34話 決死
幸いにも、最初の勢いの割には、第二波以降の村人は現れなかった。公民館に現れた村人は四人。何れも農具で武装していたが、桜は難なく蹴り殺した。
桜自身も驚いたが、思っていたより感傷には浸らなかった。これで彼女は、既に十人以上の神饌に手をかけたことになる。自身の手が血に汚れていく様を直視しても、昨日より少しだけ麻痺した桜の倫理観は、差程センチメンタルに働きかけることはなかった。
一行は、軽トラックを奪ってトンネルに向け移動していた。道中、駐在所に寄って錫杖を取り戻した。吉村は一応、と例によって男根を破裂させて絶命した若い巡査から、拳銃と弾をくすねていた。
桜たちは、この現象の法則性をある程度掴んでいた。
初めに、この村の人間は、殆どが寄生体に感染していた。恐らくは、時間をかけてゆっくりと、シシオリがこの村を蝕んでいった結果である。
また、外部からこの村に定住していた村人たちも、一度は村人と性交渉を行ったらしく、殆どが先祖から村に住む人々と同様にして感染していた。しかし、移住者全員が感染者ではなかったらしく、惨たらしく神饌たちに貪られている中居の姿を、桜たちは目にしてしまった。
次に、男女の差についてである。男性は睾丸に、女性は別の場所に蛆が寄生するようで、また女性の場合は頚椎を自らへし折り、金色の着物を羽織っていた。男性は恐らく時間経過で寄生体が体外に排出され死に至るが、女性は基本的に不死であった。先程、狂乱した廣瀬がまだ体温の残る女性の頭部を、完全に破壊するまで金槌で叩き潰したが、憔悴した廣瀬を尻目に女性は再び立ち上がった。
「女の人の場合、蛆は脊髄にいるのかなあ。だから、頚椎をへし折って脳からの情報を遮断したがる」
というのは、吉村の分析である。
「あれは生物学の外にいる存在ですし、そういった理由ではないと思います。首を折るのは単に手早く殺せるから、くらいの理由ではないでしょうか」
軽トラックの荷台から、桜がそう反論した。科学理論的な分析では、最終的に動く腐乱死体を説明し切れない。それ故に、桜たちは女性の神饌に対する科学的な分析を諦めた。
「さて、そろそろ神社だが…」
時刻は、十八時を回ろうとしていた。幸い季節柄日は長いので、まだ少し余裕がある。
「…?あれは…」
道路の真ん中に、男性が一人立っている。彼は全裸で、首には何かが巻かれていた。遠目でもはっきりと分かるくらいには下半身が膨張しており、男性であるにも関わらず妊婦のような姿であった。
「齋藤、くん…?」
下腹部の痛みに苦しみながら、彼は大声を張り上げている。涙ながらに迫ってくる軽トラックに相対しているのは、ゼミ生の齋藤だった。




