37 シロリンと一緒に⑦~五日目
村の広場に、ライアン以下十名が整列をしており、それぞれの従魔が後方に控えている。
ケビンとテオが村の長や司祭のミシェール等と共にライアン達に向き合い、ロバジイとマリサとシロリンは、少し遠巻きにして荷車の前に立っていた。
「……作戦については以上である。まずは騎獣にて現地へ向う!」
副班長の年長の魔術師が号令をかけた後、それぞれが従魔の方へと移動していく。
マリサがライアンの元へ行こうと歩き出した時、一足先にブランカが司祭のミシェールや子ども達と共にライアンを囲んだ。
数メートル離れた場所でマリサが小さく溜め息をつけば、ケビンとテオがやって来た。
「マリサちゃん、いろいろと世話になってありがとう。」
笑顔でテオと握手するとケビンが続いた。
「ほんと、マリサちゃんにもシロリンにも驚かされたけど、こう言っちゃなんだけど、楽しかったぜ」
同じく握手すると、ケビンが思い出したようにつけ加えた。
「あ、公爵家の森の狩猟だけど、俺達も加わる予定なんだ」
「まあ、ほんとう?」
気心の知れた人達との狩りは、きっと楽しいだろう。
テオがシロリンを撫でながら言う。
「帰ったらライアン様から連絡が行く予定だから」
マリサは曖昧に笑った。
すっかり二人に懐いたシロリンは、尻尾をこれでもかというほどわっさわっさと振っている。
「嬢ちゃん、準備は済んだか?」
ロバジイが確認を終えて荷車の中から出てきた。
「あ、はい」
ケビンがロバジイと握手する。
「ロバジイ、世話になったな」
テオも続けて握手する。
「お世話になりました!」
次いで、ケビンがシロリンを撫でて言う。
「シロリン、マリサちゃんのこと頼んだぞ、気をつけてな!」
「シロリン、またね。マリサちゃんを無事に送ってくれよ」
テオが名残惜しそうにシロリンのもふ毛に抱き着いた。
また会えるとわかってはいるが、なんとなく寂しいのはなぜだろうと、マリサは思う。
ライアンに目をやると、ブランカはライアンの右腕を両手で抱きしめるようにしており、なにやら話し込んでいるようだった。
ライアンに声をかけたかったマリサだったが、諦める他ないようだ。
出発は、ライアン達を見送ってからと考えていたが、こちらは陸路だ。出来れば今日中に北の公爵領に戻ることを考えればゆっくりもしていられない。
マリサが自らの拠点に戻る前に、まず公爵の城へ行き、ロバのトニトを迎えに行かねばならないのだ。
そこへ、司祭が小走りにやってきた。
「マリサ様、シロリンちゃん!」
司祭のシロリンを見る熱視線に、シロリンがピクッと反応する。
「司祭様、お世話になりました」
マリサが頭を下げると、司祭が滅相もない! と、首を激しく振った。
「お世話いただいたのはこちらの方です。はるばる物資を運んで来て頂いたのにもかかわらず、何のおもてなしも出来ず、しかも屋外でお休みさせてしまうとは。なんとお詫びをしていいのかわかりません。次にお越しになる時は、どうぞ前もってお知らせください。しっかりとおもてなしをさせて頂きますゆえ」
深々と腰を折り頭を垂れる老司祭の腕に、マリサは慌てて手を添える。
「頭をお上げください。僅かでもお役に立てたのでしたら、こちらも嬉しいです」
司祭は懐からなにやら便箋のようなものを取り出すと、マリサに差し出した。
「どうぞ、こちらをお納めください。これは、『先触れ燕』という魔道具でして、便箋に宛先とメッセージを書き込むと、ツバメの形に変化して送り届けてくれるのです」
先触れ燕は、距離により数分~数時間で相手にメッセージを届ける魔道具だ。領内ならどこでも飛ばすことかできる。ただし、領外の場合は異なる魔法の障壁に弾かれたり、長距離により魔道具の魔法が解けてしまうため領内限定となる。
「これでお知らせくだされば、いつでも大、大、大歓迎いたします。ぜひ、シロリンちゃんとご一緒にいらしてくださいね」
そう言うと、司祭はつぶらな瞳を切なげに揺らし、シロリンをわしゃわしゃとなでて溜め息をついた。
「ワフゥ……」
顔を合わせる度に、司祭にわしゃわしゃされたシロリンも、なんだか寂しそうにしている。
「ありがとうございます。また立ち寄ることがありましたら、ご連絡させてください」
(そんな日が来るかどうかはわからないけれど、村の復興の様子を知りたいし、モモちゃんとまた会いたいな……)
そう思うマリサだった。
「嬢ちゃん、そろそろ出発するぞ!」
マリサは、ライアンへの挨拶は諦めて、ロバジイの荷車に繋いだシロリンに話しかける。
「シロリン、まずは公爵様のお城へ行くよ。トニトが待ってるからね」
「ワフッ!」
了解! とでも言うように、シロリンが勇ましく吠えた。
マリサは荷車に乗り込むと、司祭とテオ、ケビン、それから駆け寄ってきたモモに手を振る。
「よし、出発だ!」
ロバジイがシロリンのお尻をポーンと叩く。
「ワァオォンッ!」
荷車が走り出す。
「マリサちゃん、またな!」
「マリサちゃん、気を付けて!」
ケビンとテオが大きく手を振っている。
「ううっ……、マリサ様、シロリンちゃん、お気をつけて。ありがとうございましたー!」
司祭は目元を服の裾で何度も拭っている。
「マリサお姉さん、シロリンちゃんー、また遊びにきてねー!」
モモが泣きながら荷車を追いかけてくる。
広場から溢れた村人達が口々に、「ありがとう」や歓声の声を上げ、子ども達もモモと一緒になって追いかけてくる。
「モモちゃん、みんな、転ばないようにね。ありがとう、またねー! 皆さんお世話になりましたー!」
マリサの胸はいっぱいになり、涙で景色が霞んで行く。
マリサは気が付かなかったが、ライアンが荷車の行方をじっと見つめていた。
「マリサ……」
牽引するシロリンの脚が勢いを増して行き、村の景色が風のように遠ざかっていった。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




