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31話 シシオリ

  ■■村で産まれ、■■村で育った。それが、三越花であった。代々村長を務める家系に生を受け、幕府や朝廷、或いは武田の家の他には何一つ天に戴くことない、不自由のない生活を送っていた。


  水源に恵まれていたはずの■■村。しかし何故か昔から、度々旱魃に悩まされた。


  村の収入源は、貧困に喘いでいた大昔に稲荷神―荼枳尼天を名乗る女性から授けられた、とある植物から作られる金色の繊維を用いた紡績業。つまり、この村では農業が盛んなわけではなく、旱魃が起きれば近隣の村に援助を頼む他なかった。


  そして、また旱魃が起こった。獅子織滝の水は枯れ、村人たちはすぐに飢えた。近隣の村には足元を見られ、食物は法外な値段で売られた。村に蓄えれていた富も底を尽き、村長は遂に決断を下した。


  大昔からの慣習に則り、若い娘を生贄に捧げる。村人たちは賛成したが、村には丁度若い娘がいなかった。そう、花一人を除いて。


  花は聡い子だった。彼女はすぐに、村から逃げた。一度は捕らえられたが、再び逃げた。しかし、二日も経たないうちに連れ戻された。父に四肢を折られ、村に残っていた金色の着物を着付けられ、滝上に放置された。


  そして、貪り食われた。勿論、龍神ではない。野犬に、烏に、蛆に。生きながらにして体を啄まれ、花は泣き叫んだ。そして悲鳴も枯れ果てたある日、花の前に一人の女が姿を現した。


  消えゆく意識の中で、花は女の姿を目の当たりにした。初めは、天女かと思った。彼女はあまりにも神々しく、そして病的なまでに美しかった。


 「きゃはは、まだ生きてんのかい。あたし、気合いの入ってる奴は嫌いじゃないんだ。苦しいかい?死にたくないかい?」


  彼女はそう言った。舐るような嫌らしい喋り方であった。しかし、花にとっては、その声だけがこの地獄において、天から降りる救いの糸であったのだ。


 「父が、母が、村人たちが、憎いかい?」


  憎い。憎いに決まっている。蛆の湧いた拳を、花は握り締めた。


 「なァら、殺さなきゃねェ」


  彼女は、花の体に何かを入れた。元は高貴なものであったのだろう。青白く光るその珠は、彼女の手の中で変質した。それは、おぞましく煮えた黒い液体であった。


 「次は、貴女が貪る番だ」


  女は高笑いすると、空に向かって何かを投げた。すると即座に雲が群がってきて、忽ち雨が降り出した。


 「貴女の新たな名は、噉相。この妲己に仕える九つの悪食のうち、六つ目の序列を与えましょう」


  女は去った。


  そして、また旱魃が起きた。


  花は、生贄の少女を食べた。様子を見に来た村人も、食らった。




  花は、生きていたのだ。生きていたかどうかは定かではないが、少なくとも動ける状態にはあった。


  また、旱魃が起きた。否、今度は花が川の水を堰き止めたのだ。


  彼女は、力を身に付けていた。宇宙に流れる大いなる力を堰き止め、それを操る力。花の力は、支配し、そして捻じり折ることに突出していた。


  そして馬鹿で無能な村人たちは、また生贄を運んできた。花は贄の少女も、運んできた村人も食べた。それだけでは足りず、村に降りて目に付いた村人を食べた。


  そしてまた、旱魃を起こした。この頃には、村は四肢折り村と呼ばれていた。生贄が尽きた村人たちは、近隣の村を襲って少女を奪ってきたのだ。


  しかし、流石に人を食いすぎた。


  花の前に現れたのは、一人の女だった。その女の四肢も折ってやろうと花は襲いかかったが、その女には最初から四肢がなかった。否、その女の四肢は人間のそれではなく、樹木だった。


  花は逃げた。しかし、女はどこまでも追いかけてきた。痛いことは、嫌だった。自分より小さい女に繰り返し痛めつけられるのは、烏に啄まれたことを思い出させた。そして何より、女の目が気に食わなかった。自信に満ちたあの瞳。自分は特別だと意識している、あの目が何よりも何よりも、花は気に食わなかった。


  花は女の操る樹木に捕らえられた。しかし、女に祓われる前に、意識を別の少女に移した。その子は、まだ小さな子供だった。


  子供は成長し、やがて子供を作った。花は、意識を産まれてきた赤ん坊に移した。転生を繰り返す間に、花の意識は薄くなっていった。しかし、彼女は転生の方法を洗練させていった。


  女に、男に、分霊を寄生させた。性行為を媒介に、奴隷を増やした。女性の奴隷は、思考を操作して村に連れて行けば、神饌に変えることができた。


  かつて自らを祓った巫女のせいで、花自身が村に帰還することこそ叶わなかったが、その代わり大量の神饌を送り続けた。彼女は神饌を増やしながら、自身も村に帰る時を待っていたのだ。巫女の目を欺くために、別の人格を用意して。精神の奥底深くに三越花としての記憶を残した、全く別の女として。




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