43 帰路にて⑤ ~五日目
ロバジイが手綱を握りシロリンが牽引する荷車は、驚異的な速度で進み、日が傾く前に公爵領の北(公爵領北部)に戻ってきていた。
そろそろ公爵城が見えてくるというところだった。
マリサは自然に、とても自然にライアンを思い浮かべ祈っていた。
(ライアン様や、戦いに身を投じておられる皆さんが、どうかご無事で、健やかでいられますように。南の領民の方々や、生きとし生けるもの達も、健やかでいられますように。そして、汚染された土地が浄化されますように!)
頭を垂れ、瞳を閉じ祈るマリサは気付かなかったが、マリサの周囲は、それまでの祈りとは桁違いに発光したのだった。
その祈りは、瞬時に、南の領地で魔物討伐に苦戦していたライアン等に降り注いだ。
◇◆◇◆◇
「……ひ、光だ……」
魔物から脇腹に一撃を喰らい、毒を受け瀕死だった騎士は、光のヴェールを浴びて全身を震わせた。紫に変色した肌が元に戻っていき、抉られた無残な脇腹の傷がみるみる塞がっていった。
ポイズン・トレントの蔓に縛り上げられ窒息寸前だった魔術師も解放された。
「グッ、ゴホッ、ゴホッ。ああ、マリサ様……」
その他、周辺で任務に赴く数百、数千の傷を負った兵士に、領民に、家畜や動物、生きとし生けるもの達へ、その土地へと光のヴェールが降り注いだ。
勿論、毒を帯び更に凶暴化した魔物へも降り注いだ。
広範囲への祈りに加え、遠隔からであったため、祈りの力そのものは半分程になっていた。それでも、複数の女神から加護を受けたマリサの祈りは、様々な浄化と、正常化を促していった。
領民達や、自警団、国境に詰める者達や、中でも王都からやってきた援軍の歓喜と驚きは一入だった。
汗に濡れ、胴体に無数の傷を受け、目も虚ろだったグレイスは、祈りの光を浴びて、全身の傷と疲労がほぼ癒えていた。白金の鬣を靡 かせ、翼を大きく広げ、自ら発光するように勇ましく嘶いた。
息が上がり、剣に縋り膝をつきかけていたライアンは、悠然と立ち上がり、その瞳に再び闘志が宿るのだった。
傷が癒えたからとはいえ、全ての者が再び立ち上がれはせず、まともに立てる者は六、七割程度にまで減っていたが、それでも十分だとライアンは剣を掲げた。
「 皆のもの! 我々は今、女神の御使い、マリサ嬢の加護を得た! さあ、あと一息だ。 まだ立てる者は後に続け! 」
「「「うおおおーっ!」」」
淀んだ大気が打ち払われ、荒れ果てた戦場の天に、日の光が戻った。
◇◆◇◆◇
「あれ……、まりょく?……」
マリサは荷車の中で、ソファに倒れ込んだ。
(……動悸が。これ、魔力枯渇しかけてるんだわ。もしかして、もしかすると、ライアン様へ祈りが届いてるのかな? だったら嬉しいんだけど)
荷車の走行が止まっていたらしい。幌の後ろ側が開き、ロバジイが上がってきた。
「おい譲ちゃん、また派手にやらかしたなあ」
「へ?」
「ワフゥ……」
目を向けると、ロバジイに次いで荷車に頭を突っ込んだシロリンの耳も眉も、垂れ下がっていた。
「ったく、突然辺り一面輝くもんだから、あわや事故るところだったぜ。これを飲むんだ」
「うっ……スミマセン」
ヨロヨロと起き上がり、ロバジイから小瓶ー魔力ポーションを受け取ると、蓋を開けたマリサは、グイッと飲み込んだ。
(ううっ、めっちゃニガイ……)
魔力ポーションの洗礼を受け、魔力は半分ほど回復したが、涙目になり再びソファに突っ伏した。この苦さに慣れる気がしないマリサだった。
「ワフゥ……」
「シロリン、ダイジョウブヨ~」
と言ってみたものの。立ち直るのに時間が必要だった。
(もう絶対やらかさないように、セーブしなきゃ)
しかし、何をどうセーブしたらいいのかはマリサ自身わからないのだった。
お立ち寄りくださりありがとうごさいます。
更新がゆっくりになりすみません。次回、ようやく領地へ戻ります。




