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39話 空を焼く火の鳥

  由香里を待ち受けていたのは、炭化した神饌の残骸であった。いつの間にか屋台には火が着けられ、日が落ちかけた空を轟々と炙っていた。


 「何、何だ、これは」


  肉付きを最適化し、自ら大部分を削ぎ落とす。身軽になった由香里は、周囲を見回した。当初彼女は―全てに絶望し自殺を図った村人が、火を放ったのだと考えた。しかし、それにしては炎の勢いが強すぎる。


  櫓の頂上付近から、火の手が上がる。目を凝らせば何者かが、和太鼓を乱雑に叩いていた。やたらと響く耳障りな音に、由香里は辟易した。彼女は不協和音の主を消すため、櫓へと向かった。


 「人の域に留めておいたシシオリ様が、本来の姿を取り戻していく…。純粋に人の願いを叶える、ただそれだけのために…」


  どんどことやる気なく和太鼓を叩きながら、中身のない独り言を呟いていたのは、花崎海咲であった。態とらしいほどの『地雷系』な出で立ちで、もちろんの事メイクもばっちり。あまりにも風景に似合わない姿で、彼女は櫓の上に立っていた。


  由香里は彼女のことを覚えていた。旅館で、藍沢桜と仲良くしていた女だ。それが、何故ここにいるのだろう。


 「どうも、有村由香里さん。もう、始まってる?」


  由香里の姿に気がつくと、海咲はぱたぱたと手を振りながら微笑みかけた。彼女はくるりと回って、片側のスカートだけをちょんと持ち上げてお辞儀(カーテシー)をする。


  由香里は、海咲の挨拶を呪詛で以て返した。一瞬のうちに、海咲の四肢は全て捻じ切れる。


 「いたた…。ぴえん通り越してぱおんすっ飛ばして…じえん…ど、だぞ」


  突然四肢が弾け飛んだにも関わらず、海咲は飄々としていた。彼女は少なからずこの状況を楽しんでいるようで、仰向けになりながらも両手足を動かしてみるなりしていた。当然の如く堰を切ったように血が噴き出しているが、彼女は特に気に留めている様子はなかった。


  由香里は気味が悪くなり、海咲の胴体から首を捻り落とす。これで、終わり。


 「あ」


  さすがの彼女もこれには驚いたようで、目を点にしていた。彼女は頭だけで器用に回ってみせると、由香里に問い掛ける。


 「因みに聞くけど。貴女が出品している『喧嘩』って商品、購入制限ないよね?」


  尚も訳の分からないことを宣う海咲に腹が立ち、残りの部分も全て細切れにした。


  そこまでしてから、由香里は気がついた。何かがおかしい、手応えがない。まるで、揺れる炎を相手にしているような。


  完全に日が落ち、赤い月が登る。空を焼くように、一際炎が燃え上がった。一片の星明かりもない夜空において、ただ一つ煌々と光を放つもの。まるで、自身こそが太陽とでも言いたげな、傲岸不遜な態度。左の腕に死の光を掲げながら、炎の化身が地を這う大蛆を睥睨していた。


 「―売られた喧嘩は、買い占めてあげる。だから朝まで付き合ってね、お姉さん?」


  機械仕掛けの箒に跨った、空飛ぶ地雷系。彼女はその灼熱の指先で、由香里に狙いを定めた。




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