41 帰路にて④ ~五日目
出発前、ロババアに、南への物資とは別の商売用の品を幾つか見せてもらった。
マリサが公爵家から譲り受けた品は、それぞれ良いものばかりだ。だが、衣類などは特に高級品揃いで上品が過ぎたため、普段着としても気を使いそうだった。
農作業に適した、丈夫で汚れにも強い服が欲しかったマリサは、衣類中心に見せてもらうことにした。
(ロババアのスカートやジャケットはデニム素材っぽいし、帆布の生地に似た厚底のスニーカーの底はコルクみたいで、ゴム素材はないのかな? けど、商売人だし、取り扱ってる品物を着用してるかもしれないよね)
マリサの思った通りだった。
デニムに似た生地の色とりどりのズボンやスカート、帆布生地っぽいエプロン、それに、ジャージ素材と思しきズボンや上着まで取り揃えられていた。
他に、ロババアが履いているのと同じスニーカーに、雨を弾く魔法を付与したレインコートまであったのだ。
収穫した手持ちの野菜は、九割程残っていた。フルゥピュアでの食事は、ほとんど公爵家の方で用意した食材で賄われたためだ。
おかげで、手持ちの野菜の七割程で、数着の既製服とスニーカー、レインコートと交換する事ができた。
「しっかし、マリサの野菜は、よく肥えたいい野菜だねぇ。これを支援物資に回せば喜んでもらえそうだし、間違いなく高値でも売れるよ。そうだ、マリサの畑に立ち寄るから、どんどん野菜を作ってくれないかい?」
「おいおいおい、人の縄張りを荒らすな! いい加減にしろよ姉ちゃんっ!」
ロババアの襟首を、ロバジイが掴みあげた。厚底の分、ロババアがロバジイを見下ろしている。
「ま、待ってくださいっ!」
と、マリサがびっくりしておたおたしている中、
「ワホッ♡」
と、シロリンが二人に飛びかかっていった。
「えっ、シロリン⁉」
バサッ! ドベシャッ!
大きなシロリンの下で、ロババアとロバジイが、手だけ覗かせてぺしぺしと地面をたたいている。
シロリンは嬉しそうにロババアとロバジイの顔を嘗めまくっている。
昼食時、ロバジイとロババアからも、なんでも焼きの残りを貰ったシロリンは、すっかり二人を遊び仲間と判断したのだろう。
マリサは思わず「ぶっ!」と噴き出した。
「……お、おい、笑ってないで、た、助けてくれぃ!」
「……早く、このデカワンコロ、どけとくれっ!」
二人のくぐもった声が聞こえる。
「ええっと、なんですか?」
にまにまと笑うマリサは、聞こえているのにわからないふりをする。
「おーい、さっき、友達価格で、交換してあげただろう?」
「コカトリスの羽根、役に、立ってるよな?」
「仕方ないなあ。はい、今お助けしますね!」
マリサは笑うのを堪えながら、シロリンのおやつのジャーキーを手に持った。
それから、ロババアとばかり品物を交換したためか、どこか拗ねているロバジイからもマリサは商品を見せてもらった。
麻のような素材の収穫物を入れる袋を数枚と、大きめの籠が何種類もあったので、麻袋数枚と、大小の籠二つを喜んで交換した。また、シロリン用の首輪は、可愛いが派手なロババアの品物より、ロバジイの、無骨だが丈夫そうな赤い首輪を選んだため、ロバジイは忽ち機嫌を直したのだった。
青みがかったシルバーホワイトの毛並みに、赤い首輪がよく似合う。
「きゃ~っ、シロリンかっこいい!」
(尊いって、こういうことを言うのね)
「ワフッワフワフッ!」
この日最高の、シロリンのスマイルを貰って、胸がいっぱいになるマリサだった。
「さてと、あたしはそろそろ行くよ」
「おお、またあっちでな!」
「ロバネエさん、お世話になりました。お元気で!」
「ああ、いつでも連絡をよこしな!」
「ワフッワフッ!」
トニコが嘶き、ロババアの荷車が砂埃をあげて遠ざかって行く。
「よしっ、出発だ。日のある内に公爵様の城へ行くぞっ!」
ロバジイの掛け声とともに、シロリンの走る速度がどんどん増して行った。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。