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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第3章(10)決戦の場へ……

作者: 刻田みのり

 持っていた魔石が砕け、中から黒い影が溢れて消えていく。


 それに合わせるようにバロックの身体が霧散した。


 正直、これが人の肉体だったのか炎だったのか氷だったのかもうわからない。最終的には消えてしまったし。そういうものだったのだろうと納得することにしよう。


 パチパチパチパチと拍手する音に俺は振り返った。


 お嬢様だ。


「ジェイ、悪魔討伐おめでとうございます。まあ、天の声のアナウンスがされない程度の小物だったみたいですけど」

「はぁ」


 お嬢様に祝われて嬉しくない訳ではない。


 ただ、ちょい疑問が多すぎるというかつっこみどころが酷いというか……戸惑うくらい俺の頭は混乱していたのだ。


 とりあえず俺は一つ訊いてみた。


「よくバロックが悪魔だとわかりましたね」

「ふふっ、それ訊いちゃいます?」


 お嬢様が悪戯っぽく微笑んだ。めっちゃ可愛い。


 あれか、やっぱり天使か。天使なのか?


「まあ彼について調べていた時に不可解な点があったのでおかしいなとは思っていたんです。ジェイも指摘したように、あの事件の最中に村を急襲した古代紫竜(エンシェントパープルドラゴン)、いえラキアさんによってバロック・バレーは火の海に落ちていましたからね。普通の人間なら生きていられません。仮に生きていたとしてもあの場にいたラキアさんがそれを見逃すでしょうか? 私は見逃さなかったと思います」

古代竜(エンシェントドラゴン)は感知能力も優れていますからね。まして古代紫竜(ラキア)ならなおさらです」


 俺がお嬢様の意見を支持すると彼女は満足げにうなずいた。


「あと、彼なら自分の財産をパクった相手を確実に滅ぼそうとするはずですし」

「……」


 うん。


 ラキアはそういう奴だよな。


 てことはやっぱりあの時点でバロックは死んでいた訳か。


 俺が再度納得しているとお嬢様は元エルの身体から魔石とともに取り出したもう一つの球を掲げた。


「ジェイ、これどうします?」

「え」


 どうしますって……?


 俺が応えずにいるとお嬢様は元エルの方に目をやった。


「彼が魔力吸いの大森林の影響を受けなかったのはマナドレインキャンセラーのおかげでもあるのですが、この炎の精霊結晶で魔力を増強していたのもあったと思うんです」

「大森林の影響を無効にできるくらい強い魔力を得ることができた、と?」

「ええ、何せ精霊結晶は一つでも手に入れられたならそれだけで最高クラスの魔導師になれますからね。とてつもない魔力を有していますよ」

「とんでもない魔力って……それ、体内に入れていて大丈夫なんですか?」


 俺も水の精霊結晶を得ているが体内ではなくマジンガの腕輪(L)と同化している。


 体内ではなく腕輪(体外)……となっているのだからエルよりは安全だよな?


 うん、信じるって大事。大丈夫大丈夫。


「はい。ハンドマジックパワーを使った時に彼の身体をスキャンしたので異常はないと確認しています。まあ彼の身体が特殊ということもあるのでしょう。マクドのような存在を宿しても許容できたのはそのせいだと思います。私も今回のことで精霊結晶の埋め込みについて大体のこともわかりましたし、後で島か聖域で試してみますね。誰か被検体になってくれるといいのですが」

「……」


 微笑むお嬢様。


 その笑顔はめっちゃ眩しいのですが、発言が不穏過ぎます。


 つーか、島か聖域?


 何の話ですか?


 俺は盛大につっこみたい気持ちをぐっと堪えた。


 ううっ、つっこみたい。今ならつっこんでもいいかもしれん。ほら、ちょい重要な戦いの後で気分的にも盛り上がってるし。


「……」


 いや待て落ち着け俺、これつっこんだら駄目な奴だ。


 うっかりつっこんだら巻き込まれて後に引けなくなるぞ。


 お嬢様絡みの話だとしても踏み込んでいい領域と悪い領域がある。執事ならそこをわきまえないと駄目だ。


 まあ、今は執事じゃないけど。


 でも、線引きは必要だ。


 などと考えていると声がかかった。


「それは返して」

「!」


 声のした方に向くと元エルがこちらを見ていた。


「それがないと不便。返して」

「あらあら」

「……」


 元エル、お嬢様、そして俺。


 口調も違うし、こいつ……エルヴィスか?


 もしそうなら「元」は外すことにしよう。


 いや、もう「エルヴィス」でいいや。


「あなたに炎の精霊結晶を返したとして、またジェイと戦ったりするんじゃないですか? 今度こそ死にますよ?」

「……」


 お嬢様にそう言われてエルヴィスが黙った。


 沈黙が流れる。


 と、そこに。


「もう吾らは戦わぬ」


 マクドが表に出た。


「そもそも吾もエルヴィスも無益な戦いを望まぬ。だが、契約が吾らを縛っておった。あれにはいかに吾といえども逆らえぬ」

「契約……ああ、なるほど」


 お嬢様が理解したと言わんばかりにうなずいた。


「マリコー・ギロックが関わったあなたと美少年の契約のことですね?」

「そうだ」


 マクドが悔しげに唇を噛んだ。


「えーと、それはどういう……?」


 俺が質問すると。


「普通の精霊相手ならともかく精霊王が契約だなんて通常なら絶対に成功しません」


 お嬢様の口調は強かった。


「恐らくは遺失技術(ロストテクノロジー)を使ったんでしょうね。それ自体には興味がなくもないのですがやっていることには看過できません」

「いかにも、あの女はマジンシアの技法で吾を縛りつけたな。今の世では失われた技術だ」

「それであんたにエルヴィスと契約させた、と?」


 俺が尋ねるとマクドがフンと鼻を鳴らした。


「吾はこの身体に縛られておるが契約の相手はエルヴィスではないぞ。まあ、吾を望んだのはエルヴィスだがな」

「えっ?」


 エルヴィスとの契約じゃない?


 どういうことだ?


「バロックですね」


 お嬢様。


 その声音には露骨な不快さがあった。


「あなたはバロックを契約主として美少年の身体に宿った。宿主は美少年ですがあくまでも契約したのはバロックと。だからバロックの命令には逆らえなかった。そういうことですよね?」

「うむ」


 マクドが首肯した。


「それと、あ奴が滅びたからか吾の本体との繋がりができた。すまぬな、吾は契約によってかなりの制約を課されていた。その中には吾の本体や他の精霊王たちとの関わりを禁じるものもあったし契約以前の記憶を封じるものもあったのだよ。故にそなたがあのお方だと気づけなかった」

「そんな気がしてました」


 謝罪したマクドをお嬢様は何でもないことのように受け容れた。


「それよりあなたはどうしたいですか?もう契約は失効されてますし、美少年の身体に居続ける必要もないのでしょう?」

「確かにこの身体に居続ける必要はないな」


 マクドが目を閉じる。


「だが、吾はエルヴィスを気に入っておるのでな。、他の精霊王ではなく吾を望むとはなかなか見る目があるではないか。もうしばしの間はこ奴とともにいようと思う。吾が一緒ならばいろいろ助けてやれるしな」


 目を開いたマクドはニヤリと笑った。


 すげぇ悪そうな笑みだ。美少年の顔なのに……いや、なまじ美少年の顔だからか悪そうな感じが七割増しになっている。


「それに吾のエルヴィスは凄いぞ、吾だけでなく五体のバンシーをその身に宿しておるのだからな。確かにバロックが最強を口にしたがるというものだ」

「はぁ?」


 俺は自分の耳を疑った。こいつ、今何て言った?


 バンシーを五体?


 そういやアローンアゲインだか嘆きのフィールドだかの攻撃を受けた時、連続で五発の衝撃を食らったっけ。


 あれって、五体のバンシーが透明化して俺を攻撃していたってこと?


 え、あれ?


 複数の精霊を身に宿したって、そういうことなの?


 だが、驚いたのは俺だけでお嬢様は動じていなかった。さすがである。


「そうですか、わかりました」


 と、そこでお嬢様が中空に向いた。


「そういうことです。ウェンディ、聞こえてましたよね?」



『うん、聞いてた。五つ、いやマクドも含めて六つの精霊ってのは凄いかも』



 突然、聞き覚えのある少女の声がした。


 若干引いてる感じがするのは気のせいではないだろう。


 声の主は水の精霊王ウェンディだった。姿は見えない。



『……あ、えーと。そ、そう一応、言われた通りに島で準備はしてあるよ。ファストとラテが手伝ってくれたから割と余裕だった』



「じゃあ早速一人送りますね。あ、ファミマはまだ手が空かないので治療とかはそちらに任せます」



『わかった』



 エルヴィスの宿している精霊の件、ウェンディも驚いていたのにお嬢様は冷製だ。


 いや、これもしかして表に出てないだけで内心すんごい吃驚してるとか?


 だとしたら、後でエルヴィスを質問攻めにするかもな。


 そんなふうに俺が推察していると別の声が……。



『ぬ、あの方と話をしておるのか? ならば妾にも話を……』


『はいはい、ファストは受け入れ態勢しようね。あたしもラテを呼ばないと……』



 プツッと音がしてそれっきりになった。


「……」


 えっ、今のってファスト?


 お嬢様、精霊王二人に何をやらせてるんですか?


 そう俺が訊こうと口を開きかけると。


「マクド、今からあなたたちを安全な場所に転移させます。念のため言っておきますがおかしな真似はしないでくださいね。あと、これもお返ししておきます」


 お嬢様が真面目な口調で告げながら炎の精霊結晶をその身体に返した。


 マクドが眉尻を下げる。


「吾はもう戦えぬよ。この身体ではしばらく大人しくせざるを得ぬしな」

「転送先で治療は受けられます」

「そうだとしてもだ。ああ、それとエルヴィスと吾の本体が感謝を述べておる」

「どういたしましてとお伝えください。では、また後ほど」

「うむ」


 ふっと元エルの身体が消えた。


 少しの間お嬢様はその場所を眺め、やがて俺に向き直った。


「では、いよいよマリコーとの決戦です。覚悟はいいですね?」

「あ、はい」


 きりっとした顔のお嬢様もいいなぁ。


 などとはとても言えるはずもなく。


 ふっ。


 次の瞬間、俺は戦いの場にいた。



 **



 俺はマリコーが「クネ様と突撃決死隊」を全滅させた研究室に転移した。お嬢様も一緒だ。


 室内は既に戦闘状態に突入している。


「……」


 でも、あれ?


 なーんか研究室がやたら広くなってないか?


 マリコーが召喚したのか多数のストレンジコングとギロック(全員十代半ばに見える)がイアナ嬢たちと戦っている。どうやら俺とお嬢様がバロックたちの相手をしている間に魔方陣からの脱出を果たしていたようだ。


「一号」


 修道服姿のウサミミ少女がこちらに駆け寄ってきた。途中でストレンジコングを蹴り一発で排除していたがそれはまあいいや。


 なお、ウサミミ少女の顔の上半分はマスクで隠されている。


「シャム……じゃなくてクロネコ仮面ちゃんが無駄に暴れてるけど大丈夫かなぴょん?」

「ふふっ、放っておいてあげていいですよ。楽しいのは今のうちだけですから」


 お嬢様の口調は穏やかだが滲み出ているオーラが不穏だ。


 あ、あのクロネコ後でお説教食らうな。


 俺はほんの少しだけ同情しつつウサミミ少女に訊いた。


「ひょっとしてあんたがイアナ嬢たちを助けてくれたのか?」

「そうなるのかなぴょん?」


 ウサミミ少女がこてんと首を傾げた。三つほど疑問符が頭上に浮かぶ。


「アンゴラがここに来た時には既にマリコーおばさんがスイッチを押した後だったぴょん。でもエンシェントでパープルなドラゴンさんとファミマ様が何かしてくれたお陰で魔力を吸い出されるところまでいかなかったぴょん」

「……」


 え。


 それ、すげーピンチだったんじゃね?


 ラキアとファミマがいなかったらあいつら全滅してたぞ。うわぁ。


 あと、何気にマリコーをおばさん呼びにしているあたりこの娘も大概だな。


 それと、ラキアのこと妙な呼び方するなぁ。


「ただあのままだと時間の問題だったからアンゴラがウサギーキックで適当にまわりの機械を蹴り壊したぴょん。どれが魔方陣の障壁と関係しているかわからなかったから当たりが出るまで蹴ってやったぴょん」

「……へ、へぇ」


 自慢そうに胸を張るウサミミ少女に俺は何とか相槌を打った。


 いや、蹴り壊したって。


 うん、この娘もとんでもないな。確定。


「ふむふむ、皆さんあちこちに散らばって戦ってますねぇ」


 お嬢様が戦場を見回した。


「ジュークちゃんはメイス使いのギロックと戦ってますしニジュウちゃんは槍使いのギロックとドラゴンランス対決ですか。ファミマはルールがありますから戦えませんしラキアさんも同様に戦力外。それで……」


 お嬢様は刀を持つギロックと杖を持つギロックを同時に相手にするイアナ嬢に向いた。


「イアナさんはあの二人がお相手、と。まあポゥちゃんがサポートしてくれているみたいですからそう心配しなくてもいいですかね? 他は……」


 言いながらお嬢様が首を向けた先にクロネコ仮面がいた。


 大量のストレンジコングを相手に笑いながら大立ち回りを演じている。


 それに対抗するかのように黒猫が鳥頭の化け物たちに猫パンチを浴びせまくっていた。


 クロネコ仮面と黒猫の位置は近い。もうこれこの上なく近い。


 あ、クロネコ仮面の奴黒猫の尻尾踏んだ。あれはわざとだな。


 黒猫がニャーニャー叫びながら飛び上がって後ろ足で回し蹴りを放ったぞ。


 あはは、クロネコ仮面の奴顔面蹴られてやんの。笑える(さっき同情したのなんて忘れている)。


「……」

「……シャムちゃん、黒猫さんと遊んでるぴょん」

「そうですねぇ。あ、シャムちゃんではなくクロネコ仮面ですよ」


 俺、ウサミミ少女、そしてお嬢様。


 うん。


 クロネコ仮面はこの一件が片づいたら速攻でどこかに隠れるべきだな。


 これ、もう間違いなく長時間お説教コースだ。


 哀れ。


「……ところで」


 きょろきょろしながらお嬢様が言った。


「肝心のマリコーがいませんねぇ」

「え?」

「あ、それアンゴラも何となくそんな気がしていたぴょん。ただ、場所が場所だから何かの認識阻害系の影響かと思ってたぴょん」


 ウサミミ少女が鼻をひくひくさせた。可愛い。


「んーでも変な魔力の匂いはしてないぴょん。そうなると認識阻害系はない? あれ? どうして今まで気が付かなかったぴょん。?」

「どうやら魔力ではなく自分の権限を使って認識阻害をしているみたいですね」


 お嬢様の声音が低まった。


 表情が険しい。


「ディメンションコアへの干渉は……今はなし、と。まあ勝手にいじくり回されるのもムカつきますから防壁は強化しておきましょうかねぇ」


 何やらぶつぶつ言いながらお嬢様が中空に指を走らせ始めた。


「ルート8のアクセスにネズミ返し、と。それからルート16にブラスター系は必要ですよね。ああそうだルート20にはわざと開けておきましょう。それに引っかかるお馬鹿さんなら大した相手ではないってことになりますし……」

「え……と、お嬢様?」

「あぁ、こうなると長くなりますぴょん。というか一号とのお付き合い長かったんじゃなかったですかぴょん」

「いやまあ長かったんだが」


 もちろんこんなお嬢様を見るのは初めてじゃない。


 しかし、こんな訳わからない言葉の羅列とか状況に俺は戸惑っていた。


 この人はミリアリア・ライドナウ……いや今はシスターエミリア。元公爵令嬢の修道女だ。


 て。


 あれ?


 俺は疑問が次々と沸いてきた。


 ただの修道女がどうして精霊王と知り合いなんだ?


 つーか、どっちかって言うとお嬢様の方が立場上じゃね?


 そもそも転移とかできるし。


 俺のマジンガの腕輪だってお嬢様の作った物だし。


「……」


 あ、あれ?


 この人……何者?


「わぁ、一号これやばいぴょん」


 ウサミミ少女が傍で騒いでいる。


 うるさいなぁ、今はそれどころじゃないっての。


「ジェイ、聞こえてますか? もしもーし?」


 誰かの手が俺の視界で左右に動く。


 わぁ、邪魔臭い。


 てか、今の声はお嬢様に似てたな。


 お嬢様、そうシスターエミリア。


 ミリアリアの名は使えないものな。


 可哀想な俺のお嬢様。


 どうにかして俺が彼女の名誉を回復させないと。


 そうだ、俺がお嬢様の……。



『お知らせします』



 いきなり天の声が聞こえ、俺ははっとした。



『Aランク冒険者パーティー「栄光の剣」がラボ最深部・大実験場に到達しました。


『クエストボス「マリコー・ギロック」との会話イベント終了後にクエストボス戦が開始されます』



「……」

「うわぁー、まずいぴょん。ニコルくんたちが一番乗りしちゃったぴょん」

「ふふっ、どのくらい持ち堪えられますかねぇ?」


 俺、ウサミミ少女、そしてお嬢様。


 ……って、俺は何やってんだ。


 こんな時に考え事に没頭するなんて。


「あ、こっちに戻ってきたぴょん。心配したぴょん」

「お帰りなさい、ジェイ」


 二人も俺が現実に引き戻されたのを知って声をかけてきた。


 俺はちょい恥ずかしく思いつつ返す。


「すみません。俺としたことが」

「一号、この人休ませた方がいいんじゃないですかぴょん?」

「それは駄目です」


 お嬢様がゆっくりと首を振った。


「相手は管理者。そこらの人では話にもならないでしょう。精霊王クラスでもきっと勝ち目はないです」

「それならこの人も無理なのではぴょん?」

 ウサミミ少女がちらと俺を見た。


 あ、弱いと思われた?


「ふふっ、それはどうでしょうねぇ」


 お嬢様は余裕の笑みだ。


 彼女は俺を見て。


「ジェイは強いですよ。そしてこれからもっと強くなってもらうんです。私を倒せるくらいにね」

「……」


 お嬢様。


 俺、お嬢様を倒すなんてことはしませんよ。


 そう口に出そうとしてお嬢様に止められた。


 近づいてきたお嬢様の手が伸び、指先が俺の唇に触れたのだ。


「……」

「……何も言わなくていいです。ちゃんとわかってますよ、ジェイ」


 微笑むお嬢様。可愛い、めっちゃ可愛い。


 そして無粋なタイミングで聞こえてくる天の声。



『お知らせします』


『至高の美貌と偉大なる英知を授かりし天才科学者マリコー・ギロックによりAランク冒険者パーティー「栄光の剣」が亜空間に幽閉されました』


『さらに、メメント・モリの起動シークエンスを開始します』


「……」


 何ですとぉ?



 **



「やっほー、皆さんお元気?」



 突然中空に半透明の大きな板が現れてマリコーを映し出した。やけにハイテンションである。



「天の声で伝えていたんだけど、まだご存知ない方もいるかもしれないから一応もう一度お知らせするわね。さっき私のラボの最深部に到達した冒険者たちが現れたの。とってもとおっても優秀な人たち。それにすっごいイケメン揃い。私、つい永久保存したくなっちゃったわ」



 マリコーはご機嫌である。


 めっちゃニコニコしていて逆に怖いくらいだ。何を考えているのか全くわからん。



「ほら、メメント・モリ大実験をしてしまうとこの世界の魔力がみーんなここに集められてしまうでしょ? あのイケメンたちも魔力を全部失って最終的には死んでしまうかもしれないの。これって超絶勿体ないと思わない? 思うわよね?」



 映像が切り替わり亜空間の中らしき場所になった。


 言い争っている二十代前半らしき男が二人と途方に暮れている十代前半くらいの少年が見える。背景は真っ暗だがどこかに光源でもあるのか三人の姿ははっきりと映っていた。


 別行動を取っていたのかもう一人の男が画面の右端から現れた。二十代前半に見えなくもないがもしかしたら十代後半くらいかもしれない。



「ニコルくんたちぴょん」

「あらあら、アレックスくんとジュールくんたら言い争ってる場合じゃないと思うんですけどねぇ。デイくんもあんな状態になってしまうなんて案外メンタル弱いんでしょうか」


 知り合いが映っていたのかウサミミ少女とお嬢様が反応する。


 て。


 お嬢様、どこであいつらと知り合ったんですか?


 だだだ駄目ですよ、いくらイケメンでも油断したら不埒なこと企んでる連中かもしれないんですから。


 ……と、俺がたしなめようとしていたら。


「でもマリコーおばさんって強いぴょん。ニコルくんたちだってあのブートキャンプを生き残っているのにぴょん」

「そうですね。でもまあ管理者なら単純な強さでどうにかなるってものではないですし」


 ウサミミ少女が訊いた。


「一号、ニコルくんたちどうするぴょん?」

「どうするって……そりゃ助けますよ。知らない間柄でもありませんし。ただ、今すぐというのは無理です」


 お嬢様が中空に手を伸ばした。


 ポチポチッと何かを指で叩く仕草をする。


「うーん、さすがにここからだと座標確認はできませんか。それならこちらでは……ああ、これはダミーも用意してあるんですね。これだとむしろ私より感覚で探れるクロちゃんの方が捜索に向いてますね」

「一号、アンゴラの鼻だとわからないぴょん」

「ふふっ、嗅覚に頼っちゃう子にはまだ難しいかもしれませんねぇ」


 俺はお嬢様とウサミミ少女を黙って見ていた。


 あれだ、二人が「栄光の剣」のメンバーの幽閉先を調べようとしているのはわかる。


 ただ、そのやり方がわからん。


 お嬢様、中空に指を走らせて亜空間にいる相手を探せるものなんですか?


 あとウサミミ少女、あんた嗅覚で何でもわかるつもりでいたのか?


 うーん、ちょい理解が追いつかなくて頭がくらくらしてきたよ。


 ちなみにマリコーはずっとイケメンの魅力について力説している。まともに聞くつもりはないので放置である。



「……てことで、もしイケメンで今後私の実験動物になってもいいって人がいたら遠慮なく申し出て頂戴。亜空間に送られた人は大実験の影響を免れるわよ♪」



 マリコーが何やら言っているがあんなものに惑わされる奴がいるのだろうか……て、何人かはいるんだろうなぁ。


 俺が内心嘆息しているとウサミミ少女が俺の手を取った。


「……」


 あ、肉球がある。


 プニプニだ。


 俺がそんなことを思っているとウサミミ少女は真剣な眼差しで俺に告げた。


「一緒に頑張るぴょん。アンゴラも精一杯戦うぴょん」

「……はい?」


 えっ、何?


 話が見えないんですけど。


「ジェイ、とりあえずこちらはイアナさんたちに任せてあなたは二号とマリコーのいる大実験場に向かってください」


 お嬢様にそう言われるが俺は突然すぎてうまく理解できない。


 つーか、あれ?


 俺とウサミミ少女の二人で行けってこと?


「あのー、お嬢様は?」

「私は助っ人に心当たりがありますのでその方を連れてこようと思います」

「助っ人?」

「ふふっ、来てからのお楽しみです♪」


 お嬢様が悪戯っぽく笑んだ。超可愛い。


 と、とにかくお嬢様は同行しない、と。


 うーん、お嬢様の指示には従うけどウサミミ少女と二人っきりかぁ。


 組むのは初めてだし連携とか巧くやれるかなぁ。


 などと不安を抱きながら俺が視線を向けるとウサミミ少女がニッコリと微笑んだ。仮面で顔の上半分が隠れているけどそう見えたのだ。


「あーっ!」


 お子様の大声がしたのでそちらを向くと、ファミマが宙を舞いながらこっちに飛んでくるのが見えた。


「ジェイ、酷い。僕ちゃんのアンゴラちゃんの超絶プリティなスマイルを独り占めするなんて!」


 あっという間に俺とウサミミ少女の間に割り込んでくる。


 睨みつけてきたファミマに俺は言った。


「いや別にそんなつもりはないぞ。彼女だって俺とマリコーのところに行くから気まずくならないようにしてくれているだけだろ」

「そうなの?」


 と、尋ねるファミマにウサミミ少女が朗らかに答えた。


「それもあるけどこの人の魔力ってお日様に干した毛布の匂いがするぴょん。アンゴラこれ結構好きかもぴょん」

「好き……アンゴラちゃんが、好き」


 すげぇ小さな声でファミマが「好き」を繰り返した。


 やがてギギギ……と変な擬音を鳴らしそうな動きで俺に首を向けてくる。


 あ、半泣き。


「だ・か・ら、フレンズの能力持ちは油断できないんだよっ。僕ちゃんのアンゴラちゃんを誘惑するなんて酷いを通り越して犯罪でしょ。ううっ、僕ちゃんのアンゴラちゃんが、アンゴラちゃんがっ!」

「……」


 どうしよう。


 精霊王の嫉妬が面倒くさすぎる。


「まあまあ、ジェイは小さな子に好かれるだけですから心配は要りませんよ」


 お嬢様がにこやかにファミマを宥めてきた。。


「その証拠にジュークちゃんとニジュウちゃんもジェイに懐いているでしょ? あと、シャルロット姫とか」

「見事にロリばっかりだね」

「……」


 お嬢様、それとファミマ。


 念のために言っておくけど俺はロリコンじゃないぞ。


 口にも出しておこう。


「俺はロリコンじゃない」

「はいはいそうですね。ジェイは守備範囲が広いだけですよねぇ」

「アンゴラちゃんは渡さないよっ!」

「え、えーと。アンゴラはロリじゃないぴょん。れっきとしたレディだぴょん」

「……」


 あれ、わかってもらえてない?


 つーか、お嬢様。


 俺のことそんなふうに見ていたんですか?


 うわぁ、凹む。


 俺がちょい傷ついているとクロネコ仮面と黒猫の戦っていた方からストレンジコングと鳥頭が数体ずつ群れを離れてこちらに迫ってくるのが見えた。


「……」


 なーんかムシャクシャしていたので俺はマジンガの腕輪に魔力を送った。


 チャージ。


 そして、マジックパンチを発射。当然、オートマチックファイヤーも作動。


「ウダダダダダダダダ……俺はロリコンじゃねぇっ!」


 俺の拳と魔力で作られた拳弾が敵を一掃する。


 そのあまりの瞬殺ぶりに時分でも「これひょっとしてここにいる敵を殲滅できるんじゃね?」とか思ったのだが試すのは止めた。仮にそんなことが可能だとしてもマリコーとの決戦を前に無駄な消耗は避けたい。


 まあ、ちょいとマジックパンチでウダダダできたので若干だが気分は晴れた。


 よし、気を取り直してマリコーのところに行こう。


 と、俺はお嬢様たちに振り向いたのだが……。


「うーん、これはただの八つ当たりですねぇ」

「ふふーんだ、僕ちゃんだってルールさえなければジェイより格好良く戦えるんだからねっ」

「わぁ、凄いぴょん! お手々がいっぱい飛んでたぴょん。ひょっとして首とかも飛ばせるのかなぴょん?」

「……」


 まずお嬢様。


 確かに八つ当たりっぽいですがこれでも一応向かってきた敵に迎撃しただけですよ(一部嘘)。


 もっと俺を評価してください。


 次にファミマ。


 あんたルールに縛られているのをいいことにできもしないことを口にしてるだろ。


 俺より格好良く戦えるだと?


 よーし、ルールはちょい無視して一回戦ってみ?


 大丈夫大丈夫、少しくらいルールを破ったからってどうせ大したことないだろ。まあ根拠なんてないけど。


 最悪リアみたいに調整送りになるくらいだろうさ。あの無茶苦茶なリアでさえそれで済んでるんだし、ファミマならもっと軽い罰で許してもらえるんじゃないか?


 最後にウサミミ少女。


 さすがに首が飛んだら死ぬから。


 俺、この娘にどう見られているんだろう?


「……」


 何だかどっと疲れてきて俺は肩を落とした。


 場を取り繕うようにファミマが咳払いする。


 彼はお嬢様に宣言した。


「僕ちゃんもアンゴラちゃんと一緒に行くよっ。いいよねっ? ねっねっ、いいよねっ?」


 お嬢様は少し困ったように眉をハの字にしたけれどそれでもファミマに押し切られる感じでその訴えを了承した。


「もう、ファミマは仕方ないですねぇ」

「やったぁ」


 小躍りしかねない勢いでファミマが喜びウサミミ少女の手を握る。


「じゃあ行こうすぐ行こうさっさと行こう」

「待て待て待て待て」


 俺が呼び止めると露骨に迷惑そうな顔をされた。おい。


「えー何? 邪魔しないで欲しいんだけど」

「……」


 あれ、これって俺が悪いの?


 思わずきょとんとするとファミマがウサミミ少女を連れて空間に溶け込むように消えてしまった。おいおい。


「……ファミマも後で調整送りですかねぇ」

「……」


 嘆息するお嬢様の声が不穏だ。



 この後、俺はお嬢様によってマリコーのいる大実験場に転送してもらいました。やれやれ。


 うん。


 ちょいもやっとしたけど、いよいよ決戦だ!



 **



 そこはだだっ広い空間だった。


 床は黒い石造りで表面がざらざらしている。教会の司祭や召喚系の魔法を得意とする魔導師なら大喜びで儀式や実験に遣いたがりそうな巨大な魔方陣が空間の中心にあった。そこから少し離れたところに幾つもの見慣れぬ魔道具が並べられており、各々に付いている魔石が怪しく光を点らせていた。


 天井はかなり高い。


 闇司教(ダークビショップ)のモダンの本体と戦ったあの廃教会の地下よりもこの大実験場の方が広大だった。これだけ広くて天井の高い場所ならどんな無茶な実験でも耐えられるのではないだろうか。


 実験に限らず例えば広範囲攻撃魔法を含めた魔法戦の演習などにも使えるかもしれない。


 まあそれはともかく。


 俺は転移して現れた場所から一歩も動かずそのまましゃがみ込んだ。頭も抱えてしまったがまあやむなし。


 俺以外にも人がいるけどもうどうしようもない。武士の情け(という言葉があるのを昔お嬢様から教わった)でほんの短い時間でいいから放っておいて欲しい。


「……」


 お嬢様に普通に転移してもらったことにちょい自己嫌悪してしまったのだ。


 あれだ、お嬢様がもう只者じゃないってことを認識してしまうとこれまでのあれやこれやが一気に蘇って軽くメンタルダメージになるんだな。これ地味にきつい。


「あらあら」


 俺がそのまま頭を抱えていると女の声がした。放っておいて欲しいという願いはどうやら叶わないようです。


 黒い石床から視線を上げると巨大な魔方陣の淵にマリコー・ギロックが立っている。その後ろで忙しなく働いているのは同じ顔をした十代半ばの少年たち六人。


 全員が銀色の短髪で白い半袖と紺の半ズボンといった格好だ。あっさりとした感じの顔は肌の白さと相まってどこか淡泊そうに見える。


 俺が少年たちを見ていたからかマリコーはクスリと笑った。


「そう言えば男性タイプのギロックを他人に見せたのは初めてね。どう? 皆可愛いでしょ?」

「男性タイプ?」


 あいつらもギロックなのか。


 てことはジュークとニジュウの兄弟みたいなもの?


 でも肌の色違うよね?


 ほら、ジュークとニジュウは肌が白くないし。


 一人の少年ギロックが中空に指を走らせた。


 指の動きに合わせるように薄い緑色の文字が光ながら空間に記される。魔法の術式だと理解するのに時間はかからなかった。


 天の声が聞こえる。



『ルート8からのディメンションコアへのアクセス……拒否。ステージ・ケテルからの直接接続は権限が足りません。エラー番号550』



「マム、こちらからのアクセスだとネズミ返しが張られています」


 眠そうな声で少年ギロックが報告する。


 まるで三徹後の冒険者ギルド職員か大量発生したジャイアントホワイトアントの群れを一晩中相手にした冒険者のようだ。つまり生気がない。


 なお、マルソー夫人の夜遊びに付き合ってもあんな感じになります。あれはきつかった。


「ルート16からビナー経由でリトライして。駄目なようならゲブラー経由で強行。ブラスター系には注意してね」

「イエス、マム」


 マリコーが指示すると少年ギロックは再び指を走らせた。


 薄緑色の光る文字が何行にも連なる。


 マリコーが少しの間それを見つめ、やがて俺へと視線を戻した。


「あなたがここに来たということはバロックが敗北したのね」

「ああ」


 俺は応えながらマジンガの腕輪に魔力を流した。


 チャージ。


「惨めなものね」


 マリコーが語りだす。


「バロックは元々隣国の宮廷魔導師だったの。それが人間関係のトラブルで国を追われることになり彼の研究も注視になった。ねぇ、何の研究をしていたと思う?」

「……」


 俺はマリコーとの決戦を想定していたのに、彼女からはそんな物騒な感じがしなかった。


 何故だかお話タイムに突入してしまっている。


 ま、向こうにそのつもりがなくてもこっちは攻撃するけどな。


 俺は無言で両拳をマリコーへと突き出すとマジックパンチを発射した。


 轟音とともに二つの拳がマリコーへと飛んでいく。


 拳を失った手首に魔力で作られた拳が現れたのでそれも発射。。


 オートマチックファイヤーが作動中になり俺の頭の中でそのメッセージが点灯する。これウザいな。


 連射された拳弾が着弾して爆煙が上がった。もわもわと灰色の煙が広がるが気にせず連射。


 既にマリコーの姿は見えずその後ろで働いていた少年ギロックたちも煙に隠れてしまった。


 そして、やたらと響く爆発音。


 その中で天の声がした。



『ルート16からのディメンションコアへのアクセス……拒否。ステージ・ビナーからの直接接続は権限が足りません。エラー番号550』



 煙が晴れていく。


 爆煙など最初からなかったと言わんばかりにさあっと煙が消えていった。


 さっきと変わらぬ姿のマリコーと少年ギロックが現れる。


「マム、リトライには……」


 言いかけた少年ギロックの身体が一瞬赤く光った。


 どさりと彼は倒れ、全身が灰色に染まっていく。身体だけではなく身に付けている服や靴も灰色になっていった。


「ブラスター系には注意してねって言ったのに」


 マリコーが深く嘆息し空間から長細い瓶を取り出した。透明度の高いガラス製の瓶だ。八分目あたりまで青い液体が入っている。


 別の少年ギロックがマリコーから瓶を受け取り倒れて灰色になった少年ギロックに液体を振りかけた。


 シュウシュウと音を鳴らしながら灰色だった全身が元に戻っていく。早い。


 随分と効果の高いポーションだなと感心していると天の声が警告音とともに聞こえてきた。



『警告! 警告!』


『権限のない管理者がディメンションコアへの接続を試みています』


『防壁を展開』

『女神プログラムによる規定事項により当該アクセスの管理者に即時撤退を要請します』



「マム、ゲブラー経由によるアクセスに失敗しました」


 倒れていた少年ギロックでも彼にポーションをかけた少年ギロックでもない別の少年ギロックが抑揚のない声で報告した。


 彼もまた中空に指を走らせている。


「ああ、うん。これって引っかけられちゃったみたいね。私の権限を貸してやらせたのは逆に失敗だったのかしら?」

「イエス、マム」

「そこは嘘でも否定しなさい。そういうところが駄目なのよあなたたちは」

「善処します」

「もういいわ、撤収撤収。ディメンションコアは諦めてエレメンタルコアで妥協しましょう。メメント・モリの元々の仕様はそちらに合わせていたんだし」

「イエス、マム」


 マリコーが俺へと目を向けた。


「さて、どこまで話したかしら? そうそう、バロックの研究のことだったわね」

「いや俺は攻撃したんだが」

「そんなことどうでもいいわよ」


 心底つまらなそうにマリコーが言い放った。


「それより今話しているのはバロックの研究のことでしょ? あなた、彼が何を研究していたのか興味ないの?」

「いや。どうせ最強の魔法戦士を作りたかったんだろ」

「そう、最強の魔法戦士。バロックは自分を認めさせるためにそれを作ろうとした。元々は対魔王用の決戦兵器として運用するつもりで研究していたみたいだけど」

「対魔王用決戦兵器……?」


 それは知らなかった。


 ということは俺ももしかしたら兵器として魔王と戦うことになっていたのだろうか。


 でも、まだ魔王は復活していないんだろ?


「悪魔が魔王復活のために動いているかもしれないがまだ復活には至ってないんだろ?」

「そうね」


 マリコーがうなずいた。


「けど、確実に魔王は復活するわよ。それもペドン山脈で行われる春先の大規模討伐の時にね」

「……」


 妙に自信たっぷりにマリコーが言ったので俺は眉をしかめた。


「何故そんなことが言える?」

「それが運命(シナリオ)だからよ。ときファンの第一作をクリアしたことのある人なら誰でも知っていることよ」

「ときファン? クリアした?」


 何のことだ?


 俺にはマリコーが言っていることが半分も理解できなかった。これは何か適当なことを口にして俺を混乱させようとしているのだろうか?


「……ま、どうせただのモブキャラのあなたには関係のない話かしらね。ちょっとは強いようだけど攻略対象キャラとかサブキャラとかでもないんでしょ? 少なくとも過去作には出てないわよね」

「……」


 きっと俺の頭の上には疑問符が浮かんでいただろう。それもたっぷりと。


「ときめきファンタジスタ」


 マリコーが少しにやつきながら言った。


「ファンタジーじゃなくてファンタジスタってあたりが頭悪いわよね。ファンタジスタなんてファンタジー用語でも何でもないでしょうに。このタイトル考えた人もそれでゴーサイン出した偉い人もみーんな馬鹿。全く、どいつもこいつも馬鹿ばっかりでうんざりしちゃうわよね」

「イエス、マム」

「マム、天才。美貌の大天才」

「クレイジーなマム最高、そこに痺れる憧れる!」

「おいらたちの女神っ」

「釣り合う男なんていない。永遠のお一人様! 来年もきっと独身っ」

「……」


 倒れてから回復したばかりの一人以外の少年ギロックたちが一斉にマリコーを讃えているのだが、おい最後の奴。


 お前、実は貶してるだろ?

 

 

 


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