18話 虚像の祝福
その夜、由香里は酷く広くなってしまった大部屋で、一人床に就いていた。木村の荷物は、そのままにされていた。
窓の外は、大時化になっていた。風に煽られた大粒の雨が、幾つも折り重なって大部屋の窓ガラスに叩きつけられている。巨大な何かが呻いているような風の音に、由香里は魘されていた。
彼女は布団から体を起こすと、充電器に繋がれているスマートフォンを開いて、時間を確認しようとした。
伸ばした左手は、最初こそ何か別の冷たいものを掴んでしまったが、二回目はスマートフォンを手に取ることができた。
時刻は、深夜二時。バックライトに照らされて、傍らで眠っていた木村の歪んだ横顔が、闇の中に薄らと浮かび上がった。
由香里は床から這い出ると、廊下に向かった。少しばかり、喉の渇きを感じたからだ。常夜灯だけが点灯されている薄暗い廊下を、由香里は歩いていく。
廊下には人の腕が散乱しており、それらは指を器用に動かして、廊下を這い回っていた。壁からは艶かしい足が生えており、それらは全てねじ曲がっていた。
由香里は自動販売機の前まで来ると、ペットボトルのお茶を購入する。コインが上手く入らず苦戦したが、由香里は何とかコインを力任せに入れることができた。彼女はキャップを捻ると、中から滴り落ちる液体を飲み干した。ペットボトルのラベルを剥がし、由香里はそれをゴミ箱に投げ捨てた。からん、と音が鳴る。べしゃり、という音も。
帰りの廊下では、互いに手の甲を打ち合わせながら、ねじ曲がった腕が至る所で踊っていた。
由香里が部屋に戻ると、布団の上で木村が立っていた。木村は、歪んだ四肢を揺らしながら。肩を震わせて、下品な笑い声を上げていた。
「瑞希、寝れないんだけど」
友人の悪ふざけに、由香里は辟易した。彼女は大きく欠伸をすると、木村を押し出して横になった。




