03
「あんたらも信じる口か……噂が独り歩きしているようなもんに、一体何の信憑性がある」
黒田がそう問うと、酒屋の店主が返す。
「この世界はデータが軸になっています。データを制するものは、全てを知りうることも過言でもないとされている……例えそれが、どこから出てきたか検討もつかないデータだったとしても受け入れなければならない」
「聞いたことありません?”噓も誠”になるって」
「……それが、あんたらの信じる理由か」
「そうです、それがこの世で生きていく為の術なのです」
この時代では情報が多く流出され、それが本当なのか疑う輩は減っていき、逆に情報を多く集めたものがこの世を生き残るものだと信じる人々が増えた。
事実と噓が入り混じり、その情報に操られるケースが多くなった現代ではサイバーテロに巻き込まれるのが日常と化している。
店主のような人間を見てこなかった訳ではない。
むしろ、沢山見てきた。
情報を信じたが故に助かった者もいれば、助からなかった者もいる。
全てがデジタル化し、シンプルになった生活は単調なものであったが人々としての何かが削れてなくなっていくのを黒田はどこかで感じていた。
だからこそ、この世には”真実を語る者”が必要なのかもしれない。
例えそれが、世界に対する反対だったとしても――。
「今日はこんとこでお暇するよ。酒ごちそうさん、捜査の協力に感謝するぜ」
黒田はそう言って椅子から立ち上がり、懐からカードを店主に差し出したが店主はそれをやんわりと返した。
店主はニッコリと張り付いた笑顔を浮かべて、黒田に話す。
「今夜は私の奢りです。その代わり……お願いしましたよ、黒田刑事」
「……そりゃ、どうも」
酒場にいる繫華街の店主達に見つめられながら、黒田はその場を去った。
――――――
朝方降っていたあの雨がまた降り出し、コートや衣服をだんだんと濡らしていく。
薄暗い路地裏を歩きながら、我が家に向かっていた黒田に電話がかかってくる。
黒田はコートの懐からスマホを出して、連絡先を確認した。
相手はエドリックのようだが、……おかしい。
今の時刻は深夜の0時を指している。
この時間帯に電話をかけてくるような常識まがいなエドリックではない、かけるとするならばよっぽどのこと以外ありえないだろう。
黒田は妙な胸騒ぎを感じ応答に答えるべく、電話に出た。
「もしもし、黒田だ。どうした」
「黒田か……今、何処に居る……」
掠れたような苦しそうに話すエドリックに異常事態を感じた黒田は、エドリックの安否を確認した。
「おい、大丈夫か。一体何があった」
「……job:bot」
「なに?」
話しを聞き逃さないようにと集中して聞き取ろうとした途端、頭からゴンっという音が聞こえてから黒田は身体の機能を失いその場でぶっ倒れた。
何が起きたのか分からない、分かると言えば背後から何者かに襲撃されたというぐらいだ。
身体の機能を失ったからには、奇襲したくそ野郎の確認ができない。
薄れていく意識の中、放り出されたスマホからエドリックの声が聞こえてくる。
「妹を……助けてくれ!サイバーギャング団に誘拐され――」
テレビの電源が切れたように、黒田の視界はブラックアウトした。