32 シロリンと一緒に② ~四日目
※回想の中で魔物についてちょっぴりリアルな記述が出てまいります。苦手な方や、お食事時等はご注意ください。
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「くぅ~っ、全身酷い筋肉痛だよぅ……」
テント脇で眠るシロリンの首元に、マリサは顔を埋めながら嘆いていた。
「ウッフ、ワフゥ……」
シロリンの寝言がなんともかわいい。ツヤツヤのもふ毛は、最上級のシルクとカシミヤの混紡のようだ。
マリサは自前の洋服に着替えて、緊張感から少し解放されたところだった。
そういえばと思いつき、「いたたっ」と呻きながらシロリンのステイタスを確認する。
『S・魔獣(進化確率15%) イヌ科・?(幼体) サイズ・? 強さ・-S 色・シルバーホワイト&ブルー』
「まだ幼体なのね」
お座りをすれば、身長164cmのマリサと同じくらいの位地に顔が来るほど大きいが、まだまだ大きくなるのかもしれない。
「よし、どんとこいだよ」
マリサは、シロリンがどんなに大きくなっても、しっかり育てるつもりだった。
「あれ? 何も変わってないと思ったけど、進化の確率が五パーセント上がってる」
おおーっと目を輝かせて、マリサはシロリンをそっと撫でた。
やはり、今夜はシロリンと一緒にいたいとしみじみ思ったマリサは、このままここで夜を明かすことにしたのだ。ロバジイに借りたテントが、殊の外快適だったのも大きい。
テントは、アイテムボックスに入っているペラペラの「簡易テント」とは空間の広さもさることながら、質に天と地の差があった。生地の厚みも丈夫さもあり、魔物避けの護符まで付いているのだ。
シロリンがいれば、態々魔物の方からは近付いてこない。だが、今回のように身体も精神も毒にやられ、前後不覚に陥った魔物の場合はその限りではない。
(魔物の精神にも影響するなんて、毒って怖い。殆どが凶暴化して興奮状態だったもの……)
マリサは、アリ型大型魔物の野太い脚に毛が生えていたのやら、討伐後の様々な魔物の残骸やらを思い出して、げんなりした。
護符は、魔物が凶暴化していようが毒に犯されていようが、込められた魔法により、シールドを張ったようにテントに近付くことが出来ない。避けて迂回してしまうのだ。それは、テントの半径数メートル先まで有効だという。
改めて、ロバジイに感謝するマリサだった。
「それはいいとして、さっきは、失敗しちゃったなぁ……」
ついさっき、やってきたケビンに、もう交代は必要ないと伝えたところ、ケビンもテオもロバジイまでもが、外でテントを張ることにしたと言われたのだ。
「それって、私がテントに残ることを予想されていたりして?」
次いで、明日の朝からの任務についてライアンと出来れば話をしたいと告げたところ、
『それなら丁度いい。俺にも報告があるんだ』
と言うなり広場へ行ってしまったのだ。
「ライアン様は、休む間もなく食事も早々に広場に行かれたんですって……」
シロリンに話しかけるが、本犬はプスプスとかわいい鼾をかいてまだ眠っている。
隊が粗方魔物を討伐しているといっても、完全ではないと注意喚起がされている状態だ。ケビンは一人で大丈夫だろうかと心配になるマリサだった。
「私が行くって言えばよかった……」
なんて呟いたものの、酷い筋肉痛の上、ここまで辿り着くのに大変だったことが頭を過った。
「ひででっ……」
背筋を伸ばし天を仰いで思わず顔をしかめる。
こむら返りはするわ、足の裏はつるわ、腕も肩も腰も痛むわで、着替るのも大変だったのだ。
ぽこっと新マリサと真面目マリサが顔を出す。「今あなたが動いたら、迷惑になるだけだからね」「全くの同意よ。たとえシロリンちゃんと一緒でも、足を引っ張りかねないわ」
(はい、可能性しかないシロリンと比べたら失笑ものですが、運動能力も伸び代も何もないです……)
「シロリン、初めての討伐なのにもかかわらず、大活躍して疲れちゃったのね。……ううっ、すまぬ……」
自分のステイタスをマリサはちゃんと見ていなかった。いや、見ても楽しくないことは分かっているのでスルーしてしまった。
「レベル5」と表示されていたのだけは確認したのだが……。
(シロリンにもレベルってあるのかな? 植物やなんかには無いみたいだけど……)
マリサは足腰をさすりつつ、もう一度シロリンのステイタスを確認する。
(もしかして……)
PCのディスプレイのような四角い画面を、指でスクロールしてみる。
「あ、あった」
『名前・シロリン レベル・10 攻撃力・500 体力・500 防御力・500 瞬発力・500 スキル・爪刃 威嚇(敵を蹴散らす) 遠吠え(敵をフリーズさせる) 土魔法(土木) 水魔法 身体強化 物理攻撃回避率50% 魔法攻撃回避率50% 備考・大好き=「マリサ」』
「うおうっ!」
大好き=「マリサ」の記述に、マリサは筋肉痛を忘れ立ち上がると、両手を胸の前で握り天を仰いだ。
キラキラキラキラキラキラ……。
生まれて初めて世界が輝き、リンゴーン、リンゴーン……と、清らかな鐘の音が響き渡るような瞬間だった。
呪文も唱えないのに、マリサを中心に浄化の光のヴェールが、大輪の花が綻ぶように村全体に広がって行った。
教会のドアが開き、出てきたロバジイが、「よう、嬢ちゃん」と、声をかけた途端に腰を抜かして尻餅をついた。
「うわああっ!」
「ひえぇぇっ!」
見張りの二人は、のけ反ったりわたわたと慌てふためいている。
「あ、ロバジイ」
蕩け切った顔でシロリンを見ていたマリサは、ロバジイに気付いてにっこりする。
「おいおいおい……」
呆れ顔のロバジイにマリサは首を傾げた。
「……フワゥワフ?」
ようやく目を醒ましたシロリンも首を傾げてロバジイを見た。
「まーだ世界がキラキラしてやがる……やれやれだな」
と首を振り、ガハハッと笑うロバジイに、マリサは「そうだ」と思い出す。そして、明日の農地視察について相談しようと頷いた。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです▽•ﻌ•▽




