7 畑を作ろう①
足をお運びくださりありがとうございます<(_ _)>
おもちゃのスコップで荒れ地を耕すなんて、なんの罰ゲームだろう。
(残り五分の四、地道にやっていくしかないか)
マメが出来かかっている掌を見つめて項垂れる。
「働けど、働けど……ううっ」
(いかんいかん。またネガティブが出てきたわ。ほら、あれを見て!)
掘ったばかりの井戸の周りをシロリンが、「ワホワホ」楽しそうに走り回っていた。
マリサの目尻はたちまち垂れ下がる。
「しかし、体力無尽蔵すぎじゃない?」
マリサの方はお腹が減りすぎて、限界はとうに過ぎた状態だ。
お腹が減ったら電池が切れ、全く動けなくなる自転車操業タイプの人間なのだ。
今立っているだけでも奇跡だし、自分偉い! と褒めてやりたいくらいだった。
(もしかして、これ、シロリンチャージのお陰かも)
そうに違いないと大きく頷く。
(それに、シロリンが井戸を掘ってくれたことは大きいよ。もう森までえっちら歩いて行かなくてもいいんだもの。シロリン神! 水があるだけでもありがたいと思わなくちゃ)
当初の予定では全て耕すつもりでいたが、一人では限界がある。
今日はあと五分の一だけは頑張って耕そうと決めて、マリサはスコップを握り締めた。
コツコツ地道に頑張るのだ。
ゲームの時は気にも留めなかったが、ゲーム開始段階では、おもちゃのスコップしかない状態で畑を耕すのだ。
「わー、やなこと思い出しちゃったよ」
同じように、地面を十メートル×五メートル程の長方形に区切って、マリサのアバターの『マリーサ』はせっせと耕していたが、現実世界と時間の進みが違い六時間で一日が過ぎるため、あっという間に畑は出来上がっていたのだ。
そうは言っても、最初の畑は、『マリーサ』一人で耕していた。
「そうだ、畑を作った後で『???』の箱開けたんだった。モモクマは鍬とか持てるし、なんなら素手で土とか掘っちゃうし、後で畑を広げる時、かなり役に立ってくれたんだよね。っていうか、『マリーサ』ごめん、こんなに大変だったなんて。そうだ、シロリンが掘り当ててくれた井戸! ゲームでは、井戸はポイントと交換したんだった。しかも高ポイントアイテムだったはず……ありがたや……」
手を合わせ天に向けて祈るポーズをとるマリサは、はっとする。
(あっ、もしかして……)
「シロリーン!」
井戸の前で、ごろんと寝そべっていたシロリンが、
「ワフン!」
と立ち上がってやって来た。
マリサは畑を指差しながら、シロリンに話しかける。
「ねえ、シロリン、この枠の中を耕してくれないかな?」
スコップで地面を掘って見せたら、シロリンは首をかしげてキョトン顔になった。
(ううむ……分かりにくいかな。じゃあ犬の気持ちになってみましょうか)
マリサは両手をグーにして、犬になったつもりで地面を掘る仕草をした。すると、
「ワフッ!」
と理解したらしいシロリンが、
わー、掘っていいの?
とばかりに目を輝かせて、畑予定の敷地を猛烈な勢いでザクザク掘りはじめたのだ。
もっと掘るよ!
わーいわーい!
そんな声すら聞こえてきそうだった。
「ちょ、シロリン、ストップ、ストー――ップ!」
シロリンが畑予定地の枠を一気に越えてザクザク開墾していく。
「うわあー、流石シロリン。頼もしい!って言ってる場合じゃないわ。もういいから、まちなさーい!」
マリサは慌てて追いかけるが、シロリンは地面を掘っているというのに、まるで追いつかない。
「わ、私が行く方向に、もういないし。し、周回遅れみたいに、なってる。F1トラクター、じゃなくて、Fワンコトラクターだわ」
ゼイゼイハアハアいいながら、マリサはしゃがみこむ。
これは諦めるしかないだろう。
フィーバー状態のシロリンを止められるのは、本犬だけだ。
やれやれと溜め息をつきながら、アイテムボックスの中の苗と種を取り出すことにする。
「どれどれ……」
この世界、野菜や花の名前がちょっと変わっているのだ。
カミナリコムギ、トゲニンジン、ハニーベアダイコン、ホーンレンソウ、バクダンポテト、ブロックイチゴ、ロックメロン、ヒダルマヒマワリ……等々。
「最初に入っているのはこれで、後は、収穫したものと物々交換したり、売ってお金に換えたりするのよね。そうそう、クラッシュラベンダー、ヒットゼラニウムは直ぐに欲しいな……虫除けは必須だもの」
虫と名の付くものは、全て苦手なマリサだった。
ふと、頭の上から、生暖かな風がくるなと見上げれば、シロリンが地面に並べた種と苗を見下ろしていた。
「うわあっ!」
「ワフワフ」
(やだ、シロリンの口でっかい! 私なんて一飲みだわ。きゃー、牙かっこええ! じゃないわ。シロリン全身土まみれだよ)
水を浴びた直後にまた穴掘りをしたのだ。それは泥だらけになるというものだ。
くすくす笑ってシロリンの鼻の辺りをなでる。
「後で井戸の水で洗おうね」
シロリンの向こうを眺める。
「うっわ!」
畑が計画していたものの何倍も耕されていた。
「こりゃ、結構暴れたねえ。あれ、なんか、案外いい感じじゃない?」
適当に掘り返されるのを覚悟していたのが、割と綺麗な円……というか楕円状に、耕されていた。
もし一人だったら、シロリンがいなかったら、と考えたら、マリサは想像もしたくなかった。
ぶんぶんぶんっ。
マリサは首を振って、ネガティブになりそうな思考を元に戻す。
「シロリン、ありがとう。助かったよ。さあ、ちゃっちゃと植えるぞ!」
シロリンだってお腹が減るだろうし、立ち止まってはいられないのだ。
少しでも気に入っていただけたなら幸いです。