4話 始まりの祝杯
ようやく四人は酒場へと入ることができた。
やはり今日は国一番のイベントということもあり、いつもは冒険者が多数を占めるものが、それを凌ぐほど多くの観光客や外国人で賑わっていた。店内からも入口の様子は見え、先ほどの揉め事を見ていた客もいるようで、ちらちらと視線を感じつつも開いているテーブル席に向かう。鬼の童女とクレイド、アルティナとフィルが隣り合い、鬼の童女とアルティナが席手前、対面になる形で席に着いた。
やがて女店員がやってきて注文を聞き、アルティナが適当な料理と人数分の酒を注文する。
「・・・そうだな。まずは、自己紹介からはじめようか。私は一級冒険者、パラディンのアルティナ、このパーティではリーダーを務めている」
「同じく一級冒険者、ガーディアンのクレイド」
「私も同じ一級冒険者、魔法使いのフィルって言います」
それぞれ三人は少し緊張したような、硬い面持ちで簡単な自己紹介をした。
目の前にいるのは見た目は子供でも鬼である。この世界での昔話や伝説上に登場する鬼といえば簡単に説明すると、横暴で人の何倍、何百倍の力を秘めているというような存在である。見た目で油断させ、何か私たちがおかしなことでもすれば、その伝説通りの正体を現すかもしれない、そう考えると上位クラスの強さを誇る一級冒険者といえども、緊張しないではいられなかった。
そして、鬼の童女は口を開く。
「ん、悪いんだけども私には名前っていうものが無くてね、鬼とでもなんでも好きに呼んでくれたらいいよ。一応、一人で旅をしているよ。よろしくな」
三人の緊張した様子には我関せずといったような調子で答え、アルティナに向け手を差し出す。アルティナは不意に目の前に差し出されたその小さな手を、少しだけ震えながらも握り、握手を交わした。
(本当に子供のような小さな手、だがやはりただの子供の手ではない・・・)
そのときなぜか、この目の前の存在がこれまで何年、何百年と生き続けた者であると不思議なことに確信することができた。決してごつごつとしているわけでもない、むしろ子供の手のように柔らかく小さな手のはずなのにだ。その小さな手を包むこちらの手の方が、まるで赤子の手のように見えた。
やがて「お待たせしました」と先ほどの女店員が、ジョッキに入った酒を運んできた。それをアルティナが受け取り、各々に渡していく。鬼の童女は小さな声で、「久々の人間の酒だ」と呟き、よほど嬉しいのか、恍惚とした表情を浮かべた。
全員に酒が行き渡ったところで、それぞれジョッキを手に持ち、アルティナは口を開く。
「まずはあのとき、魔物から私の命を救ってくださり、ありがとうございました。あなたがいなければ私は危うく死ぬところでした」
そう言って目の前に座る鬼に対して頭を下げた。
「おうおう、なんてことないよ。あんくらい」
その光景をみて少し微笑みつつも、やめてくれと言わんばかりに手を払いのけるように振る。やがて顔を上げると、クレイドとフィルを見た。
「二人も、だ。フィルは看病を、クレイドは後でフィルに聞いたのだが、帰りの道中は背負ってくれていたのだな。私がこうして生きているのも二人が十分に動いてくれたおかげだ。ありがとう」
それを聞き、二人は誇らしげに笑った。
「では、乾杯!」
アルティナのその声とともに、小気味良い音が響き渡った。
「かああうまい!」クレイドと鬼の童女が同じ言葉を言う。
そして先ほどの女店員が、誰が見ても涎が止まらなくなるような肉や魚、つまみなどといった豪華絢爛な料理を運んできた。
それを見た鬼の童女は目をキラキラと輝かせ、料理とアルティナを交互に何度も見る。その光景を見た三人は、本当にただの子供なんじゃないかと錯覚するほどで、先ほどまでの緊張が少し和らぎ、思わず顔から笑みがこぼれる。
「もちろん、これは三人へのお礼だ。好きに食べてくれ」
「いいのか! こんな馳走は何年振りだろう・・・では遠慮なく」
鬼の童女は満面の笑みを浮かべ、目の前の巨大な骨付き肉を勢いよく手に取り、がむしゃらに食べ始めた。三人も続けて目の前の料理を食べ始める。しばらくして、アルティナは先日の件について口を開いた。
「鬼様、先日私を救ってくれたときの状況を知りたいのです。クレイドとフィルが来るまでごく僅かな時間だったと思うのですが、どのようにして大蛇を追い払ったのですか?」
クレイド、フィルも少し食事の手を止めその本人に視線を向ける。
彼女は骨付き肉を相当な勢いで食べていたらしく、少し詰まったのか自身の胸を二、三回叩き、横のジョッキの酒を呑みほしてから言った。
「あの大蛇のことかい? 子蛇も束になって君たちを襲ったのだから、勿論悪いのは向こうなんだけどさ。あの大蛇、君たちが殺めた子蛇の親だろう? 自分の子供を一瞬にして失ったわけだし、少し同情する気持ちも湧いたんだよね。だから少しだけ痛めつけてやって、次は人襲うんじゃねーぞって、逃がしてやったさ」
さも当然かのように言ってのけるのだった。そんな大蛇を相手にして、同情する余裕すらある、そんな話を聞いて三人は呆気にとられる。それから。
「あと、敬語っていうのか、それはよしておくれよ。堅苦しくって性に合わなくってね。それにほら、周りから見たら気持ち悪いだろう? 大の大人がこんな小さな子供に向かって敬語だなんてさ!」
冗談っぽく笑って言うのだった。その鬼の冗談を拾うようにクレイドは口を開く。
「ま、まあ言われてみれば・・・。でも、そんなことを言ったらもっと変だぜ。なんつったってそんな小さなお子様が、ジョッキ片手に酒飲んでんだからな!」
「それもそうですね」
フィルも続けて言うと、鬼の童女は「なにを!」と言って笑いが起こり、先ほどまでのどこか緊張した雰囲気は、だんだんと消え去っていく。
そんな中アルティナはまたも硬い表情をして、もう一つ話を聞く。
「鬼様、もう一つお聞きしたいのですが」
「ん、なんだい?」
アルティナは最近の魔物の活性化の話、その理由が暴虐龍ニズゼルファの復活が近いからということ、また、数千年前のアストラル史の歴史について話し始めた。
「これらについてなにか、知っていることはないですか」
「んあー、悪いけど、なにも知らないね。数千年前の話なら、私はまだ生まれちゃいないさ。なんせこの世に生を受けてから、まだ五百年程度だからね」
「ご、ご、ご、五百年 (ですか)!?」
クレイドとフィルは二人して面食らうような表情をして驚く。
(であればこの鬼の少女は、暴虐龍ニズゼルファをアストラルの英雄と共に封印した鬼、というわけではないのか・・・)
その話にアルティナは、少々残念そうにする。この鬼こそ、アストラル史に登場した鬼そのものかもしれない、と目論んでいたからだ。もしそうであれば、暴虐龍ニズゼルファの詳しい話や封印の話、また当時の鬼族についての話も聞けるかもしれないと考えていた。
アルティナはしばし考えると、なにか思い付いついたような表情をして、さらに踏み込む。
「この話を知っていそうな鬼族の方は、他にいらっしゃいますか」
「いんや、実のところ私は五百年生きてきて、未だに同族と会ったことがないのさ」
少しだけ寂しそうな表情をしつつも、それをごまかすかのように笑顔で答えるのをアルティナは見逃さなかった。その反応を見て、少々失礼だったかもしれないと謝罪をしようとすると、鬼の童女は「でも」と一言。
「その歴史の話、初めて聞いたけど、鬼ってのは私のほかにもいたんだね。もしかすると今もどこかにいるのかもしれないと思うと、なんだか少し安心したよ。ありがとな」
柔和な表情をして答えるのだった。その言葉を聞き、アルティナは少し安堵する。
やがて、クレイドとフィルにも話していないこれからのこと、自身の思いを三人に打ち明け始める。
「近年の魔物の活性化について、暴虐龍ニズゼルファの封印が解ける日が近いから、というのはアストラル史の一部解読が進んだ文章から間違いない。ただ、その他の情報は全くの未知数、とのことだ。国の研究院は今必死になってアストラル史の解読やその他調査を行っているだろう。しかし未だそれが眠っている場所、倒し方や封印の方法、正確な封印が解ける日にちについてはわかっていない。いずれ調査が進んだ際は、私たちのような一級冒険者パーティに国から召集が掛かることだろう・・・」
「召集、それって、国の軍人さんたちと冒険者パーティが協力して、暴虐龍ニズゼルファを、ということですよね?」
フィルが不安そうな表情を浮かべ質問した。
「ああ、いずれはそうなるだろう。倒すのか、はたまた封印するのかはわからないが。昨日二人には話したが、今私はこうして身分を隠して冒険者をしているが、私はアストラル王国、現国王の長女として生まれた身だ。・・・表向きには大病を患い、静養中となっているがな。かつての英雄、私のご先祖様が鬼族の者と共に暴虐龍ニズゼルファを封印したのならば、私も同じようにこの国の民を、大地を、歴史を守るために、戦いに行こう。たとえ、この身を犠牲にしてもだ・・・」
「なら、私ものった!」
そこまでアルティナが言ったとき、突然鬼の童女がそんなことを言い放った。突然の参戦宣言に、思わず目を見開く。
「大体、話は読めた。ようはその歴史に倣って、偶然居合わせたこの私、鬼に協力してほしいってこったろ? ちょうどここ何年も暇してたんだ。久々に腕がなりそうなヤツと戦えるんなら喜んでいくぜ」
そう言うと八重歯をむき出してニカっと笑った。そして。
「俺も、協力するぜ! アルティナちゃんには世話になってるし、勝手に逝かれちまったら嫌だしよ。第一、またアルティナちゃんがそんな強敵を前にして眠っちまったら、担げるのは俺ぐらいしかいないだろ?」
「私も! 攻撃、回復、支援魔法はお任せください!」
クレイドとフィルも覚悟を決めた目つきをしながらも、笑顔を浮かべ、そのように言った。
「鬼様、二人も、ありがとう・・・」
アルティナは三人の心強い返事に、涙を浮かべそうになりつつもそれを飲み込み、感謝の意を述べたのだった。
「なら、今日から四人パーティってことでいいよな! よろしくな、鬼ちゃん!」
「そうですね。でもそれなら、鬼さんにもっと呼びやすい名前を考えるのはどうでしょうか? もちろん、鬼様がよければですけど・・・」
フィルはそう言って彼女に目を向けると、本人は目を輝かせ「いいのか!? 生まれてこの方名前なんて付けられたことなかったしなあ」と、嬉しそうにした。他二人もその意見に賛成し、クレイドは開口一番、自信満々に名前の候補を挙げる。
「じゃあまずは俺から! 子供なのに酒を呑むところから酒を呑む子供と呼んで『シュテンドウジ』ってのはどうだ?」
「全然呼びやすくないですし、なんだか怖いです! こんなに可愛らしいのですからもっと女の子っぽい呼び名にしましょう?」
そのクレイドの名前候補にフィルは真っ向からダメを出し、当の本人も若干苦笑い。クレイドは「トホホ」と、少しシュンとしてしまった。
「んー、でも難しいですね。鬼さんの呼び名って」
そう言うとフィルは外見の特徴から呼び名を考えるのも良いのではないかと思い、鬼の童女を見る。体躯は十代前半の子供のようで、じっと見ていると引き込まれそうな程の大きな目には赤い瞳。見たことのない不思議な格好と、真っ直ぐと腰まで伸びた綺麗な黒髪。
フィルは鬼の童女の、少女らしい小さな額を見ると、アルティナも同じように眺めていたのか、そのときになってようやく、先ほどの疑問を恐らく二人は同時に思い出した。
「そういえば、額の角は? 私が初めてあなたを見たあの日、おでこに立派な角が一本生えていたように思うのだが」
「ん、角、見たいのかい?」
鬼の童女はそう言うと周囲を見回す。大抵の客は会話に夢中になっていたり、酒に溺れて煩くしていたりと、あまりこちらに気を引く者はいないと見ると、静かに目を閉じ、念じるような表情を浮かべた。
「おお」
思わず三人は声が漏れる。そのような仕草をとると額が青い光で包まれる。そして、ものの数秒で立派にも禍々しくも見える、長さは凡そこぶし二個分ほどか、骨が突起したようにも見える角が額のでこ右側に現れるのだった。
「普段人里や国に入るときは、こうして隠しているんだけどね。特別だよ」
そう言うと自分の角を少し撫でて、またも念じるように目を閉じると角の周りは青い光に包まれる。でこに生えていた角はきれいさっぱり消え去っているのだった。
「すげえ!」
「凄いです!」
それを見たクレイドとフィルは声を上げて驚いた。
「いったい、どのような魔法? 術が使われているのですか!? とにかく不思議です。私が見た感じ魔力が使われているようには見えませんでした」
「んーいや、いつの間にやらできるようになっていたのさ。私もこれが人様が扱うような魔法とも思ってないし、なんだろう、鬼に備わった術ってやつなのかな。これを使うと普段の半分しか力を出せなくなるんだけどね」
彼女自身も詳しくは分からないようであった。
「それはそうと、呼び名だよな」
クレイドがそう言うと思い出したかのように三人はまたも考え始めた。鬼の童女は再びワクワクした表情をして、一人だけ床につかない足をブラブラさせて待っている。
「『シュラ』、というのはどうだろうか?」
アルティナがその名前を口にすると、おー、と三人から好反応。「その心は?」とクレイドが聞いて、アルティナはその理由を答える。
「見ていると目の瞳の色、あまり見ないが赤い色がとても綺麗だと思ってね。赤い色は朱色ともいうし、朱色のシュと、単にシュリよりも、シュラの方が言葉の響きもなんだか鬼らしく、強そうに聞こえるかなと思って・・・」
段々と恥ずかしくなってきたのか、俯きながらもポツリポツリとその由来を言う。すると鬼の童女は突然立ち上り、朱い瞳を輝かせ、アルティナに指を差して言い放った。
「シュラ・・・、シュラ、気に入った!」
「本人が気に入ったんなら、決まりだな! 改めてよろしくな、シュラ」
クレイドはそう言うと手を差し出し、鬼の童女、シュラと握手を交わす。続いて二人も同じように握手を交わした。その後もシュラは初めての名前がよほど嬉しかったのか、「シュラ、シュラ、私はシュラ」と子気味良く、呟くのだった。
その後、四人は他愛もない会話をしつつ、料理と酒を楽しんだ。
やがて夜も暮れ、四人はたっぷりとお腹を満たし、花火を見るために人通りの多い屋台が並ぶ道を歩いていた。
どうやらクレイド、フィル、仲間になった鬼の童女、シュラはもうすっかり仲良くなっているようで、笑顔を絶やさない。
シュラは五百年生きているという話だったが、性格自体は見た目通りの子供のようなもので、先ほどからクレイドへのちょっかいが止まらない。クレイドもまるで親戚の子供を相手にするかのように振る舞うので、シュラも楽しそうだ。フィルもそんな二人を見てまた笑っていた。
・・・たまに鬼の力一歩手前まで出てしまっているのか、クレイドは本気で痛そうにしているときもあるのだが。
アルティナは三人の後ろから、その様子を微笑ましく見ていた。
(なんて良いパーティなのだろう・・・)
そんなことを思い、不意に二人との出会いを思い出す。
五年前、私が十五歳のとき、まだ王城にいた頃のことだ。ある日、突然縁談の話が舞い込んできた。相手は名も知らぬ遠い異国の王子。政略結婚、そうとしか思えなかった。
当時の私は、王家の姫という立場に縛られ、不自由な日々に嫌気が差していた。そんな中、本人の意思も問われずに進められていく縁談には心底うんざりしていたのだった。
そして私はその年、城を抜け出した。
当然、城は大騒ぎだっただろう。一国の姫が逃げ出したのだから。だが、王国は威信を守るためか、私としてはありがたいことに、公に情報が流されることはなかった。しばらくは私を捜す衛兵たちの姿を城下町でよく見かけたものだが。
城を出た私はまず、金髪だった髪を白く染め、短く切った。顔がばれぬようフードを深く被り、マスクをした。
そして向かったのは、冒険者ギルド。幼い頃から私は自由の象徴である、冒険者に憧れていた。
身分を隠し、正規の手続きを踏んで、意外とすんなり冒険者になることができた。
そんな理由もあり、誰とも組まずに冒険者をしていた。
やがて三年の月日がたち、衛兵の姿も見かけなくなったころ、「アテナ姫は重い病にかかり、静養中」という話が広まっていた。
この頃から私はマスクを外すようになり、堂々とギルドを出入りするようになっていた。
そして私は一級冒険者になることができた。
普通なら仲間とパーティを組み、十年、二十年とかけてようやく辿り着くかどうかという地位だ。それを、私は異例の速さで、しかもソロで成り上がってしまった。
だが、良いことばかりでもない。
その前例のない早さに、魔物の類い、はたまた鬼かもしれないと、ギルド内の一部の冒険者からそんな心もとない言葉を掛けられるようになった。
最初は気にしない素振りをし、全くの無視を決め込んだ。しかし、私が何も言わないのをいいことに段々とその言葉は増えていく。
私は帰る場所もなく、ギルドでは変に言われ、もういっそ消えてしまいたいとさえ思っていた。自分の居場所はどこにもないのだとも。
そんな心境の中、いつも通り、一人淡々とギルドでの依頼を受注しようとしたときだった。
「俺らとパーティ組みませんか?」
二人が私の前に現れたのだった。
「アルティナさん、ですよね? ソロで一級冒険者って、めちゃくちゃ強いし、かっけえ!」
「実は私たち、アルティナさんを前々から見ていて、ソロと聞いたのでパーティお誘いしたくて、この間二級冒険者になったばかりなんです! 本当は一級冒険者になってからの方がいいのかなと思ってたんですけど、クレイドさんが聞かなくて・・・。すみません、よければでいいんです!」
その言葉を聞いて、私はどういうわけか情けないことに、涙がぽろぽろと溢れ出し、ついには泣いてしまった。その言葉に救われたのだ。
彼らも私と同じ十八の年齢だったことから、すぐに打ち解けることができた。当時出会ったとき、彼らは二級冒険者とのことだった。
正直この年齢で、しかも二人パーティで二級冒険者というのもなかなかに凄いことだった。
アルティナがパーティに加わったこと、もともと二人も才や実力もあったためかそれらが功を成し、その二年後、つい先日だが、彼らも一級冒険者になることができたのだった。
パーティを組んでからはギルド内でも変なことを言われることはなくなった。何か言われた際には、クレイドが徹底して言い返したりしてくれていたというのもある。
やがて、もともとソロ、しかも十八という若さで一級冒険者になったというのは有名であったためか、いつしか碧眼の女剣士という通り名までついていた。
「アルティナさーん!」
そんな過去のことを思い返していると、遠くから聞こえるフィルの声で我に返った。
どんどんと三人は奥の方へと進んでいたのだった。
「アルティナちゃーん! またさっきみたいに置いて行っちまうぜ!」
「そうだぞーアルティナ!」
「ああ、待ってくれ!」
アルティナはそのクレイドとシュラの呼び声に咄嗟に反応して、足を速める。
アルティナが三人の後に追いついたとき、夜空に満開の、それはとてもきれいな花火が上がるのだった。