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2 箱庭?生活一日目

初投稿作品です。

数話続けてアップする予定をしています。

 気がつけば、荒れ地に佇んでいた。

 ここは誰? 私はどこ?

 くらいに、マリサは自分の置かれている状況がまるで分かっていなかった。

 だが直感が、ここは日本じゃない、地球じゃない、別の世界だと本能に訴えかけていた。

だから無理やり、これは、やけにリアルな夢なのだとマリサは自分に言い聞かせて、荒れ地に一本だけ立つ青い実をつけた木の根本で、


「夢の中だけど昼寝してみよう」

と横になってみた。


 小一時間くらい眠って、目を覚ましたマリサは呆然となった。

 自分ががいる場所はやはり荒れ地で、朝の太陽が昇って昼近くになっていただけだったからだ。


(私、知らない間に命が尽きて地獄に落ちたとか? どう見ても天国ではなさそうだもの。何故、何、なんなのこれ?)


 マリサは底知れない恐怖と焦りで、息がうまく吸えなくなり、ガハガハッと、オヤジみたいに咳き込んだ。

 なぜ自分がここにいるのか、全く覚えがないのだ。


(なにこれなにこれなにこれ……)


 うろうろと獣のように辺りを行ったり来たりするが、状況は何も変わらない。

 何度往復し、何分、何十分思考が飛んでいただろう。

 汗が吹き出し、いい加減疲れてきて、ぱたんとその場に座り込むと、両手で両頬をパシッと打つ。

 考えたらダメだと悟り、気持ちを奮い立たせる。


(息苦しくなったり、汗が出る、疲れるってことは生きてる証拠だわ。生きるにはまず水ね。そうだ周囲の探索だ。歩けばいい案が浮かぶこともある!)


 半ば強引に思考をポジティブに持っていって、遠くに見える森をめがけて、ずんずん歩き出した。


「第一村人と遭遇するかもしれないしね」


 森に入ると、心細げな獣道があるだけで、人の気配はまるでなかったが、ここで引き返すわけにはいかなかった。

 喉が無性に渇いていた。


「がんばれ、マリサ二十八歳!」


 再び気持ちを奮い立たせるように声を張り上げてみる。

 虚しさに泣きそうになるが、泣いたらより身体が干からびかねないので、ぐっと堪えた。

 ふと、自分が方向音痴なのを思い出したマリサは、慌てて周囲を見回した。

 まだ森の入口から離れていないことが分かり、ほっと胸をなでおろす。


 マリサは足元の小石を拾うと、近くの木の幹に×を記した。

そうして数十歩進む毎に、木の幹に×を付けて行った。

 ちょっぴり休憩に立ちどまって、ふぅーっと息をつくと、少し先で、


 ザワザワワサササ……。

と木々がゆれた。


(うえっ、こ、ここ、ファンタジー系の剣と魔法の世界とかで、森に魔物がいたらどうしよう。マジしんじゃうじゃん!)


 冷や汗をこめかみに浮かべてへたりそうになりながら、キョロキョロと辺りを見回す。


(喉が渇いてお腹へって干からびるのが先か、魔物とか、獣とか、おっかない人に襲われるのが先か……。わーん、どっちもやばすぎるぅ!)


 ぶんぶんぶんっ。


 頭をふって三度気持ちを奮い立たせ、涙をちょちょぎらせながら、ぐずぐずと鼻を啜りながら、


「水め、出てきなさいー」

と言っては幹に×を記し、


「森の神様とか精霊様とかがいらしたらお願いします。川とか池の場所に導いてくださいませ」

木に縋り付きながら×を打ち、


「こっちはのどかわいてんだっ!」


 水場が見つからないことに段々イライラしてきて、指に力が入りすぎて叩き付けるように×を刻み、やさぐれ度マックスで歩き続けた。


 虚勢を張っていないと怯みそうになるのもあった。

 そうこうして暫く行くと、とうとう水の音が聞こえてきた。


「うおおおお……、天は我を見棄てなかった!」


 清涼な小川の流れに向かって駆け出すマリサは、十キロくらい歩いたかと考えていた。

 実際は僅か三キロほどだったのだが……。

 川の水は澄み渡っていたが、一抹の不安が過る。


(飲めるかなあ……。妙な細菌とか寄生虫とか、ううう……どうしよう……)


 煮沸する術はない。道具も何ももっていない。

 マリサは迷いに迷って頭をぐるぐると、文字通り振り回す。

 喉が渇いて干からびて絶命するか、お腹をぶっ壊して苦しみこと切れるのか……。


 真面目で優等生タイプだった自分が頭の中で、「飲むな~飲むな~」と念仏のように呟き続けている。

 そうだ、リスクは避けるべきなのだ。

 だがそれは、何事もマニュアル化された文明社会で生活していてこその理屈だ。

 眠っていたもう一人の自分がむっくりと起き上がり、抗議するように叫ぶ。


「本能で生きろ」

と。


 喉が渇きすぎていたマリサは、もう一人の自分の意見に飛びついた。

酷い渇きを癒すことを選択した。


「よし、もし汚染があったら浄化!」


 そう川に手をかざして念じてみる。


(…………。)


 赤面して己の行為を振り払うように、頭ごと川にダイブする勢いで突っ込んでしまうマリサだった。


「ごほっげほっ、ごほっ、けほけほっ……」


 咳が静まるまで水が飲めなくなり、内から笑いがこみ上げてくる。


(もうっ、いくつよ自分。落ちつきなさいよ、全く)


 ごくっごくっ……。


 今度はちゃんと両手で掬って、口を近づけてゆっくりと水を飲む。

 ほっと一息つくと、耳を澄ませる。

 時折通り過ぎる風が、微かに木の葉を揺らしていく。

 おそらく小動物のものだろう小さな響き、小鳥の囀りくらいで、殺気を孕むような気配はなさそうだった。


 優等生の自分が「早く戻りなさい」と急き立て、もう一人が、「さっぱりと汗を流そう」と提案する。

 身体中かなり汗をかいていて、気持ちが悪い。マリサは優等生をまあまあと宥めて、えいやっと服を脱ぎ捨てていく。


(誰も見てない。っていうか、見てたら許さない!)


 冷たいのを覚悟してザバンと全身川に浸かると、身体が火照っていたせいか、気持ちが良いくらいだった。

 そうはいっても体温よりぐっと低い温度だ。身体が冷え切ってしまう前に、急いで全身と頭も洗ってしまう。


 拭くものが何もないのは、なんとも心許ないものだった。

 マリサはうーむと考えて、コットン素材のキャミソールで身体を拭くことにする。

 元いた世界は春で、この世界は日本の五月くらいのぽかぽか陽気だった。上半身は、下着の上にシャツもカーディガンも着ていたため、キャミソールを着なくてもいいくらいだった。


 さっぱりして生き返ったマリサは、身体を拭いたキャミソールを洗ってから、元来た道の木の印を頼りに戻って行った。



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