旅立ちの時
鉱物船の完成も間近となったある日、鉱山の奥でベイダーたちが乗って来たと思われる大きな飛行船のような物が見つかった
一部破損してはいるが、まだ動くようだった
そこで、ある一つの懸念が生まれた
もし、この星を脱出しても、また別の星までベイダーたちが追ってくるのでは?
宇宙間を移動して、ライラ星に来たのだから永遠に終わらない悪夢の追いかけっこが続くのでは?
その日からライラ星人たちの間で、果てしない議論が繰り返された
意見は大きく二手に分かれた
脱出の際に、ライラ星を星ごとベイダー諸共、破壊するという過激派グループ
ベイダーたちが乗って来た飛行船だけを破壊するという穏便な意見のグループ
ストークを使えるようになったベイダーたちが、新たに船を造りまた別の星に侵略する未来は予測がつくという過激派の意見
自分たちの故郷の星が無くなってしまったら、帰る場所が何処にもないという穏健派の切なる思い
アーリンは過激派の意見に賛成だった
自分たちが愛する故郷の星を追われて出て行かなければならないのなら
美しい星をベイダーたちに乗っ取られ汚されるくらいなら
何よりベイダーたちへの憎しみが
平和な生活を奪われ、仲間を殺され、安住の地を明け渡す苦しみ、悲しみが
アーリンを復讐の思いへと駆り立てた
アーリンと同じく、赤い髪のライラ星人たちは皆過激派だった
自分たちの一族が執拗に狙われ襲われたことも要因のひとつではあったが、ストークが強く敏感な彼らは、日毎にストークを増すベイダーたちの脅威を認識していたからだ
穏やかに優しさだけでは生きていられない日々が、ライラ星人たちを変えた
自分たちの身を守るために、ベイダーたちの命を奪うこともあった
護身用の道具を作り、防護壁を築いた
湖の湖面のように、澄んで凪いでいたライラ星の人々の綺麗だった心は、恐怖と悲しみ、不安、絶望が渦巻いて変わり果ててしまった
アーリンに起こった変化のように、真っ暗な心の底に、怒りや憎しみが沸々と生まれてきて、光に充ちていた心を支配するようになった
そして、皮肉なことに野蛮で残虐、凶暴なベイダーたちに知性が生まれていた
ライラ星人たちのストークを手に入れ、叡智の力を知り、秩序や物事の道理を理解し始めた彼らは、少しずつ文明社会のような暮らしを築き上げていた
いよいよ脱出の日が差し迫り、ライラ星の未来は過激派グループの方針を選択することとなった
半ば強引に過激派の意見を押し通すような形となった
実際のところ、ストークが強い過激派が計画を実行する役割を担うのだから、穏健派が抵抗して反対したとて無駄だった
力の強いものが、意見をコントロールする
まるでベイダーたちのように
無理矢理押さえつけて、従せ支配する
ライラ星人どうしで言い争いになったり、怒りをぶつけ合うこともしばしば起こった
仲間たちは分裂し、別々の船に乗ることになった
穏健派を先に脱出させて、充分安全圏まで移動してから過激派が最後の仕事をして脱出する
アーリンは一番最後のライラ星を破壊する役目を買って出た
自分の手で終わらせる
侵略者の好きにはさせない
アーリンと共にストークに長けている仲間たちが最終段階計画実行役に選出された
鉱物船は遂に完成し、穏健派は船に積む食糧や水の確保を中心に働いた
アーリンたち過激派は、鉱山の地中深くから星の深部へと続く鉱脈のクリスタルにストークを充填し、爆発の連鎖を意図的に引き起こす装置のようなものを作りエネルギーを集中して送り続けた
充分な水と食糧を積み、今にも膨張して爆破が起こりそうなほどクリスタルのエネルギーの充填も完了した
半分程に減ったライラ星の人々も船に乗り込み、出発の時を迎えた
別れの挨拶をしてハグを交わし、お互いの無事を、再会を祈り合った
皆、ほぼ何も持たず身ひとつで星を後にする
アーリンも、あの日からずっと着けているクリスタルの髪飾りだけ持って脱出する
ライラ星の美しい湖も山々も薄桃色の空も持っていけない
もう二度と帰れない故郷の光景を目に焼き付けて、皆涙した
過激派グループの仲間たちだって、故郷を失いたくなんてない
苦渋の決断だった
愛する気持ちが強く大きいからこそ、選んだ道
決して忘れない、この美しい星での日々を、仲間たちと過ごした想い出を
何億光年離れても、永遠に忘れない
全てが完了して、穏健派の船の脱出が開始された
飛び立つ飛行物体に、ベイダーたちが騒ぎ出した
計画通りだ、さあ、来るがいい
アーリンたち最終段階実行役以外の過激派も皆、後発の船に乗り込み、出発するばかりだ
鉱山の方へとベイダーたちが動き出した
アーリンたち専用の小型船を残して過激派の船も飛び立った
行け!自由になれ!ライラ星人の旅立ちの時だ
私たちの星は、私たちライラ星人と共にある
なぜか興奮して笑いが込み上げてくるアーリンは、高らかな笑い声を上げた