんだ。
機械の光を背に、暗闇に目を凝らすように見つめた。
入口、窓、角――。
一瞬の瞬きも許さないようにただ、ただ見つめ続ける。
この部屋へ案内された時に、パソコンの監視映像を見てからこの違和感に黒田は気づいた。
ここまでに来る間、誰一人とも出会うことなどなかった。
もし、ここに誰かがいたとしたなら……必ず何処かで鉢合わせとなるだろう。
なぜなら――。
上に続く階段も他の通路も、この部屋以外の道が崩落していたのだから。
パソコン室の外からは大きな空洞があるように壁が崩落して、外の風景がはっきりと写って見える。
寂れた廃墟がこちらを覗き込むように建っている。
それらも関係ないと月明かりが廃墟を照らしていた。
時間が経過したのだろうか、月明かりが部屋の入口に入り込むようにと足を踏み入れて機械の光で照らすこの薄暗い室内を照らした。
すると、暗闇の中から出てきたのは空気に混じって陽炎のような靄の物体がそこにいた。
それは次第に影を持ち、目の前にいる黒田を覆うように影が伸びて包みこんだ。
黒田はそれが何なのか、一目で理解した。
理解した瞬間、そのことを許さんとそれは動き出して黒田に襲い掛かってきた。
コートの中にある銃を取り出して構えようとしたが、トリガーに刃物が刺しこまれてしまい発射工を阻止されてしまう。
刺しこまれた刃物から続くように、空中に人の腕と手が繋がっていた。
そこから先は切られたように姿が存在しない。
片腕が突然に現れて、ナイフを持って襲い掛かってきたのだ。
あまりの奇妙さにエリーナの不安が爆発して、悲鳴が上げる。
黒田は次の行動をさせまいと、片足を上げて見えないそれに蹴りを入れた。
当たる感じはあった。
蹴りが入りよろめきながら距離を取ったそれは、手からナイフを離してしまい蹴られた部分を抑えるように手で痛みを堪えてるように見えた。
黒田は間違いないと確信する。
それは本来なら特殊な事件が発生しない限り使うことを許されていない品物であり、使用する場合には許可証を必要とする程の特殊警察専用の道具。
ステルス専用コート ――カメレオン・コート――。
テロ組織が立てこもった場合のみ使用されるカメレオン・コートは隠れの天才とも呼べるカメレオンをモチーフに作られており、それはどの場所にでも瞬時に溶け込めるよう景色と同一化する道具。
……だが、いくら隠れる機能に関して天才と言えども欠点は存在する。
そのことを証明するべく黒田は銃に刺しこまれた刃物を引っこ抜き、痛さで動かないでいるカメレオン・コートを着た人物の背後へ素早く回り込んで手に持った刃物を使ってコートをズタズタに引き裂いた。
引き裂いたコートの中から出てきたのは、制服を着たエリーナと対して歳が変わらない程の青臭い学生であった。
勢いで倒れこんだ学生は恐怖を貼り付けたような顔をしていたが、突如その顔は怒りで歪んでその怒りに押されるように学生は立ち上がり右手に拳を作り高く振り上げて黒田に殴り掛かった。
「うおあああ――!」
振りかざされた学生の拳はあっけもなく避けられ、黒田はその腕を掴んで床に叩き付けるように一本背負いを喰らわせた。
コンクリートの硬い床に叩き付けられた学生はあまりの痛さにもがき苦しむ虫のようにうずくまっている。
終始黙って見ていたエリーナが恐る恐る近寄り、その学生を覗き込むように見た。
エリーナは学生を見て驚く。
有り得ないと口元を抑えていたが、ゆっくりと手を降ろして震えながら呟いた。
「噓でしょ、鷹敷くん……なの?」