36 シロリンと一緒に⑥~五日目
『あなたは、ロンド王国という名の『小説』の人ですか、それとも、『げいむ』とやらの人かしら?』
ブランカにそう聞かれて、マリサは立っているのがやっとなほど、酷い緊張を強いられていた。
「小説」というのは初耳だが、この世界と類似した小説があるのかもしれない。もしかすると、ライアンの曾祖母か、他にも転移した人がいて、その小説を読んでいたのだろうか……。
そして、
「げいむ」は、そのまま、マリサが毎日の日課としていた「箱庭のロンド」という名のスマホゲームのことだろう。
ここで、『はい、この世界に良く似たゲームをやっていました』などと言ったところで何になるというのだろう?
それよりも、なぜ、ブランカが知っているのか、その情報をどこから得たのかと考えると、自ずと答えは導きだされてしまう。
マリサの胸に疑念が広がっていく。
マリサの事情を知っているのは、ライアンと、メイド長のアンナだけだ。
ブランカが、ライアンと、ライアンの姉リラから、妹のようにかわいがられていたというのは、ケビンとテオから聞いている。
ブランカの家が没落する前までは、公爵の城へも頻繁に訪れていたらしい。公爵家の方で、受け入れられていたという事実があるのだ。
『ライアンさまから?』
思わず口にしてしまい、マリサははっと我に返る。
『ライアン様? ええ、ライアン様とは幼い頃よりの深い間柄ですもの。何も隠し立てすることはございませんわ』
そうブランカは嫣然と笑い、続けた。
『それに、光の魔法の使い手ですし、ね』
光の魔法の使い手だから、なんだというのだろう。
マリサの心臓はバクバクと激しく鳴り、音が伝わっているのではないかと、不安がますます膨らんで行く。
『ワォオォン……』
テントの横で寝そべっていたシロリンがやってきて、マリサの頬を舐めてくる。
『シロリン、少しだけ待っててね』
マリサはシロリンの首元を撫でて少し落ち着くと、ブランカの瞳を真っ直ぐ見た。
ブランカが、マリサにとって有意義な話をしようとしているのかどうかはわからない。
妹がいたら、こんな感じだろうかと思ったりもしたが、打ち解けることはなさそうだ。
例え為になる話だとしても、マリサはその話には乗りたくないと思うのだった。
第一、あの時、メイド長のアンナ以外を部屋から退出させたライアンが話したとは考え難い。もしそう
だとしても、ブランカから聞くのではなく、直接ライアンに確認をすればいい。
『なんのお話が、想像だにしませんが、ライアン様より、曾おばあさまのお話を伺っております。なんでも、私と同じ、光の魔法の使い手でいらっしゃったとか……』
ブランカの瞳が一瞬細められた。
『……まあ、女神様の申し子であらせられた、マリア様と同じと?』
言いながらクスッと笑う。
『いいえ、滅相もございません。魔法の種類が、ただ、同じというだけです。ですが、そのお話を伺った時、とても励まされたのです』
『マリサ様も、女神様の申し子だと、村人や施設の子ども達の間で評判でしてよ?』
その時、教会の方から、モモが駆けて来た。
『あっ、ブランカ先生ー、しさいさまがおよびです!』
『はい、今行くわ』
モモに向いて返事をすると、ブランカは振り返リ様に軽く会釈をして言った。
『改めまして、この度のご協力、心より感謝申し上げます』
そこで肩を落とし、はあーっと大きく溜め息をついて続ける。
『ですが……、その、オオカミ犬を、とうとう繋いで下さらなかったのには、呆れましたけれど。お帰りになるまで、どうぞしっかりと管理してくださいね。それでは、失礼しますわ』
呆気に取られてブランカの後ろ姿を見ていると、シロリンの楽しげな声が、『ワフワフ♪』聞こえてきた。
『きゃははっ、シロリンちゃん、くすぐったーい!』
気がつけは、シロリンとモモがじゃれ合っていた。
『モモちゃん、こんにちは』
『うふふっ、マリサおねえさん、こんにちは!』
『ワフワフ、オフオフッ!』
モモは、へそ天で転がったシロリンのお腹のもふ毛に埋もれて、くしゃくしゃの顔で笑っている。
『お姉さんも混ぜて!』
考えるのはやめよう、そう決めて、マリサはシロリンとモモに抱きついたのだった。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




